『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

アメリカ・メリーランド州の新型コロナウイルス感染症への対応(2020年3月~11月)

※メリーランド州のその後の状況はこちらを参照。
※メリーランド州における対応を時系列で整理した情報はこちらを参照。


アメリカ東海岸のメリーランド州(ワシントンDCに隣接する州)において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対してどのような施策がとられたのかをご紹介します。

メリーランド州の2019年時点の人口は約600万人。1日の感染者数は4~5月にかけて1,800人に近かった日もありますが、6月末になると300~500人の間を推移するまでに減少しました。7月下旬にやや増加し1,000人を超える日もありましたが、その後はまた減少しました。ところが、11月になると急増し、11月下旬には3,000人近い日も見られるようになっています。一方、1日の死亡者数は4月は多かったものの、その後減少していました。ところが、11月下旬には40人近い日が見られるようになっています。

メリーランド州の対応

アメリカでの新型コロナウイルス感染症の感染者は、2020年1月21日に西海岸のワシントン州で初めて見つかりました(※Wikipediaの「アメリカ合衆国における2019年コロナウイルス感染症の流行状況」のページより)。メリーランド州で初めての感染者が見つかったのは、それから約1ヶ月半後の2020年3月5日。これを受け、メリーランド州知事が非常事態を宣言しました。
メリーランド州内での市中感染の確認を受け、3月12日には公立学校の休校、250人以上の集会禁止などの措置が発表されました。翌日、3月13日にはトランプ大統領が国家非常事態を宣言しました。

3月16日には50人以上の集会禁止と、バー、レストラン、フィットネスセンター、映画館の閉鎖、3月19日には10人以上の集会禁止と、ショッピングモール、ボーリング場、ビリヤード馬の閉鎖、電車やバスは医療従事者や警官等を優先と、禁止される集会と閉鎖される施設の種類は徐々に増えていきます。
そして、3月23日には「基幹的でないビジネス」(Non-Essential Businesses)が営業停止とされました。

外出禁止令(自宅待機命令)

3月30日には外出禁止令(自宅待機命令:Stay-at-Home Order)が発令。外出禁止令(自宅待機命令)によりメリーランド州に住む全ての人は、以下を除いて自宅(home)または居住地(places of residences)に滞在することが求められることになりました。

  • 不可欠な活動(Essential Activities)を実施、または、参加すること。
  • 閉鎖が求められないビジネスおよび組織のスタッフおよびオーナーは、以下の場合に移動することができる。
    □自宅と、ビジネスおよび組織の間を往復すること。
    □商品の配送やサービスの提供のために、顧客との間を往復すること。
  • 基幹的でないビジネス(Non-Essential Businesses)のスタッフおよびオーナーは、以下の場合に移動することができる。
    □最小限の業務を従事するために、自宅と基幹的でないビジネスの間を往復すること。
    □商品の配送のために、顧客との間を往復すること。

※メリーランド州知事令第20-03-30-01号(2020年3月30日)の翻訳

外出が認められる不可欠な活動(Essential Activities)は次のように定義されています。

  • 自分自身、家族、世帯員、ペット、家畜のために、必要な物やサービスを入手すること。これには食料品、家庭で消費・利用する用品、在宅勤務に必要な用品や機器、ランドリー、自宅や居住地の安全、衛生、不可欠なメンテナンスに必要な製品などが含まれる。
  • 自分自身、家族、世帯員、ペット、家畜の健康と安全のために不可欠な活動に従事すること。これには医療、心身の健康、救急サービスを求めること、薬や医療品を入手することなどが含まれる。
  • 家族、友人、ペット、家畜を、別の世帯または場所でケアすること。これには不可欠な健康と安全活動のために家族、友人、ペット、家畜を輸送すること、必要な用品やサービスを入手することなどが含まれる。
  • 食事や遠隔学習のための教材を受け取るために、教育施設との間を往復すること。
  • ウォーキング、ハイキング、ランニング、自転車などアウトドアエクササイズに従事すること。(後略)
  • 法執行機関または裁判所命令により求められる移動をすること。
  • 必要な目的のために、連邦政府、州政府、地方自治体の建物との間を往復すること。

※メリーランド州知事令第20-03-30-01号(2020年3月30日)の翻訳


4月15日には、買い物をする時、および、公共交通機関を利用する時にはマスク(フェイスカバー)着用を義務化する知事令が発令されています(4月18日7時から発効)。

メリーランド・ストロング:復興のためのロードマップ

感染防止のための様々な対応がとられてきた一方、4月中旬になると感染防止の対応によって停滞している社会をどう再開するかの提案が見られるようになっています。
4月16日にはトランプ大統領がアメリカ再開のためのガイドライン『オープニングアップ・アメリカアゲイン』(Guidelines for Opening Up America Again)を発表。

メリーランド州では4月24日に『メリーランド・ストロング:復興のためのロードマップ』(Maryland Strong: Roadmap to Recovery)が発表されました。『メリーランド・ストロング:復興のためのロードマップ』では次の3つのステージに沿って、段階的に復興していくことが提案されています。

□低リスク(Low Risk)
「低リスクは復興の第一ステージであり、ビジネス、コミュニティ、宗教、生活の質の改善を含みます。・・・・・・
最初のステップは、「生活の質」(Quality of Life)の改善の幅広いカテゴリーに焦点を当てるもので、「自宅待機」命令(“Stay at Home” Order)の解除(および自主的な「より安全な在宅生活」ガイダンス(“Safer-at-Home” guidance)への移行)を伴います。」

□中リスク(Medium Risk)
「中リスクは、初期の復興の中ではより長いステージになるかもしれませんが、多くのビジネスや活動が復活するステージでもあります。この期間中に再開するビジネスは、厳格なフィジカル・ディスタンシングとマスク着用の要件を遵守する必要があります。」

□高リスク(High Risk)
「高リスクは、より野心的で長期的な目標です。このレベルでは、通常の状態に完全に戻るために、広く入手可能なアメリカ食品医薬品局(FDA=Food and Drug Administration)の承認を受けたワクチン、あるいは、重大な疾患のある患者を救ったり、最もリスクの高い人々の深刻な病気を予防したりできる安全で効果的な治療方法が必要になります。そのため、このレベルを達成するための科学の専門家からの現実的なタイムラインはまだありません。」
※『Maryland Strong: Roadmap to Recovery』(April 24, 2020)の翻訳

そして、3つのステージに沿って復興を進めるための構成要素として、次の4つがあげられています。

  • (1)第一線で働く医療従事者のための十分な個人用保護具(PPE=Personal Protective Equipment)の調達
  • (2)病院の収容能力(Surge capacity)の確保
  • (3)十分な検査能力(Testing capacity)の確保
  • (4)強固な接触者追跡(Contact tracing)プログラム

外出禁止令(自宅待機命令)から自宅待機に関する勧告へ

5月に入るとビジネスや活動を再開する具体的な動きが見られるようになります。
5月6日には、ステージ1に移行する前に行うことが可能な活動として、緊急でない手術とアウトドア・アクティビティが発表されました。

外出禁止令(自宅待機命令)を解除し再開のステージ1に移行する前に、現在、州民が行える活動をいくつか特定した。これらの活動は公共衛生に関するガイドラインに従い、フィジカル・ディスタンシングをとることが前提

  • 緊急ではない手術(Elective Surgeries):メリーランド州保健局は病院に対してどのような手術が可能なのかガイドラインを提示する
  • アウトドア・アクティビティ:明日(5月7日)7時から、ゴルフ、テニス、ボート、キャンピングなどアウトドア・アクティビティが可能になる。州立公園は全面的に再開され、州立公園の一部であるビーチはウォーキングやエクササイズのために開放、地方政府の管轄下にあるプレイグラウンドなども再開される

※2020年5月6日配信の在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」より。ただし、表現を改めている部分がある。

5月15日の17時から外出禁止令(自宅待機命令:Stay-at-Home Order)が解除され、自宅待機に関する勧告(Safer-at-Home Public Health Advisory)に移行し、再開のステージ1が始まりました。

自宅待機に関する勧告への移行により、次のようなビジネスや活動の再開が可能とされました。

  • 小売店は最大収容人数の50%を上限として再開可。店の外でのピックアップと配達のオプションを引き続き強く奨励。例としては、洋服屋、靴屋、ペットの美容師(Pet groomer)、アニマルシェルター(animal adoption shelters)、洗車サービス、アートギャラリー、本屋
  • 製造業は安全・公衆衛生ガイドラインに従う形で操業開始可
  • 教会や礼拝所は再開可。アウトドアでの集会が強く推奨されるが、最大収容人数の50%を上限として適切な安全策をとった上で屋内での集会も可
  • パーソナルサービス(床屋と美容院)は予約のみ、50%の収容を上限として再開可。適切な安全ガイドラインに則る必要がある
  • 全ての州民、特に高齢者やハイリスクの方々は、できるかぎり自宅待機を続けるべき。雇用者はテレワークを推進し続けるべき。全ての州民は屋内の公共空間、公共交通機関、小売店内ではマスクをつけるべきである
  • 全ての州民はフィジカル・ディスタンシングをとり、10人超の集会を避けるべき。手洗いや頻繁にふれるエリアを消毒することも忘れないようにすること
  • ※2020年5月13日配信の在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」より。ただし、表現を改めている部分がある。

5月29日17時からは、レストランやバーでの屋外ダイニング、VFW(Veterans of Foreign Wars)ポスト、エルクスクラブ(Elks Clubs)をはじめとする社交クラブ、友愛クラブにおける屋外ダイニング、ユーススポーツ活動、ユースデイキャンプ、屋外プール、ドライブインシアターが再開されました。

ステージ1への移行は柔軟かつ地域の状況に基づくアプローチであり、移行のタイミングは郡(County)や独立都市の判断に委ねられるとされています。

再開ステージ1からステージ2へ

6月に入ると再開の動きがさらに進められます。6月5日の17時から「基幹的でないビジネス」(Non-Essential Businesses)の閉鎖命令を解除し、ステージ2に移行しました。ステージ2では、次のようなビジネスが新たに再開されることとなりました。

  • ステージ2で再開されるビジネス:製造、建設、大小の小売店、専門業者、卸売業者、倉庫、IT企業、法律事務所、経理、銀行、金融機関、保険代理店、デザインスタジオ、広告、建築会社、メディア制作会社、不動産、旅行代理店、自動車ディーラーのショールーム、銀行の支店等
  • 追加的に再開されるパーソナルサービス:ネイルサロン、日焼けサロン、マッサージ・タトゥーパーラーなどのパーソナルサービスは、ガイドライン履行のもと、予約のみ、最大収容人数の50%以下で営業が可能

※2020年6月3日配信の在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」より。ただし、表現を改めている部分がある。

ステージ1への移行と同様、ステージ2への移行は柔軟かつ地域の状況に基づくアプローチであり、移行のタイミングは郡(County)や独立都市の判断に委ねられるとされています。

この後も、次のような追加的再開が行われました。

□6月12日(金)17時から

  • レストランは、最大収容数の50%を上限として、屋内での飲食を再開可
  • 屋外アミューズメント(ミニチュアゴルフ、ゴーカートトラック、屋外プール等)は、最大収容数の50%を上限として再開可

□6月19日(金)17時から

  • 屋内フィットネス活動(ジム、武術、ダンス等)は、最大収容数の50%を上限として再開可
  • カジノ、アーケード、モールは再開可

※2020年6月10日配信の在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」より。ただし、表現を改めている部分がある。

州外移動に関する勧告

7月末にとられた大きな措置は、州外への/からの移動に関する勧告が出されたことです。
7月29日に州外移動に関する勧告が出されました。この勧告は、メリーランド州民を含め州外からメリーランド州に入る全ての人に、出発前か到着後に検査を受け、検査結果を待つ間は自己隔離(self-quarantine)を求めるというもの。さらに、陽性率が10%を超える州への訪問についても、陽性率が低下するまで訪問を延期・中止することが求められます。

  • 州外からメリーランド州に戻るメリーランド州民および州外からの訪問者は、メリーランド州到着後速やかに、または、メリーランド州への出発前72時間以内に、新型コロナウイルスの検査を受けるべきである。州外からの訪問者はメリーランド州への出発前72時間以内に検査を受け、陽性と判明した場合、旅行を中止することを勧める。訪問者は検査結果を待つ間、自宅で待機するか、ホテルで自己隔離(self-quarantine)すべきである。
  • 陽性率が10%を超える州を訪問するメリーランド州民は、検査を受け結果が判明するまで自宅で自己隔離(self-quarantine)すべきである。DCとバージニア州はこの勧告の適用外である。
  • 過去に解釈ガイダンスにおいて定義したエッセンシャルワーカーが不可欠な業務に従事するためにメリーランド州に戻る/到着する場合、また、日常的にメリーランド州を出る/メリーランド州に入る通勤者であって、職場において新型コロナウイルスのスクリーニング手続きが確保されている場合は、この自己隔離勧告の適用外である。

※2020年7月29日配信の在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」より。ただし、表現を改めている部分がある。

同じ7月29日には、4月18日に発効した知事令を修正して、マスク(フェイスカバー)着用の義務化の範囲を拡大することが発表されました(7月31日17時から発効)。
4月18からは買い物をする時、および、公共交通機関を利用する時のマスク(フェイスカバー)着用が義務化されていましたが、以降は、全ての公共スペース、及び、適切な距離を確保できない屋外でのマスク(フェイスカバー)着用が義務化されることとなりました。

再開ステージ2からステージ3へ

9月1日には、9月4日の17時からステージ3に移行することが発表されました。ステージ3への移行により、次のような変更が行われました。

□劇場(ライブパフォーマンス、映画)

  • 屋内施設:最大収容人数の50%以下もしくは100人以下(いずれか少ない方)の定員で営業可。
  • 屋外会場:50%以下もしくは250人以下(いずれか少ない方)の定員で営業可。

□小売店、宗教施設

  • 定員を50%から75%へ増加。

※2020年9月1日配信の在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」より。ただし、表現を改めている部分がある。

ステージ1・2への移行と同様、ステージ3への移行も柔軟かつ地域の状況に基づくアプローチであり、移行のタイミングは郡(County)や独立都市の判断に委ねられるとされています。

ステージ3への移行が発表された9月1日には、メリーランド州政府はApple社・Google社が開発した接触者追跡の機能をもつ「Exposure Notifications Express」を導入することを発表しています。ただし、メリーランド州民がこの機能を利用するかどうかは任意とされています。

新たな措置

このように徐々に社会が再開されてきましたが、11月10日には、州内の陽性者数が7日間連続で1日1,000人以上を記録し、陽性率が6月以降初めて5%を超えたことを受け新たな措置が発表されています。
新たな措置としては、レストラン・バーにおける屋内の収容人数を75%から50%に縮小すること、25人を超える公的・私的な集会への参加を控えることが発表されました。また、メリーランド州民を含め州外からメリーランド州に入る全ての人に、出発前か到着後に検査を受け、検査結果を待つ間は自己隔離(self-quarantine)を求めることも発表されています(7月29日付の勧告の修正)。

11月17日には、州内の陽性症例が13日間続けて1日1,000人以上を記録し、陽性率が6.85%を超えたことを受けて、次のような措置が発表されました。
発表された措置は、レストラン・バーは、テイクアウトやデリバリーを除いて22時から6時まで閉店すること、小売店、宗教施設の収容人数を50%に縮小すること、レーストラック、スタジアムへの観客の入場を禁止することなどです(11月20日17時に発効)。


メリーランド州では3月上旬の最初の感染者の発見から2週間余りで「基幹的でないビジネス」が営業停止となり、1ヶ月弱で不可欠な活動以外での外出を禁止する外出禁止令(自宅待機命令)が、約6週間でマスク(フェイスカバー)着用の義務化が出されています。このような様々な制限をかけるのと並行して、4月下旬には『メリーランド・ストロング:復興のためのロードマップ』が発表。そして、5月中旬には外出禁止令(自宅待機命令)から自宅待機に関する勧告と再開ステージ1への移行が行われ、5月末にはレストランでの屋外ダイニングが再開。6月上旬には再開ステージ2への移行が行われ、6月中旬にはレストランやバー内での食事が再開されてきました。ただし、7月末にはマスク(フェイスカバー)着用が義務化される範囲の拡大、州外移動に関する勧告が出されており、新たな感染防止の対応もとられています。そして、9月上旬には再開ステージ3への移行が行われました。しかし、感染者数、陽性率の上昇により、11月には規制を強化するための措置が取られることになりました。

現時点で2020年3月からの動きを振り返ると、次のようなことに気づかされます。

  • 「基幹的でないビジネス」の営業停止、外出禁止令(自宅待機命令)、マスク着用の義務化というように、感染防止のための厳格な対応が早期に出されていること。
  • どのようなビジネスが禁止されるのか、どのような活動が禁止されるのかなどが罰則を伴う法として明確に定められていること。
  • 社会を再開するための条件とロードマップが明確にされていること。
  • 最初に厳格に定めた禁止事項を、条件を満たすことで徐々に緩めていくアプローチがとられていること。
  • ただし再び感染が拡大するなど、新型コロナウイルス感染症を収束させるのは容易ではないこと。

メリーランド州の動きは、行政からの要請を受けたり、世間の目に対応したりすることで、あくまでも「自粛」として感染防止が行われており、検査数の少ない日本の状況とは大きく異なります。
感染者数や死亡者数はアメリカの方が圧倒的に多く、国による状況も違うためアメリカと日本のどちらの対応が良いかは単純に比較できませんが、この点については、後から振り返った検証が行われると考えています。