アメリカ東海岸のメリーランド州では、2020年3月5日に初めて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者が見つかりました。これを受け、同日、メリーランド州知事が非常事態を宣言しました。
その後も感染者数は増加し、3月23日には「基幹的でないビジネス」(Non-Essential Businesses)が閉鎖。
そして、3月30日には外出禁止令(自宅待機命令)が発令されました。
日本では外出禁止令の表現が用いられますが、メリーランド州の知事令で用いられている表現はStay-at-Home(ステイ・アット・ホーム)であり、日本語訳としては自宅待機命令の方が近くなっています。また、Shelter-in-Place(シェルター・イン・プレイス)の表現が用いられている州もあります。外出禁止令と自宅待機命令とでは、「外に出る」ことを禁止するか、「内に居る」ことを命令するかというように視点が異なるため、日本ではアメリカの自宅待機命令の状況がニュアンスを持って受け止められているかもしれません。
そこで、アメリカの状況をお伝えするため、ここでは3月30日付のメリーランド州知事令をみることで、自宅待機命令の下ではどのような外出が許可されているかをお伝えしたいと思います*1)。
1)以下はメリーランド州知事令第20-03-30-01号「AMENDING AND RESTATING THE ORDER OF MARCH 23, 2020, PROHIBITING LARGE GATHERINGS AND EVENTS AND CLOSING SENIOR CENTERS, AND ALL NON-ESSENTIAL BUSINESSES AND OTHER ESTABLISHMENTS, AND ADDITIONALLY REQUIRING ALL PERSONS TO STAY AT HOME」(March 30, 2020)の翻訳である。
目次
メリーランド州の自宅待機命令(Stay-at-Home Order)
II.自宅待機命令(Stay-at-Home Order)
(a)メリーランド州に住む全ての人は、以下を除いて自宅(home)または居住地(places of residences)(以下、自宅(home))に滞在することをここに命じられる。
(i)不可欠な活動(Essential Activities)(以下に定義)を実施、または、参加すること。
(ii)以下のIV項、または、V項により閉鎖が求められないビジネスおよび組織のスタッフおよびオーナーは、以下の場合に移動することができる。
1)自宅と、ビジネスおよび組織の間を往復すること。
2)商品の配送やサービスの提供のために、顧客との間を往復すること。
(iii)基幹的でないビジネス(Non-Essential Businesses)(以下に定義)のスタッフおよびオーナーは、以下の場合に移動することができる。
1)最小限の業務を従事するために、自宅と基幹的でないビジネス(Non-Essential Businesses)の間を往復すること。
2)商品の配送のために、顧客との間を往復すること。
(b)ここで用いている不可欠な活動(Essential Activities)とは次を意味する。
(i)自分自身、家族、世帯員、ペット、家畜のために、必要な物やサービスを入手すること。これには食料品、家庭で消費・利用する用品、在宅勤務に必要な用品や機器、ランドリー、自宅や居住地の安全、衛生、不可欠なメンテナンスに必要な製品などが含まれる。
(ii)自分自身、家族、世帯員、ペット、家畜の健康と安全のために不可欠な活動に従事すること。これには医療、心身の健康、救急サービスを求めること、薬や医療品を入手することなどが含まれる。
(iii)家族、友人、ペット、家畜を、別の世帯または場所でケアすること。これには不可欠な健康と安全活動のために家族、友人、ペット、家畜を輸送すること、必要な用品やサービスを入手することなどが含まれる。
(iv)食事や遠隔学習のための教材を受け取るために、教育施設との間を往復すること。
(v)ウォーキング、ハイキング、ランニング、自転車などアウトドアエクササイズに従事すること。ただし、以下のIII項、および、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)やメリーランド州保健局(MDH)による該当するソーシャル・ディスタンシングのガイダンスを遵守する場合に限る。
(vi)法執行機関または裁判所命令により求められる移動をすること。
(vii)必要な目的のために、連邦政府、州政府、地方自治体の建物との間を往復すること。
III.10人以上の集会の禁止
(a)10人以上の社会的、コミュニティ、精神的、宗教的、レクリエーション、レジャー、スポーツの集まりやイベント(以下、大規模な集まりやイベント)は、パレード、お祭り、集会、ファンドレイザー(資金獲得の催し)をはじめ、あらゆる場所で禁止されている。
(b)計画されている大規模な集まりやイベントは、非常事態が終了し、健康上の非常事態の宣言(proclamation of the catastrophic health emergency)が取り消されるまで、中止または延期しなければならない。
IV.基幹的でないビジネス(Non-Essential Businesses)の全体的な閉鎖
(a)この命令は、アメリカ合衆国国土安全保障省のサイバーセキュリティ・インフラストラクチャーセキュリティ庁(Cybersecurity and Infrastructure Security Agency)によって特定された重要インフラ部門(現在はhttps://www.cisa.gov/identifying-critical-infrastructure-during-covid-19に記載されている。以下、基幹的でないビジネス)に含まれない全てのビジネス、組織、施設の収容と利用を規制するものである。
(b)IV-c項の規定により、全ての基幹的でないビジネスは一般市民に開放してはならない。
(c)スタッフやオーナーは、以下の場合(以下、最小限の業務)にのみ基幹的でないビジネスの敷地に継続して立ち入ることができる。
(i)他のスタッフによるリモートワーク(テレワーク)のファシリテート。
(ii)不可欠な財産(essential property)の維持。
(iii)生鮮品の腐敗防止をはじめとする、財産の損失または損害の防止。
(iv)郵便物の受け取りや給与計算処理をはじめとする不可欠な管理業務の遂行。
(v)生きた動物の世話。
(vi)小売施設の基幹的でないビジネスの場合、配達ベースでの小売製品の販売継続。
(d)V項、メリーランド州知事の他の命令、または、政治の下位部門の他の命令によって閉鎖が義務付けられた全てのビジネス、組織、施設は、場合によっては、V項またはそのような命令に基づいて閉鎖され、および、閉鎖され続けなければならない。
V.特定のビジネス、組織、施設の閉鎖
(a)シニアセンター
全ての高齢者活動センター(「Section 10- 501(i) of the Human Services Article of the Maryland Code」で定義されている)は、非常事態が終了し、健康上の非常事態の宣言(proclamation of the catastrophic health emergency)が取り消されるまで、閉鎖し続けなければならない。
(b)レストランとバー
(i)この命令はメリーランド州内のレストラン、バー、および、敷地内で消費する飲食物を販売する他の類似の施設(以下、レストランとバー)の収容と利用を規制するものである。この命令はレストランとバーの定義から明示的に除外される医療施設(health care facilities)での飲食サービスには適用されない。
(ii)全てのレストランとバーは一般市民に開放してはならない。ただし、該当する法律で認められる範囲内で、MDH(Maryland Department of Health:メリーランド州保健局)によるソーシャル・ディスタンシングの推奨に従って、
(1)飲食物が速やかに敷地内から持ち出される場合、つまり、テイクアウト(carry-out)やドライブスルーで、飲食物を販売することができる。
(2)敷地外の顧客に飲食物を配達することができる。
(c)フィットネスセンター
(i)この命令はメリーランド州内のフィットネスセンター、ヘルスクラブ、ヘルススパ、ジム、スイミングプール、および、護身術の学校(self-defense schools)(以下、フィットネスセンター)の収容と利用を規制するものである。
(ii)全てのフィットネスセンターは一般市民に開放してはならない。ただし、免許を受けて、あるいは、該当する法律、規制、命令に基づいて託児サービスを提供しているフィットネスセンターの部分は、その託児サービスを継続して提供するために、一般市民に公開することができる。
(d)劇場
(i)この命令はメリーランド州内の、ライブパフォーマンスが行われたり、映画が上映されたりする場所(以下、劇場)の収容と利用を規制するものである。
(ii)全ての劇場は一般市民に開放してはならない。
(e)モール
(i)この命令はメリーランド州内の、1つ以上の閉鎖型の歩行者用コンコースを有するショッピングセンター(以下、閉鎖型モール)の収容と利用を規制するものである。
(ii)閉鎖型モールのうち、以下の部分は一般市民に開放してはならない。
1)一般市民に開放されている、フードコートを含む歩行者用コンコースおよび他の屋内の共有エリア。
2)閉鎖型の歩行者用コンコースや他の内部空間からしかアクセスできない小売施設。
(iii)V-e項は、屋外から直接アクセスが可能な、閉鎖型モールに接続する小売施設の閉鎖を求めるものではない。
(iv)V-e-ii項に関わらず、地方自治体は閉鎖型モールの以下の部分への一般市民によるアクセスを承認することができる。
1)(a)主に食料品や薬を販売している小売施設、(b)認可を受けた専門家がヘルケアサービスを提供している小売施設。
2)歩行者用コンコース、および、その他の屋内の共用エリア。ただし、一般市民がV-e-iv-1項に記載されている小売施設にアクセスするために必要な範囲に限定される。
(f)他のレクリエーション施設
(i)この命令はメリーランド州内の、以下の施設(以下、レクリエーション施設)の収容と利用を規制するものである。
1)ビンゴホール。
2)ボーリング場。
3)ビリヤード場。
4)遊園地。
5)ローラースケート場、および、アイススケート場。
6)全てのゴルフコース(公設・私設)、ミニチュアゴルフ場、ゴルフ練習場。
7)アメリカン・リージョン・ポスト、VFW(Veterans of Foreign Wars)ポスト、エルクスクラブ(Elks Clubs)をはじめとする社交クラブ、友愛クラブ。
8)キャンプ場
9)上に記載されていない他の施設で、「Title 4 of the Tax-General Article of the Maryland Code」に基づく入場・娯楽税(admission and amusement tax)の対象になる施設。
(ii)全てのレクリエーション施設は、2020年3月30日17時より、一般市民(施設クラブの場合は会員を含む)に開放してはならない(以前の命令により閉鎖されている場合は、閉鎖されたままにする)。
(g)他の多様な施設
(i)この命令はメリーランド州内の、以下の施設の収容と利用を規制するものである。
1)タトゥーパーラー。
2)日焼けサロン。
3)散髪屋
4)美容室、および、エステサービス、ヘアサービス、ネイルサービス(「Title 5, Subtitle 2 of the Business Occupations Article of the Maryland Code」に記載されている)を提供する他の施設
(ii)上記のV-g-i項に記載されている施設は一般市民に開放してはならない。
VI. 特定の除外
(誤解を避けるために記す)
(a)この命令は、以下のいずれかの業務に関連して、閉鎖したり、あるいは、スタッフやボランティアの移動を禁止したりすることを求めるものではない。
(i)連邦政府、州政府、地方自治体の部門、建物、施設。
(ii)新聞、テレビ、ラジオ、あるいは、他のメディアサービス。
(iii)ホームレスのシェルター、フードバンク、食糧配給所をはじめとする低所得の人々に不可欠なサービスを提供する非営利団体または施設。
(b)この命令のII項は、以下には提供されない。
(i)家庭内暴力(DV)の被害者など、自宅や居住地が安全でなくなった人
(ii)政府やその他の団体には、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)およびMDH(メリーランド州保健局)のソーシャル・ディスタンシングのガイドラインに沿った方法で、可能な限り最大限にホームレスがシェルターを利用できるようにすることが強く推奨される。
VII.大人数が利用・出席する政府の建物や施設
(a)10人以上の利用・出席が予想される州や地方自治体の建物や施設は、以下の条件を満たさなければならない。
(i)建物や施設内に、ソーシャル・ディスタンシングに関するMDH(Maryland Department of Health:メリーランド州保健局)の推奨のコピーを即座に、目立つように掲示する。
(ii)利用者と出席者全員が手洗いできるようにする。
(b)10人以上の利用・出席が予想される州や地方自治体の建物や施設において、全ての利用者と出席者がこの命令の写しを閲覧できるようにしなければならない。
(翻訳ここまで)
この知事令の違反者には、1年未満の禁錮刑、もしくは、5,000ドル未満の罰金、またはその両方が科される可能性があるとされています。
なお、メリーランド州では2020年5月15日の17時から、自宅待機命令(Stay-at-Home Order)が解除され、自宅待機に関する勧告(Safer-at-Home Public Health Advisory)に移行しています。
(更新:2020年10月2日)