シンガポールでは、国民の約8割がHDB(Housing and Development Board:住宅開発庁)が開発する住宅に住んでいます。人口の増加に伴い*1)、テンガ、プンゴルという新たな町の開発が進められていますが、同時に、既存の町の再開発も進めています。
シンガポールの町の光景はどんどん変化していますが、興味深いのは、町の歴史を継承する取り組みもされていること。ここでは、チョア・チュー・カン(Choa Chu Kang)での取り組みをご紹介したいと思います。
チョア・チュー・カン(Choa Chu Kang)はシンガポールの西部に位置しており、1987年、HDBの最初のプロジェクトが完成。2018年時点の人口は約16.9万人と、HDBが開発する町では規模の大きな町となっています。町の中央を、MRT南北線(North South Line)が走っています。
町の歴史の展示を見かけたのは、MRT南北線のユー・ティー(Yee Tee)駅の北側の鉄道高架下に整備されたユー・ティー・ライフスタイル・コリドール(Yew Tee Lifestyle Corridor)と呼ばれる公園。ユー・ティー・ライフスタイル・コリドールは、周りにはHDBの高層住棟などが建ち並び、駅とHDBの高層住棟とを行き来する人のアクセス路にもなっています。


(HDBの高層住棟)
ユー・ティー・ライフスタイル・コリドールは、ユー・ティー駅の北側、チョア・チュー・カン・ストリート62(Choa Chu Kang Street 62)からパン・スア運河(Pang Sua Canal)の約700mの鉄道高架下を整備して、2024年末にオープン*2)。南側(ユー・ティー駅に近い側)から、ハート・オブ・ユー・ティー(Heart of Yee Tee)、スピリット・オブ・カンポン(Spirit of Kampong)、セレブレーション・オブ・ハーベスト(Celebration of Harvest)と呼ばれる3つのゾーンから構成されています。
ハート・オブ・ユー・ティー(Heart of Yee Tee)
ハート・オブ・ユー・ティー(Heart of Yee Tee)は、チョア・チュー・カン・ストリート62(Choa Chu Kang Street 62)からチョア・チュー・カン・ノース7(Choa Chu Kang North 7)までの間のゾーンで、南から、ヘリテージ・プラザ(Heritage Plaza)、ウォータープレイ・プラザ(Waterplay Plaza)、サンパン・ガーデン(Sampan Garden)、遊び場(Playground)が設けられています。
ヘリテージ・プラザ(Heritage Plaza)は、ユー・ティーの歴史を紹介する3枚のパネルが設置。ユー・ティー(Yee Tee)は「油池」の意味。第二次世界大戦中、占領していた日本軍が油を貯蔵したことから、この名前が付けられたと一般的に理解されているが、第二次世界大戦開始前から存在していた村で、1938年の地図に掲載されていることが紹介。またシンガポールで最も古いコミュニティ・センターの1つである、ユー・ティー・コミュニティ・センターは、1963年に建設されたこと、1991年時点のユー・ティー村は20軒に満たない静かな村であったことなどが紹介されていました。展示パネルには、新聞『The Straits Times』に1987年に掲載された生徒のエッセイも掲示され、当時の村の様子が紹介されています。


(ヘリテージ・プラザ)
ウォータープレイ・プラザ(Waterplay Plaza)には噴水があり、通りかかった時も何人かの子どもが遊んでいるのを見かけました。更衣室、シャワーも設置されています。


(ウォータープレイ・プラザ)
サンパン(Sampan)は、中国南部や東南アジアで使われる平底の木造船で、サンパン・ガーデン(Sampan Garden)には、サンパンの形をした花壇がいくつかあり、周りにベンチが設置されています。


(サンパン・ガーデン)
遊び場(Playground)には、ユー・ティーの歴史からインスパイアされた、油をいれるドラム缶(オイル・ドラム)の形をした大きな遊具が設置されています。


(遊び場)
スピリット・オブ・カンポン(Spirit of Kampong)
カンポン(Kanpong)はマレー語で「村」の意味。スピリット・オブ・カンポン(Spirit of Kampong)は、チョア・チュー・カン・ノース7(Choa Chu Kang North 7)から、チョア・チュー・カン・クレセント(Choa Chu Kang Cres)までの間のゾーンで、南から、ヴィレッジ・エントランス(Village Entrance)、遊び場(Playground)、ストリート・サッカー・コート(Street Soccer Court)、コミュニティ・パヴィリオン(Community Pavilion)が設けられています。
ヴィレッジ・エントランス(Village Entrance)では、ユー・ティー村の入口として、像と展示パネルで、ユー・ティー村の歴史が紹介されています。像はユー・ティー村の暮らしを表現したもので、屋台でものを売る人、農業をしている人、犬と猫に餌をやる人、子どもと鶏の4組。展示パネルには、ユー・ティー村の位置を示した新旧の地図、昔の航空写真に加えて、かつて村の近くを通っていたマレー鉄道の踏切(Mandai Gate Crossing)、パン・スア運河(Pang Sua Canal)の歴史が紹介されています。


(ヴィレッジ・エントランス)
エントランスの北には、遊具の置かれた遊び場(Playground)、そして、ストリート・サッカー・コート(Street Soccer Court)があります。


(遊び場、ストリート・サッカー・コート)
コミュニティ・パヴィリオン(Community Pavilion)は、地域のイベントなどの会場として使われるスペースで、ストリート・サッカー・コートのすぐ北から、チョア・チュー・カン・クレセントまで、100m以上の屋根付きのスペースがもうけられています。


(コミュニティ・パヴィリオン)
セレブレーション・オブ・ハーベスト(Celebration of Harvest)
セレブレーション・オブ・ハーベスト(Celebration of Harvest)は、チョア・チュー・カン・クレセント(Choa Chu Kang Cres)からパン・スア運河(Pang Sua Canal)までの間のゾーンで、南から、センソリー・ガーデン(Sensory Garden)、オーチャード・プレイグラウンド(Orchard Playground)、3ヶ所のフィットネス・コーナー(Fitness Corner)、リハビリ・エクササイズ・コーナー(Rehab Exercise Corner)があり、鉄道高架下から少し離れた位置に、円形劇場(Amphitheatre)が設けられています。
センソリー(Sensory)は感覚的な、という意味。センソリー・ガーデン(Sensory Garden)では、石や木が置かれ、一画に鉄筋のような楽器が設置されていました。通りかかった時、楽器を鳴らして遊んでいる子どもがいました。


(センソリー・ガーデン)
オーチャード(Orchard)は果樹園、の意味。オーチャード・プレイグラウンド(Orchard Playground)は農業(agrarian)をテーマとする遊び場で、トマトの形をした遊具が置かれています。


(オーチャード・プレイグラウンド)
3ヶ所のフィットネス・コーナー(Fitness Corner)、リハビリ・エクササイズ・コーナー(Rehab Exercise Corner)には、各種の健康器具が設置されています。


(フィットネス・コーナー、リハビリ・エクササイズ・コーナー)
鉄道高架下から少し離れた位置、パン・スア運河を見渡すことができる位置には、円形劇場(Amphitheatre)が設けられています。


(円形劇場)
■注
- 1)シンガポールの人口は、2024年6月に初めて600万人を超えている。JETRO「シンガポールの人口が過去最多、600万人の大台に」(2024年10月1日)のページより。
- 2)Lester Ng「Yew Tee Lifestyle Corridor: Water Play Park, 3 Playgrounds, Heritage & Community」December 5, 2024