『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

人々の思いが先行すること:ニュータウンのミュージアムを考える

少し前の新聞で、博物館についての記事を見かけました。この記事の中で、文化庁美術学芸課長の栗原祐司氏は、現在の日本の博物館・美術館について以下のように話しています。

自治体のハコもの行政の問題もある。「記念碑」として凝ったデザインで造られ、使い勝手が悪い施設も多い。欧米では地域の文化を守り伝える拠点にしたいという思いが住民にあるが、日本では住民の熱意というより、お上の意向で造ることが多いため、人々の魂がこもりにくい。
*栗原祐司(文化庁美術学芸課長)「省庁横断的な運営理想」・『朝日新聞』2010年5月4日号

2010年5月にイギリスを訪問した時、レッチワーススティヴネイジクローリーハーロウミルトン・キーンズでミュージアムを訪問しました。

これらのニュータウンでは、ミュージアムのために建物が新築されたというところは1つもありませんでした。ニュータウン開発前からその地域に建っていた建物を使ったり、ショッピングセンターの空店舗を使ったり、元オフィスだった建物を使ったり。いずれの場所も、「地域の文化を守り伝える拠点にしたいという思い」を抱いた人々によって開かれた場所。日本語の博物館・美術館という言葉から受ける印象と比べるとささやかな場所でしたが、どのミュージアムの方も、自分たちの場所のことに誇りをもっておられ、熱心にミュージアムのことを話してくださいました。

千里ニュータウンで、今すぐイギリスと同じようなことができるかどうかはわかりませんが、人々の思いをきっかけとしてミュージアムが開かれたという話には励まされました。千里ニュータウンでも、思いを抱いた人がい続ける限り、いつか、何らかのかたちで実現できるのではないかと考えています。

(更新:2018年11月2日)