『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

居場所における感染防止対策(アフターコロナにおいて場所を考える-08)

少し前になりますが、大阪市東淀川区の市営下新庄4丁目住宅(以前は府営下新庄鉄筋住宅)にある「下新庄さくら園」という居場所(コミュニティ・カフェ)を訪問しました。大学院の頃から調査などでお世話になってきた場所です。

「下新庄さくら園」は、大阪府が府営住宅に設置している「ふれあいリビング」の第一号として2000年5月15日にオープン。市営下新庄4丁目住宅の住民をはじめとする人々がボランティアでスタッフとなり、20年間の運営が継続されてきました*1)。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、各地の居場所の中には運営を休止したり、閉鎖されたりしている場所があり、「下新庄さくら園」も数ヶ月は運営を休止されていたようです。しかし、「下新庄さくら園」は7月13日から運営を再開されたとのこと。運営時間は月曜〜金曜の10時半〜16時と変更はないようです。

「下新庄さくら園」ではそれぞれの日の運営を担当するスタッフがいます。この意味で、主客の関係は存在していますが、「下新庄さくら園」でオープンから大切にされてきたのは主客の関係を緩やかなものにしておくこと。もう15年以上前になりますが、初代運営委員長の方から次のような言葉を伺いました。

「「ふれあい」いう言葉、色んなことで使われてんのね、福祉の。ここの「ふれあい」はまたちょっと違うと思うの。遊びじゃないし、・・・・・・、身体と身体の「ふれあい」じゃなくて、手をつなぐとかじゃなくって、会話を通じてふれあっていく。それと、世話する人と世話される側とが、ひとつ、どっちも上下なしね、ほんとにお互いがふれあってますのでね。・・・・・・。毎週とか月に1回とかだったらね、ここまでできないよ。」

「世話する人と世話される側とが、ひとつ、どっちも上下なし」であること。この日もスタッフも来訪者も一緒になって話をし、笑い声があがる光景は以前と変わらず、懐かしい気持ちになりました。

この日、1時間ほど滞在していて感じたのは、男性の割合が多いこと。1時間ほど滞在している間に、4人の高齢の男性が出入りされました。みな1人でやって来られ、1人でテーブルに座られました。けれど、ずっと1人で過ごすのではなく、後ろを振り返ってスタッフや他の来訪者と話をして過ごす光景も見られました。
各地のコミュニティ・カフェの中には、来訪者の大半を女性が占めている場所もあるようですが、「下新庄さくら園」は男性でも、1人でふらっとやって来て過ごせる場所になっていることがわかります。

「下新庄さくら園」では感染防止対策として、来訪者に対して次のような案内がなされています。

  • 体調が悪い時は、来訪するのを控えること
  • (飲食しない時は)マスクを着用すること
  • 入口に設置した消毒液で手を消毒すること(※入口には非接触式の体温計も設置)
  • 密を避けるため、座席を制限していること
  • 大きな声での会話を控えること
  • 満席の場合は、席を譲ること

テーブルと、カウンター前には透明のパーティションが設置されています。話を伺って興味深かったのは、このパーティションは住民の4〜5人の男性が手作りで設置してくれたものだとのこと。以前は透明のテープを貼ってパーティション代わりにしていたが、設置するのが大変だったとのこと。そこで、住民の男性が材料を買い、加工して、設置してくれたという話でした。
「下新庄さくら園」は日々の運営を担当するボランティアのスタッフに加えて、多くの人々の協力によって支えられていることがわかります。

新型コロナウイルス感染症はまだ完全に解明されていないため、現時点でどの程度まで感染防止対策をすればよいのかという正解はないのだと思います。ある場所の感染防止対策が不足しているとか、過剰であるという批判もできないと思います。こうした中で、感染防止対策を多様な人々の関わりの機会にしていく/機会になっていることは、居場所において非常に重要だと教えていただきました。


新潟市東区の「地域包括ケア推進モデルハウス」の「実家の茶の間・紫竹」でも、感染防止対策を多様な人々の関わりの機会にすることが意識的に取り組まれています。

「実家の茶の間・紫竹」は新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、2020年2月24日を最後に運営を自主的に休止されましたが、その後、6月1日から運営が再開されています。運営再開後、当面の間、運営時間は毎週月・水曜の午前(10~12時)・午後(13~15時)の2時間ずつとされ(昼食の提供はなし)、参加費は200円とされています。

「実家の茶の間・紫竹」では大切にされていることが、「ここにはサービスの利用者は一人もいない。いるのは“場”の利用者だけ」*2)と表現されています。誰もがサービスの一方的な受け手ではなく、自分にできる役割を通して、「実家の茶の間・紫竹」という場を作りあげる当事者になることですが、感染防止対策においてもこのことが大切にされています。

「今回のコロナでは、皆さんの行動が制限されていくことがないように気をつけました。感染を恐れて、今までの役目や得意なことを取り上げるのではなく、手洗いなどの予防をしっかりすれば今まで通りやっていいんですよ、と。例えば、再開したときにおやつのお菓子を飴に変えたんです。飴なら口に入れるとき以外はマスクをしていられるからですが、お一人分ずつ袋に入れてリボンで口を縛るという作業が出てきて、それでまた一つ参加者の出番を増やせた、なんていうこともありました。」*3)

上に書いた通り、現時点でどの程度まで感染防止対策をすればよいのかという正解はないと思います。しかし、誰か(運営者)が一方的に決めた感染防止対策に、来訪者を含めた他の人が従うだけというのでは、運営者とお客さんという関係が固定化し、居場所は限りなく施設に近づいてしまう。
そうではなくて、感染防止対策もまた、様々な人々がアイディアを出したり、自分にできる役割を担える貴重な機会と捉えること。これを通して、より多くの人々を巻き込んでいくこと。これこそが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大前から変わらぬ居場所の可能性だと考えています。


  • 1)2018年度末時点で43の府営住宅に「ふれあいリビング」が開かれている。大阪府『大阪府営住宅ストック活用事例集 2019年度版』2019年
  • 2)河田珪子『河田方式「地域の茶の間」ガイドブック』博進堂, 2016年
  • 3)河田珪子「「実家の茶の間・紫竹」再開への思いと絆」・『さぁ、言おう』さわやか福祉財団, 2020年7月

※「アフターコロナにおいて場所を考える」のバックナンバーはこちらをご覧ください。