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アメリカ・メリーランド州の新型コロナウイルス感染症への対応(2020年3月)

※メリーランド州のその後の状況はこちらを参照。
※メリーランド州における対応を時系列で整理した情報はこちらを参照。


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が拡大し、現時点では収束の見通しは立っていません。これを受け、ニュースでは緊急事態宣言、ロックダウン(都市封鎖)という表現を目にするようになりました。

新型コロナウイルス感染症が流行しているのは日本だけではなく、海外でも感染防止のため様々な施策が行われています。ここで紹介するのは、アメリカ東海岸のメリーランド州(ワシントンDCに隣接する州)の動きです。メリーランド州ではどのようなタイミングで、どのような施策がとられたのかについての情報を共有することで、何らかの参考になればと思います。ただし、日本とアメリカでは状況が違うため、アメリカの方が優れていると主張したり、アメリカの真似をした方がいいと主張したりすることがこの記事の目的ではありません。

なお、紹介しているのは記事を投稿した時点での情報であるため、感染の流行によっては大きく情報が変わる可能性があります。

メリーランド州の対応

アメリカでの新型コロナウイルス感染症の感染者は、2020年1月21日に西海岸のワシントン州で初めて見つかりました※1)。メリーランド州で初めての感染者が見つかったのは、それから約1ヶ月半後の2020年3月5日。これを受け、メリーランド州知事が非常事態を宣言しています。
メリーランド州内での市中感染の確認を受け、3月12日には公立学校の休校、250人以上の集会禁止などの措置が発表されました。そして、翌日、3月13日にはトランプ大統領が国家非常事態を宣言しました。

この後もメリーランド州内で発見された感染者数は徐々に増加。3月16日には50人以上の集会禁止と、バー、レストラン、フィットネスセンター、映画館の閉鎖、3月19日には10人以上の集会禁止と、ショッピングモール、ボーリング場、ビリヤード馬の閉鎖、電車やバスは医療従事者や警官等を優先と、禁止される集会と閉鎖される施設の種類は徐々に増えていきます。3月19日には感染者数が100人を超えています。

3月23日には「基幹的でないビジネス」(Non-Essential Businesses)が閉鎖。

そして、3月30日には外出禁止令(Stay-at-Home Order)が発令されました。
外出禁止令によりメリーランド州に住む全ての人は、以下を除いて自宅(home)または居住地(places of residences)に滞在することが求められます。

  • 不可欠な活動(Essential Activities)を実施、または、参加すること。
  • 閉鎖が求められないビジネスおよび組織のスタッフおよびオーナーは、以下の場合に移動することができる。
    □自宅と、ビジネスおよび組織の間を往復すること。
    □商品の配送やサービスの提供のために、顧客との間を往復すること。
  • 基幹的でないビジネス(Non-Essential Businesses)のスタッフおよびオーナーは、以下の場合に移動することができる。
    □最小限の業務を従事するために、自宅と基幹的でないビジネスの間を往復すること。
    □商品の配送のために、顧客との間を往復すること。

※メリーランド州知事令第20-03-30-01号(2020年3月30日)の翻訳

外出が認められる不可欠な活動(Essential Activities)は次のように定義されています。

  • 自分自身、家族、世帯員、ペット、家畜のために、必要な物やサービスを入手すること。これには食料品、家庭で消費・利用する用品、在宅勤務に必要な用品や機器、ランドリー、自宅や居住地の安全、衛生、不可欠なメンテナンスに必要な製品などが含まれる。
  • 自分自身、家族、世帯員、ペット、家畜の健康と安全のために不可欠な活動に従事すること。これには医療、心身の健康、救急サービスを求めること、薬や医療品を入手することなどが含まれる。
  • 家族、友人、ペット、家畜を、別の世帯または場所でケアすること。これには不可欠な健康と安全活動のために家族、友人、ペット、家畜を輸送すること、必要な用品やサービスを入手することなどが含まれる。
  • 食事や遠隔学習のための教材を受け取るために、教育施設との間を往復すること。
  • ウォーキング、ハイキング、ランニング、自転車などアウトドアエクササイズに従事すること。(後略)
  • 法執行機関または裁判所命令により求められる移動をすること。
  • 必要な目的のために、連邦政府、州政府、地方自治体の建物との間を往復すること。

※メリーランド州知事令第20-03-30-01号(2020年3月30日)の翻訳

知事令では違反者には、1年未満の禁錮刑、もしくは、5,000ドル未満の罰金、またはその両方が科される可能性があると記されています。

このように外出禁止令は不可欠な活動で外出するのを禁止するものではなく、自宅待機命令と訳される場合もあるようです※2)。メリーランド州ではStay-at-Home(ステイ・アット・ホーム)の表現が使われていますが、Shelter-in-Place(シェルター・イン・プレイス)の表現が利用されている州もあります。

メリーランド州では、最初の感染者の発見から2週間余りで「基幹的でないビジネス」が閉鎖され、1ヶ月弱で不可欠な活動以外での外出を禁止する外出禁止令(自宅待機命令)が出されています。ただし、発見された感染者数は3月26日には500人を、3月29日には1,000人を超えるなど急増し続けています。

メリーランド州の動きを振り返ることでわかるのは、どのような規模の集会が禁止されるのか、どのような業種のビジネスが禁止されるのか、どのような活動が禁止されないのかが施策によって明確にされていることです。ただし、施策として禁止するだけでなく、大人は最大1,200ドル(約13万円)、子どもには500ドル(約5万5千円)という現金給付とセットになっていることは見落としてはなりません※3)。
アメリカのこうした状況は、行政からの要請を受けたり、世間の目に対応したりすることで、あくまでも「自粛」として集会の中止、営業の休止がなされている日本の状況とは大きく異なる点です。


  • 1)Wikipediaの「アメリカ合衆国における2019年コロナウイルス感染症の流行状況」のページより。
  • 2)外出禁止令と自宅待機命令とでは、「外に出る」ことを禁止するか、「内に居る」ことを命令するかというように視点が異なるが、Stay-t-Home、Shelter-in-Placeの英語に近いのは自宅待機命令。英語と日本語(訳)とでは内外の視点が異なるため、ニュアンスが異なって受け止められている可能性がある。
  • 3)「米上院、コロナ経済対策を可決 下院送付、27日成立か」・『東京新聞』2020年3月26日

ソーシャル・ディスタンシング

メリーランド州に限らず、アメリカでは新型コロナウイルス感染症への対応として「ソーシャル・ディスタンシング」(Social Distancing)が重視されています。

ソーシャル・ディスタンシングは社会的・物理的な距離の確保により感染拡大を防止する方法。「社会距離戦略」、「社会距離の確保」、「対人距離の確保」などと訳され、外出時には他者と6フィート(約1.8メートル)の距離をとることだと説明される場合があります。この説明は間違いではありませんが、ソーシャル・ディスタンシングについての説明を読むと、ソーシャル・ディスタンシングにはもう少し広い意味が込められていることがわかります。

メリーランド州政府のページには、ソーシャル・ディスタンシングが次のように説明されています。

メリーランドの全ての人々に、ソーシャル・ディスタンシングを実践することを勧めます。ソーシャル・ディスタンシングは、人々が密接に、または、頻繁に接触することを防ぐことで、感染症を広めるのを防ぐ方法です。ソーシャル・ディスタンシングはライフスタイル、家族、仕事の状況に応じて様々なかたちをとることができ、次のような習慣や手順が含まれます。

  • 握手、ハグなどの親密な挨拶を避ける
  • 不要な外出を避ける(医療供給者は、あなたの状況に応じて具体的な指導をしてくれるかもしれません)
  • 特に換気の悪い場所では人混みを避ける
  • 仕事の状況に応じて、可能なら在宅で仕事をする
  • 不必要な用事を避ける:食料品や家庭用品などの不可欠な物を、オンラインのサービスを利用したり、家族や社会的ネットワークを通して入手したりすることを検討してみてください

※メリーランド州政府「Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Outbreak」のページの翻訳。

ソーシャル・ディスタンシングとは感染症の広がりを防ぐために、社会的・物理的な距離を確保することを意識したライフスタイルのことだと捉えることができます。ただし、こうしたライフスタイルでもパブリックな場所との関わりは必要であり、他者と6フィート(約1.8メートル)の距離を確保することは、パブリックな場所との関わりにおける作法として理解することができます(※アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によるソーシャル・ディスタンシングの説明をこちらの記事で紹介しています)。

(更新:2020年6月1日)