郊外住宅地研究会*1)では、2025年度から公益財団法人アーバンハウジングの調査研究として、「Sustainable Well-beingからみた郊外住宅地の評価と方策」を行なっています。郊外住宅地研究会の2025年度の報告書、『郊外住宅地における暮らしの満足度(主観的Well-being)等の経年変化とそこから見る暮らしの活性化に向けての考察』(アーバンハウジング 2026年3月)で、「郊外住宅地におけるパイオニア精神の継承:街の作り手としての住民について」の章を分担執筆しました。
郊外住宅地におけるパイオニア精神の継承:街の作り手としての住民について
(1)郊外住宅地のパイオニア
大阪府豊能町の西地区は、1960年代から開発された戸建住宅を中心とする郊外住宅地である。豊能町、および、近郊の地域資源を活用した情報の発信、地域価値の創造を行う*2)一般社団法人「とよのていねい」で、「自分の手で楽しみを開いてきた方」は、次の世代にとっての「生き方の見本」になっているという話を伺った*3)。
「ここは高齢の方が多いので、活動しているとそういう先輩方、40、50年前にこちらに引っ越してきた方々とよくお会いするんですけど、すごく皆さん素敵な方で。今でも精力的にされている方が多いです。」
「妙見ハイクといって、妙見山に登るグループを作られて、今でも登ってる人がいらっしゃったりとか、図書館を一から作りましたっていう人がいたりとか。豊能町の図書館って、民間の声でできあがったんですよ。そういう方がいっぱいいらっしゃるので、自分の手で楽しみを開いてきた方は、私らにしたら生き方の見本です。」
ここで注目したいのは、豊能町立図書館という施設が、住民の声を反映して建設されたことである。
中地・堀(2012)は、大阪府松原市の図書館が建設された経緯について、当時の関係者へのインタビューを行い、「文庫の主宰者らが図書館づくり運動を展開させ、学識経験者らと図書館員の協働のなかで、図書館システムを築き上げてきた」と述べている。松原市の住民運動は「大阪府内の図書館づくり運動」において「良き先例」とされ、豊能町も「この影響を受けて要望書活動が活発」になったという。
豊能町立図書館は、住民の要望を受けて、1985年に開館。1986年度には、利用率(町民一人当たりの貸出冊数)が14.17冊と全国一位を記録している(豊能町立図書館, 2013)。
郊外住宅地は、開発主体が様々な施設を整備し、住民は整備された施設を利用する。一般的にはそのように思われているかもしれないが、これは必ずしも事実とは言えない。豊能町立図書館が建設された経緯からもわかるように、住民は施設を作ることも含めて、街の作り手なのである。
このことは、豊能町だけに限らない。ここで、以前調査したグリーンベルトというアメリカ・メリーランド州の計画住宅地(Planned Community)を紹介したい。グリーンベルトは、フランクリン・D・ルーズベルト大統領のニューディール政策によって建設された3つのグリーンベルト・タウンの1つで、1937年から入居が始められた。
グリーンベルトの特徴は協同組合(co-op)である。現在、グリーンベルトの約1,600戸の住宅は、協同組合であるグリーンベルト・ホームズ(GHI)によって所有・管理・運営されている。グリーンベルト・ホームズ(GHI)は、連邦政府による土地と住宅の払い下げの受け皿として1952年に設立された協同組合で、住民はこの協同組合の出資者であり、かつ、協同組合が所有する住戸の賃借人でもある(森田・松村, 2007)。
グリーンベルトには、グリーンベルト・ホームズ(GHI)以外にも、次のような協同組合が立ち上げられてきた。1937年、つまり、街開きの年には信用組合、地域新聞(現在のGreenbelt News Review)が、1940年には食料品店を買収するための協同組合が立ち上げられた。1942年には保育園が開園した。地域新聞と保育園は現在まで、同じ協同組合によって運営され続けている。このほか、かつてはベビーシッターも協同組合によって運営されていたという*4)。
グリーンベルトでは、初期の入居者が「パイオニア」(Pioneers)と呼ばれている*5)。グリーンベルトのパイオニアの人々は、協同組合を立ち上げ、街に必要な場所やサービスを作り出してきた。この意味でまさに開拓者として、街の作り手だったのである。
(2)パイオニアの精神
郊外住宅地は、様々な施設が完成してから入居が始まるとは限らない。住民もまた街の作り手として、街に必要な施設を作りあげるプロセスに関与する。けれども、図書館などの施設は、頻繁に建設する機会があるわけでない。そうすると、街の作り手になれることは、第一世代(パイオニア)の特権であり、次の世代の人々は、既に建設された施設を利用するだけの存在にしかなれないのか。
ここで、改めてアメリカのグリーンベルトに注目したい。グリーンベルトが興味深いのは、街開きから年月が経過しても、新たな協同組合が立ち上げられていることである。グリーンベルトの人々は、スーパーマーケットの生鮮食品売り場やガソリンスタンドで近況を話したり、挨拶したりしている状態であった。街に気軽に立ち寄れる場所が欲しいと考えた人々によって、1995年、ニューディール・カフェ(New Deal Cafe)というコミュニティカフェが開かれた(田中・若林, 2009)。当初はコミュニティ・センターで金曜・土曜の夜のみ運営されていたが、常設の場所が欲しいという思いから、2000年にタウンセンターの空き店舗に移転。運営の体制は変化しているが、現在でも協同組合によって運営が継続されている*6)。新しい協同組合として、グリーンベルト・メイカースペースがある。元々は、2013年に開かれた場所で、コンピュータサイエンス、ロボティクス、マイクロエレクトロニクスに焦点をあてた活動が行われていた。2017年、所有権が新たに設立された協同組合に移管され、現在は、住宅などのDIYやメンテナンスのために、工具の貸出や知識の提供などを行う場所になっている*7)。
協同組合だけでない。街開き50周年にあたる1987年には、グリーンベルト市が初期の住宅を買い取り、グリーンベルト・ミュージアムが開かれた。住民が地域新聞に、街にミュージアムが必要ではないかという投書をしたことがきっかけとなり開かれたコミュニティ・ミュージアムで、1936~1952年の中流家庭の家具、家電、写真などが展示。住民は、展示されているものや、街の歴史を紹介する役割を担うかたちで運営に関わっている。グリーンベルト・ミュージアムでは、街の歴史は、なぜこの街に住むことが重要であるかを伝えるものとして、新たな住民を惹きつけるツールにもなると考えられている。
このほか、2008年からは、住民によって、ファーマーズ・マーケットが始められている。
グリーンベルトの歩みから気づかされるのは、街に必要な場所やサービスは、その時々で異なるということである。気軽に立ち寄れる場所、街の歴史を伝えるミュージアム、住宅などのDIYやメンテナンスをサポートする場所、新鮮な野菜や果物を購入できるマーケットは、現在の日本の郊外住宅地にも求められていると言える。グリーンベルトが興味深いのは、住民が、街にはこのような場所やサービスが必要だという声をあげ、それを実現するプロセスに関与してきたこと、実現された後には運営や活動に関与してきたことである。
グリーンベルト市のウェブサイトには、グリーンベルトでは「協同組合の精神と強いコミュニティの意識は、新しい世代へと継承されている」と記されている*8)。
(3)街の作り手のかたち
「とよのていねい」で、「自分の手で楽しみを開いてきた方」は、次の世代にとっての「生き方の見本」であるという話を伺ったことを紹介したが、「自分の手で楽しみを開いてきた方」は、まさに開拓者である。そのような人は、次の世代にとっての「生き方の見本」であるという言葉には、豊能町で開拓者が大切にされ、その精神が継承されていることが表れている。
「とよのていねい」では、次のような話を伺った。
「豊能町の西地区は、全員移住者なんですよね。古くからの人はいないので、『こんなことしたらあかん』と言う人がいない、そういうところの居心地のよさがあるのかな。」
「例えば、古くからいろいろやってる地域だと、いろんな調整が必要だと聞くことがあります。ここは、そういう地域の人から見たら羨ましいなって言われるぐらいには、新しいことをみんな受け入れてくれたり、応援してくれたりします。・・・・・・。掲示板のいろいろな企画は、みんないろいろ好きなことをやって、みんなを集めようとしているという流れができている。それが、掲示板にも表れているのかなと思います。」
郊外住宅地の第一世代は「全員移住者」である。それゆえ、郊外住宅地には歴史がないと言われることもある*9)。その一方で、このことが「新しいこと」を受け入れる土壌になっている。このような土壌のある街において、人々は新しいことを提案したり、応援したり、楽しんだりするというかたちで、今でも街を作り続けている。
「とよのていねい」では、次のような興味深い話も伺った。
「豊能町って、みんなが集まってちょっと喋る場所がなさ過ぎるのですが、例えば、シートスという町立のスポーツセンターがあるのですが、2階のロビーを使ってPTAなどの会合をしたりとかしています。また、池田泉州銀行の光風台出張所が閉店になり、ATMだけになりました。ATMの順番待ちのために椅子が2脚だけ残ってるんですね、そこでおしゃべりしてる人を見かけることもあります。そうやって皆さん工夫しながらやってるんだと。そういう工夫する姿は素敵だなと思います。」
街には「みんなが集まってちょっと喋る場所」が少ない状況で、人々はスポーツセンターのロビーで会合したり、ATMの順番待ちの椅子でおしゃべりしたりするという「工夫」をしている。これは、レヴィ=ストロース(1976)のいうブリコラージュ(器用仕事)、つまり、「『もちあわせ』、すなわちそのときそのとき限られた道具と材料の集合で何とかする」ことだと捉えることができる。「みんなが集まってちょっと喋る場所」が少ない状況に対して、もしかすると、将来的に何らかの施設が建設されるかもしれない。ただし、そうであったとしても、今、「みんなが集まってちょっと喋る場所」がないという状況は変わらない。そうした中で、人々は「もちあわせ」の場所を「工夫」して利用している。
鷲田(2021)は、ブリコラージュ(器用仕事)について次のように指摘する。
「『器用仕事』の要となるのは転用と借用(見立て)であった。それは、使用の仕方をずらせることで、《目的-手段》の一義的な連鎖をみずから外すということである。別の用途に転用するというのは、つまり、《目的-手段》の関係を複義的にしてゆくということである。さらには目的が手段を規定するだけではなく、意表をつく手段の組み合わせが未知の目的を構築してゆくということである。」
施設が建設される際には、何らかの利用の仕方が想定される。そのような施設を、想定されていなかったようなかたちで利用すること。それは、「未知の目的を構築してゆく」ことにもなっていく。このように考えると、「もちあわせ」の場所を「工夫」して利用することもまた、広い意味で、街の作り手のかたちとして捉えることができる。
「新しいこと」を受け入れやすい土壌のある郊外住宅地において、人々はどのような役割を担ったり、どのような場所を「工夫」して利用したりすることで、街の作り手になっているのかを捉えること。それによって、郊外住宅地の暮らしを多面的なものとして描くこと。それが、幸福に暮らすこととどのように関係しているのかを明らかにすること。これらを考えていきたい。
■注
- 1)研究代表は、武庫川女子大学生活環境学科の三好庸隆教授、伊丹康二教授。現在、大阪府豊能町における調査を行なっている。
- 2)一般社団法人「とよのていねい」ウェブサイトより(2026年3月4日閲覧)。
- 3)一般社団法人とよのていねいのインタビュー記録は、本報告書の資料編を参照。
- 4)地域新聞「Greenbelt News Review」の以下の記事より。
Cathie Meetre: Greenbelt’s Consumer Co-ops Are Crucial to Local Lifestyles, Greenbelt News Review, October 19, 2022(2026年3月4日閲覧)
Cathie Meetre: Cooperative Roots Run Deep For GHI and News Review, Greenbelt News Review, October 26, 2022(2026年3月4日閲覧) - 5)グリーンベルト以外でも、草創期の入居者が「パイオニア」と呼ばれている街がある。
- 6)New Deal Caféの30周年の歩みをまとめた資料『The New Deal Cafe 1995-2025』I Edition, October 2025より。
https://www.newdealcafe.com/wp-content/uploads/2025/10/New-Deal-Cafe-History-Nov-2025-Edition.pdf(2026年3月5日閲覧) - 7)Greenbelt MakerSpaceの「History」のページ
- 8)The City of Greenbeltの「Advantages of Greenbelt」のページには次のように書かれている。
「Today, many of the original features of this planned community still exist. The cooperative spirit and the strong sense of community are passed on to new generations. 」
https://www.greenbeltmd.gov/544/Advantages-of-Greenbelt(2026年3月5日閲覧) - 9)ただし、グリーンベルトで、街開きから50年目にコミュニティ・ミュージアムが開かれたように、計画的に作られた街にも歴史が生まれていく。「とよのていねい」で、2026年3月で閉校となる豊能町の光風台小学校の閉校イベントには、これまでの卒業生をはじめ1,000人以上が参加したという話を伺った。これもまた、郊外住宅地に歴史があることを表すエピソードである。
https://www.greenbeltmakers.org/about/history/(2026年3月5日閲覧)
■参考文献
- 田中康裕, 若林可奈(2009)「コミュニティを媒介するカフェとファーマーズ・マーケット」・『BIO-City』no.41, pp.110-113
- 豊能町立図書館(2013)『豊能町の図書館活動 平成24年度』
- 中地正博, 堀薫夫(2012)「図書館づくりに向けた住民運動に関する一考察:大阪府松原市における1970年代の事例から」・『大阪教育大学紀要』第IV部門, 第60巻, 第2号, pp.97-107
- 森田芳朗, 松村秀一(2007)「米国グリーンベルトホームズにおける居住環境の運営形態とその変化:ハウジングコウオペラティヴにおける法人と居住者間の権利関係調整手法に関する事例分析」・『日本建築学会計画系論文集』Vol.72, No.619, pp.1-7
- レヴィ=ストロース, クロード(大橋保夫訳)(1976)『野生の思考』みすず書房
- 鷲田清一(2021)『つかふ:使用論ノート』小学館



















