新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染防止のため様々な施策が行われています。ここで紹介するのは、アメリカ東海岸のメリーランド州(ワシントンDCに隣接する州)の動きです。
メリーランド州では新型コロナウイルス感染症への対応として、2020年3月23日に「基幹的でないビジネス」(Non-Essential Businesses)の閉鎖措置が発表されています。この閉鎖措置から除外される「基幹的なビジネス」(Essential Businesses)は連邦政府のガイドラインに準拠し、具体的な業種は州知事オフィスのガイドラインで説明されています。以下では、州知事オフィスのガイドラインに掲載されている「基幹的なビジネス」をご紹介したいと思います*1)。ここからは、社会を成立させるのに欠かせないビジネスとして、どのような業種が想定されているかが浮かびあがってきます。
メリーランド州ではどのような業種が「基幹的なビジネス」とされているかの情報を共有することで、何らかの参考になればと考えています。
以下で見るように、アメリカでは閉鎖措置が適用される業種/適用されない業種がガイドラインによって明確に定められているのに対して*2)、日本では個々の会社や個人が政府からの要請を受けたり、世間の目に対応したりすることで「自粛」しているという大きな違いがあります。ただし、日本とアメリカでは状況が違うため、アメリカの方が優れていると主張したり、アメリカの真似をした方がいいと主張したりすることがこの記事の目的ではありません。
- 1)「基幹的なビジネス」の業種は、連邦政府のガイドラインに準拠するため州によって大きな違いはないと思われるが、個別の業種は州により異なる可能性がある。
- 2)ただし、閉鎖措置という施策が、大人は最大1,200ドル(約13万円)、子どもには500ドル(約5万5千円)という現金給付とセットになっていることは見落としてはならない(「米上院、コロナ経済対策を可決 下院送付、27日成立か」・『東京新聞』2020年3月26日)。
目次
- 基幹的なビジネス(Essential Businesses)
- 基幹的なビジネスの非網羅的なリスト
- (a)化学(Chemical)
- (b)商業施設(Commercial Facilities)
- (c)通信(Communications)
- (d)重要製造(Critical Manufacturing)
- (e)防衛産業基盤(Defense Industrial Base)
- (f)緊急サービス(Emergency Services)
- (g)エネルギー(Energy)
- (h)金融サービス(Financial Services)
- (i)食品・農業(Food and Agriculture)
- (j)政府施設(Government Facilities)
- (k)医療・公衆衛生(Healthcare and Public Health)
- (l)情報技術(Information Technology)
- (m)輸送システム(Transportation Systems)
- (n)上下水道システム(Water and Wastewater)
- (o)支援企業(Supporting Firms)
- 基幹的なビジネスの非網羅的なリスト
基幹的なビジネス(Essential Businesses)
州知事オフィスの解釈ガイドラインでは、新型コロナウイルス感染症への対応のための閉鎖措置から除外される「基幹的なビジネス」が15の部門に分けてあげられています。
(a)化学(Chemical)
(b)商業施設(Commercial Facilities)
(c)通信(Communications)
(d)重要製造(Critical Manufacturing)
(e)防衛産業基盤(Defense Industrial Base)
(f)緊急サービス(Emergency Services)
(g)エネルギー(Energy)
(h)金融サービス(Financial Services)
(i)食品・農業(Food and Agriculture)
(j)政府施設(Government Facilities)
(k)医療・公衆衛生(Healthcare and Public Health)
(l)情報技術(Information Technology)
(m)輸送システム(Transportation Systems)
(n)上下水道システム(Water and Wastewater)
(o)支援企業(Supporting Firms)
それぞれの部門に含まれる業種は次のように例示されていますが、これは非網羅的なリストであり、例示されているものだけに限定されないこと、それゆえ、個々のビジネスが「基幹的なビジネス」に該当するか否かは弁護士に相談することが推奨されています。また、「基幹的なビジネス」であっても、戸別訪問による営業はソーシャル・ディスタンシングのガイドラインに違反する可能性が高いため中止する必要があるとされています。
なお、「解釈ガイドライン」は改訂・撤回される可能性があることも記されています*1)。
- 1)以下はメリーランド州知事令第20-03-23-01号「INTERPRETIVE GUIDANCE」(March 23, 2020)の翻訳である。
基幹的なビジネスの非網羅的なリスト
(a)化学(Chemical)
(i)製薬メーカー
(ii)化学品メーカー
(iii)化学品・医薬品の販売業者
(b)商業施設(Commercial Facilities)
(i)宿泊施設
(ii)配管、電気、暖房・換気・空調(HVAC)、屋根葺き、環境サービス、害虫駆除、樹木、ランドスケープ(造園)の業者を含むが、これらに限定されない建物および不動産のメンテナンス会社
(iii)清掃業者(Janitorial firms)
(iv) 大型ホームセンター、配管販売業者、電気販売業者、および暖房・換気・空調(HVAC)販売業者を含む、商業施設や住宅のメンテナンスのための用品や資材を販売する会社
(v)コインランドリー、ドライクリーニング、ランドリーサービス
(vi)商業施設および住宅の建設会社
(vii)貸し倉庫(Self-storage facilities)
※カジノ、競馬場、同時放送の賭博施設、閉鎖型のモール、特定のレクリエーション施設、および特定の小売業は閉鎖が義務付けられる。
(c)通信(Communications)
(i)放送会社と放送局
(ii)ケーブルテレビ会社
(iii)電話会社(携帯電話および固定電話)
(iv)インターネットサービス・プロバイダー
(d)重要製造(Critical Manufacturing)
(i)鉄鋼、鉄、アルミニウム製品
(ii)エンジン、モーター、タービン、発電機、送電装置
(iii)土木、鉱業、農業、建設機械
(iv)水道、電気、通信インフラの部品
(v)陸上・航空・水上車両、および、その関連部品
(vi)医療機器
(vii)個人用保護具
(viii)清掃および衛生設備および消耗品
(e)防衛産業基盤(Defense Industrial Base)
(i)兵器、防衛、情報システムを研究、開発、製造、または統合する企業
(ii)防衛および情報機関をサポートする民間の請負業者
(f)緊急サービス(Emergency Services)
(i)法執行機関
(ii)救急医療サービス
(iii)危機管理(Emergency management)
(iv)消防・救助サービス
(v)民間の救急車
(g)エネルギー(Energy)
(i)発電に携わる企業(他のセクターに含まれる水力発電および原子力発電を除く)。
(ii)ガソリンスタンドやトラックストップ(Truck stopos)を含む石油、ガス、プロパン製品の生産、精製、貯蔵、輸送、流通、販売に携わる企業
(iii)公共設備(Utility)の保守に携わる会社
(h)金融サービス(Financial Services)
(i)銀行、信用組合
(ii)ノンバンクの金融機関(Non-bank lenders)
(iii) 給与計算処理会社
(iv)支払処理会社
(v)(現金運搬などの)装甲車会社
(vi)保険会社
(vii)証券会社、投資会社
(viii)会計事務所、簿記事務所
(i)食品・農業(Food and Agriculture)
(i)食料品店
(ii)ファーマーズマーケット
(iii)コンビニエンスストア
(iv)酒類の販売店と流通業者、蒸留所、ワイナリー
(vi)施設内の飲食サービス、および供給会社(Institutional food service and supply companies)
(vi)農場
(vii)食品の製造および加工
(viii)ペット用品店
(ix)動物の病院、診療所、小屋
(x)農業機械の製造、保守、販売を行う会社
(xi)紙製品の製造、または製造を支援する会社
※レストランとバーは閉鎖が義務付けられる。ただし、テイクアウト、配達、ドライブスルーは営業可能。
(j)政府施設(Government Facilities)
次のような司法制度を支援する民間人や団体も含まれるが、これらに限定されない。
(i)弁護士、法律事務所
(ii)裁判所の記者
(iii)保釈保証人
(k)医療・公衆衛生(Healthcare and Public Health)
(i)病院
(ii)医療システムとクリニック
(iii)医師、歯科医、薬剤師を含む医療提供者のオフィス
(iv)理学療法士、作業療法士、言語療法士
(v)心理士、メンタルヘルスのカウンセラー、薬物依存症のカウンセラーなどの行動保健施設および専門家(Behavioral health facilities and professionals)
(vi)リハビリテーション施設
(vii)放射線診断、画像診断、検査施設などの診断施設
(viii)医療計画、支払い、請求を行う会社。
(ix)葬儀場、火葬場
(x)自立型の住宅(Independent living)、介助サービス付き住宅(Assisted living)、介護施設(skilled nursing)を含む高齢者生活施設
(xi)医療機器および消耗品の製造業者、販売業者
(xii)医療用大麻の栽培者、加工業者、調剤薬局(調剤室)
(xiii)在宅医療会社。
(xiv)薬局
(l)情報技術(Information Technology)
(i)情報技術ソフトウェアおよびハードウェアを設計、開発、配布、ホスティング、販売、サポートする企業
(ii)ネットワークのルーティング、アクセス、設定サービスを提供する企業
(m)輸送システム(Transportation Systems)
(i)航空会社および民間航空機(有人機および無人機)の運航者。
(ii)空港、滑走路、ヘリポート、水上飛行機基地
(iii)鉄道
(iv)自動車運送業者(Motor carriers)
(v)海上運送および内陸運送を含む海上貨物の運送業者
(vi)船舶、鉄道、トラック、複合一貫輸送(intermodal)のターミナルおよびその運営者
(vii)港湾労働者、積み下ろし作業者、荷物取扱者、その他の運送拠点で貨物を取り扱う者
(viii)宅配便、小包配達、郵便サービス、郵便物管理会社
(ix)倉庫および流通会社
(x)パイプラインの所有者、運営者および保守会社
(xi)鉄道車両、トラックトレーラーなどの輸送資産の貸手
(xii)航空機、船舶、機関車、鉄道車両、トラック、バス、自動車、重機、道路、橋梁、トンネル、空港、滑走路、海上ターミナル、鉄道を含む輸送資産およびインフラストラクチャーのために部品を供給したり、保守・修理サービスを行なったりする会社
(xiii)自動車用品店、修理店
(n)上下水道システム(Water and Wastewater)
(i)地方自治体、コミュニティ、その他の飲料水と廃水のためのシステムと施設
(ii)坑井掘削業者
(iii)処理場、住宅用水処理システム、配管、ポンプ、タンク、排水溝、搬送、監視システムを含む上下水道資産の保守・点検サービスを提供する会社
(iv)水質試験会社。
(o)支援企業(Supporting Firms)
連邦政府の重要なインフラ部門に含まれるその他の事業、組織、施設に以下を提供する企業が含まれる。
(i)人材派遣および/または給与計算サービス
(ii)不可欠な原材料、製品、またはサービス
(翻訳ここまで)