『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

新型コロナウイルス感染症の状況下における居場所ハウスの運営

「居場所ハウス」では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染防止のため、2020年3月に入ってから予定していたプログラムを中止するなどの対応をとられ始めました。
それからほぼ半年が経過。現時点でもまだ新型コロナウイルス感染症の収束の見通しは立っていませんが、この半年の間に、「居場所ハウス」がどのように運営されてきたかをご紹介します。

新型コロナウイルス感染症への対応

「居場所ハウス」のある岩手県大船渡市は、現時点(2020年9月30日)でも感染者が見つかっておらず*1)、岩手県に緊急事態宣言が発令されていた期間(4月16日~5月14日)も含めて運営が続けられてきました*2)。4月19日を臨時休館にしたこと、ゴールデンウィークの休みを例年より少し長い4月27日~5月6日にしたこと以外は、週6日の運営が続けられています。
運営にあたっては、入口付近への消毒液の設置、テーブルへのアクリル製のパーティションの設置、マスク着用の呼びかけなどの感染防止対策がとられています。

感染防止対策は当然かもしれませんが、「居場所ハウス」では注目すべきは、新型コロナウイルス感染症の時期だからこそ求められる、次のような新たな試みが始められていることです。
4月末には表に「居場所農園」から収穫した野菜を販売するための無人販売所が設置(夏場は「居場所ハウス」内で野菜を販売)。5月15日からは、0と5のつく日には一ノ関の八百屋さんによる野菜も販売されています。食堂はテイクアウトへの対応がなされ、7月末には見守りも兼ねたお弁当の配達が始められました。

(表に設置された野菜の無人販売所。夏場は建物内で販売)

プログラムの変化

「居場所ハウス」はカフェと食堂が運営の基本ですが、各種の教室やグループ活動、行事など様々なプログラムも行われています。
ただし、各種の教室やグループ活動は人々が密に接触する状況が生まれることから、感染防止のために主に3月から5月にかけていくつかのプログラムが中止とされています。例えば、毎週水曜日の居場所健康サロンは3月初めから5月末までの3ヶ月間中止になりました。毎月第3火曜に開催されていた歌声喫茶は3月から現在まで中止とされています。一方、人々が密に接触しにくい健康体操、ノルディック・ウォーキングは一度も中止されることなく開かれていました。

多くの人が集まる行事も中止とされました。毎月の朝市は4月と5月は中止。さらに、多くの人々が集まる5月の鯉のぼり祭り、6月の周年記念感謝祭、8月の納涼盆踊りも中止とされています。
しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で子どもたちが多様な経験ができる機会を持ちにくくなっていることを考え、8月1日にはわらしっ子見守り広場による「わらしっ子見守り広場」として七夕飾り作り、紙芝居の読み聞かせなどが行われました*4)。また、8月8日は中止にされた納涼盆踊りに代わり、子どもの広場&朝市が開かれました。

毎週月・火・水の週3日の夕方、一般社団法人・子どものエンパワメントいわてによる「学びの部屋」(2018年4月から「学びの時間」)が開かれています。子どもたちの自学自習の場所として開かれているものですが、2020年3~4月にかけて開催回数を減らして開かれていました*3)。ただし、臨時休業が終わったゴールデンウィーク明けからは通常通り、週3日の開催となっています。

新型コロナウイルス感染症が拡大するまで1ヶ月に15~20回のプログラムが開催されていました。「学びの部屋」(学びの時間)は10数回開催されていました。
2020年3〜5月には感染防止のため多くのプログラムが中止とされたことはグラフからも伺えますが、2020年6月からはほとんどのプログラムが再開されています。毎週・毎月開かれていたプログラムのうち、現時点(2020年9月30日)でも中止とされているのは歌声喫茶だけとなっています。

来訪者・食堂利用者

新型コロナウイルス感染症が拡大する前、「居場所ハウス」には1日に約25人が訪れていました。しかし、2020年3〜5月には約15人ほどに減少。プログラムが中止になったこと、高齢者は感染すると重症化するリスクが大きいと言われることから外出するのを控える人がいたことなどを理由として考えることができます。

ただし、新型コロナウイルス感染症の影響で来訪者が減少しているのは「居場所ハウス」だけではありません。新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて閉鎖したり、運営を休止したりしている全国の場所も多い中で、大船渡市は感染者が見つかっていないという背景があるにしても、運営が継続されていたことは注目すべきであり、この大変な時期でも1日に約15人が訪れ続けていたと捉えるべきだと考えています。

また、食堂利用者数(※テイクアウト、配達の人を含む)には大きな減少が見られないことも注目すべき点です。新型コロナウイルス感染症が拡大する前の1日の食堂利用者数は約10人でした。来訪者が大きく減少した2020年3〜5月にも食堂利用者数は大きく減少していないことから、この時期には来訪者数に対する食堂利用者数の割合が大きくなっており、特に2020年4月は約64%と、食堂の位置づけが大きくなっています。この背景には、テイクアウトへの対応、見守りを兼ねたお弁当の配達という、新型コロナウイルス感染症の時期に対応するというスタッフの工夫があると言えますが、食堂の位置づけが大きくなっていることからは、「食」が暮らしの基本であること、「食」のサポートが求められていることに改めて気づかされます。

(日替わりのお弁当)

なお、「居場所ハウス」の来訪者数は延べ49,646人、1日平均約22.8人となっています(2013年6月13日~2020年8月末)。食堂利用者数は、延べ14,614人、1日平均約9.4人となっています(2015年5月〜2020年8月末)*5)。また、「学びの部屋」(学びの時間)は484回開かれ、延べ参加者数は5,733人、1回平均約11.8人となっています(2017年4月〜2020年8月末)*6)。


  • 1)日本において、新型コロナウイルス感染症の最初の感染者が発見されたのは2020年1月16日である。岩手県は47都道府県で最後まで感染者が発見されず、岩手県における最初の感染者が発見されたのは2020年7月29日である(※Wikipedia「日本における2019年コロナウイルス感染症の流行状況」のページより)。
  • 2)緊急事態宣言は以下の期間に発令された。2020年4月7日に埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県、福岡県の7都府県に緊急事態宣言が発令された(5月6日まで)。その後、4月16日に緊急事態措置の対象が全国に拡大された(5月6日まで)。5月4日には、当初5月6日までとされていた緊急事態措置を実施すべき期間が5月31日にまで延長。5月14日に北海道、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、京都府、大阪府、兵庫県の8都府県を除く39県の緊急事態が解除。5月21日には京都府、大阪府、兵庫県の3府県の緊急事態が解除。そして、5月25日に全国の緊急事態が解除された。
  • 3)総理大臣による全国の学校に対する休校要請を受け、大船渡市内の小中学校は3月3日から春休み明けの4月5日まで(3月18日の卒業式を除く)臨時休校とされた。さらに、4月22日から5月6日も臨時休校とされ、ゴールデンウィーク明けの5月7日から登校が再開された。「小中学校は3日から休校 春休みまで異例の措置 新型ウイルス感染防止で」・『東海新報』2020年2月29日号、「「普通の登校風景」戻る 小中学校が一斉に再開 高校など県立学校も」・『東海新報』2020年5月8日号より。
  • 4)「わらしっ子見守り広場」は、「居場所ハウス」で子どもたちを見守るために立ち上げられたグループで、元教員・保母らが参加。メンバーは、2017年から夏休みと秋に「居場所っこクラブ」を企画し、子どもたちと昔の遊びを楽しんだり、宿題をしたりしている。
  • 5)来訪者数、食堂利用者数にはスタッフも含まれる。来訪者数には「学びの部屋」(学びの時間)の参加者は含んでいない。朝市、鯉のぼり祭り、周年記念感謝祭、納涼盆踊りなどの大きな行事の来訪者はおおよその人数でカウントしている。食堂利用者数には食事をテイクアウト、配達した人も含まれている。
  • 6)「学びの部屋」(学びの時間)の参加者にはスタッフ(大半の回でスタッフは2人)も含まれている。