『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

小規模な場所(アフターコロナにおいて場所を考える-09)

2020年9月21日(月)の敬老の日、「居場所ハウス」では長寿を祝う会が開催され、約20人の高齢者が参加。食事や地域に伝わる踊り「アイヤ」などを楽しまれました。
例年、岩手県大船渡市末崎町では、末崎地区公民館の主催により、末崎中学校の体育館を会場として敬老会が開催されます。対象となる75歳以上の住民は1,000人弱で、毎年、数百人が参加するという末崎町における大規模な行事の1つです*1)。しかし、今年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のため敬老会は中止となり、お祝いのお菓子や記念品を配布するというかたちとされました。
こうした状況を受け、「居場所ハウス」では長寿を祝う会が企画されました。

「居場所ハウス」の長寿を祝う会は、末崎地区公民館が主催する敬老会に比べると小規模であり、敬老会を完全に代替するものではありません。しかし、新型コロナウイルス感染症の感染防止のため大規模な行事が中止となっている状況においては、ささやかでも小規模な行事を行なっていく工夫が大切であることに気づかされます。

(末崎中学校体育館)

(居場所ハウス)

大規模な施設と小規模な場所

ここで見た小規模なものが大規模なものの代わりを担う動きは、新型コロナウイルス感染症の拡大を経験した社会において、他の領域においても見られたように思います。

2020年2月27日(木)、安倍首相が全国の小中学校と高校、特別支援学校に対して、3月2日(月)から臨時休校することを要請しました。実際に休校するかどうかは学校や地方自治体の判断とされましたが、要請を受けほとんどの小中学校、高校、特別支援学校が臨時休校の措置を取りました*2)。
大学や短大でもキャンパスへの立入が制限され、オンライン授業が始められました。そして、2020年度の後期においても、オンライン授業と対面授業を併用している大学や短大が多いようです。

家族との面会を禁止した高齢者施設、お見舞いを禁止した病院など、外部との出入りを制限した施設もあります。図書館や公民館は臨時休館とされました。

業種によって在宅勤務・テレワークが導入された会社もあります。オフィスで接触することが感染リスクになると同時に、不特定多数の人々が乗り合わせる電車での通勤自体も感染リスクだと見なされたからです。現時点でも(2020年10月上旬)、電車に乗ると在宅勤務や時差通勤を要請するアナウンスが流れているのを耳にします。

新型コロナウイルス感染症の感染防止のためにとられた対応をいくつか見てきましたが、これらは大人数の(同じ属性の)人々が、1ヶ所に集まったり生活したりする大規模な施設は、感染リスクが大きいという認識のもとでの対応だと考えることができます。

最初に紹介した末崎町における敬老会が中止されたのも、こうした認識に基づくものだと考えることができます。そして、中止になった大規模な敬老会を、「居場所ハウス」という小規模な場所が長寿を祝う会というかたちで代替しようとした。

これと同じ動きは、仕事をする場所についても見られます。在宅勤務・テレワークが始まったことで、都心にあるオフィスに電車通勤するのではなく、(都心のオフィスに比べると)自宅の近くにあるサテライトオフィス、シェアオフィス、コワーキングスペースを利用する人も出てきています。例えば、東京都は2020年7月20日に、民間のサテライトオフィスが少ない多摩地域の府中、東久留米、国立の3市に「都内に在住または在勤で、企業などで働く人」、「フリーランスで働く都内在住の人」が利用できる「TOKYOテレワーク・モデルオフィス」を開設しています*3)。そして、都心のオフィスに通勤する必要がなくなったことから、「都市から郊外や地方への移住を考える人が目立つようになってきた」という動きも生じています*4)。

今後、新型コロナウイルス感染症が拡大する前のように都心のオフィスに通勤するというかたちに戻る可能性もありますが、新型コロナウイルス感染症は、大規模なオフィスではなく自宅近くの小規模な場所で仕事をするという現象を垣間見せたとも言えます。そして、感染が収束するまでの期間が長ければ、この現象は他の領域に広がる可能性があるかもしれません。
例えば、大規模なキャンパスへの立入が制限されるとすれば、サテライトキャンパスのような小規模な場所で、対面の授業やゼミが行われることになるかもしれません。

小規模な場所と「ばらける」こと

感染症が専門の岩田健太郎氏と、フランス文学者で思想家、武道家でもある内田樹氏は対談において、新型コロナウイルス感染症の感染リスクを減らすためには「人と違うこと」をやる、「ばらける」ことが重要であると指摘しています。

「岩田 ・・・・・・
コロナの感染が広がる一番の原因は、「同調圧力」 なんです。みんなが一つの場所に集まるから、どんどん感染が広がっていく。逆に言えば、「人と違うこと」をやり続けていれば、感染リスクはどんどん減っていくんです。ところがこの「人と違うこと」に、今の日本人の多くは耐えられない。 「リモートワークの環境が整ってるなら自宅で働けばいいじゃん」となっても、「同僚が電車に乗って会社に通ってるのに、俺だけ家にいるのは許されない」とか言って、みんな出勤する。他の人と合わせないことで、ペナルティをもらうことを恐れてるんですね。
・・・・・・
人と違うことに耐える、そして誰かが人と違うことをやっても許せる。この二つの姿勢を僕らが身につければ、コロナ対策にもなるし、日本社会のヘンな同調圧力から脱却できる契機になると思うんですね。
内田 それはほんとうによくわかります。感染症対策として一番いいのは「ばらける」ことなんですよね。できるだけ「みんながしていること」はしない、というのがいい。これは、限られた環境世界のなかで複数の生物種が生き延びてゆくために、生態学的ニッチを「ずらす」という生存戦略と同じだと思うんです。・・・・・・。感染症はそういう生き方が人間の場合でも生存戦略上有利であるということを教えてくれたんじゃないかと思います。」*5)

ここでみてきた小規模な場所は、対象とできる人が少ないがゆえに、結果として「人と違うこと」をやる、「ばらける」ことにつながっていく。これは、新型コロナウイルス感染症の感染リスクが少ないということでもある。
この点で、新型コロナウイルス感染症は、小規模な場所の見直しにつながるのではないかと考えています。

感染症から一方的に守られるべき弱者ではなく

高齢者は新型コロナウイルス感染症に感染すると重症化リスクがあると言われています。そのため、高齢者施設において家族との面会が禁止され、大船渡市末崎町の敬老会のように大人数の高齢者が集まる行事されてきました。ここでは、高齢者が感染症から守られるべき弱者と見なされています。

感染防止が重要なのは当然ですが、「居場所ハウス」から気づかされるのは、小規模な場所は(大規模な場所より)感染のリスクが小さいことに加えて、小規模な場所であれば高齢者が自らの工夫によって、感染防止対策を講じたり、感染が拡大した状況において必要とされる活動を行なったりしやすいこと。つまり、高齢者は感染症から一方的に守られるべき弱者ではなく、高齢者もまた新型コロナウイルス感染症への対応を担う側の存在だということです。

岩手県大船渡市では現時点でも(2020年10月上旬)感染者が見つかっていないという状況もありますが、「居場所ハウス」は臨時休業することなく運営が継続されてきました。そして、4月末には農園から収穫した野菜を販売するための無人販売所が設置されました。食堂はテイクアウトへの対応がなされ、7月末には見守りも兼ねたお弁当の配達が始められました。このように、「居場所ハウス」の高齢者は、新型コロナウイルス感染症に対応する側の存在です。

「居場所ハウス」だけでなく、他の居場所(まちの居場所)においても、新型コロナウイルス感染症への対応が、様々な人々がアイディアを出したり、自分にできる役割を担える貴重な機会と捉えられており、実際、様々な人々の協力による感染防止対策が行われています。

高齢者も弱者ではなく、社会を作りあげる側の一員になれること。居場所が大切にしてきたことは、新型コロナウイルス感染症が拡大した現在においても変わらない。そして、これが可能になっている背景には、居場所が小規模だという要因がある。この点でも、小規模な場所は見直されるべきだと考えています。


  • 1)例えば、2019年9月16日に開催された敬老会には218人が参加している
  • 2)「休校99%の公立小中高など決定 20市町村は授業続行」・『朝日新聞』2020年3月4日号
  • 3)「東京都、無料サテライトオフィスを多摩3市に開設」・『日本経済新聞』2020年7月21日号
  • 4)「同僚は地方移住 テレワークが変える働き方 」・『日本経済新聞』2020年7月11日号
  • 5)内田樹 岩田健太郎(2020)『コロナと生きる』朝日新書

※「アフターコロナにおいて場所を考える」のバックナンバーはこちらをご覧ください。