『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

ひがしまち街角広場:ニュータウンの空き店舗を活用した地域の「ひろば」

昨年末、建築学会より単行本『まちの居場所』が刊行されたことを受け、日本建築協会が出版する雑誌『建築と社会』2011年4月号で「居場所/サードプレイス」という特集が組まれることになりました。この特集の一記事として、千里ニュータウンの「ひがしまち街角広場」のことを書かせていただきました。

記事のPDFファイルはこちらをご覧ください。


居心地の良さ・気兼ねの無さが、「ひがしまち街角広場」の魅力であるのは間違いないと思います。しかし、居心地の良さ・気兼ねの無さを強調するだけでは「ひがしまち街角広場」がもつ意味・可能性を捉え損ねてしまう。また、「ひがしまち街角広場」を“利用者のニーズ”に応じた運営がなされている場所だと捉えるのも正確ではない。このような内容を書かせていただきました。以下は記事からの引用です。

・・・・・・。このように「街角広場」は多くの人々の協力によって成り立っているのである。代表の赤井さんは「来る方もボランティア、お手伝いしてる方もボランティアっていう感じで、いつでもお互い何の上下の差もなく、フラットな関係でいられるっていうのが一番いい」、「ここは常に未完成なんです。未完成なままでやってるから、次々と色んなことを取り入れることができるんです」と話す。
地域のために何か役に立ちたいと考える人は少なくないかも知れないが、実際に何ができるかを見つけるのは難しいし、それを実行するのはさらに難しい。けれども「街角広場」に行けば、飲み物を入れたり、水を汲みに行ったり、写真や絵画を展示したり、バーベキューの準備をしたり、ペンキを塗ったりというように、お手伝いできる具体的な役割をたくさん見つけることができる。つまり、「街角広場」は地域の人々がお客さんとして気軽に訪れ、思い思いに過ごせるというだけの場所ではない。人々が「私にはこれができる」という具体的な役割を見出す余地のある「未完成なまま」の場所なのである。人々はそうした役割をきっかけとして地域に関わっていくのであり、同時に、人々により少しずつ担われる役割の積み重ねによって「街角広場」は成り立っているのである。
居心地の良い場所を誰かに提供してもらうのではなく、自らが当事者となり、何らかの役割を担うことによって地域を良いものにしようと働きかけていくこと、自らにとっての豊かな生活環境は、そのような働きかけを通してしか築かれない。ニュータウンは隅々まで計画され、極力無駄が排除された、言わば完成品としての街である。そんなニュータウンだからこそ、「未完成なまま」であるがゆえに、人々が地域へ関わるきっかけとなる具体的な役割を見出す余地がある「街角広場」のような場所が必要なのである。

(東日本大震災の被災地であるか否かに関わらず)研究者がその場所(の人々)に対してどのようなスタンスで関わるか? という問いを抜きにした研究は、もはや成立しないのではないかという気がします。
新たな調査対象を見つけ、調査を行ない、論文を書く。そうしてまた次の調査対象を見つけ、調査を行い、論文を書く。このようなサイクルを繰り返し場所を調査対象として消費していく、言わば焼き畑農業的な研究ではなく、ある場所とじっくりおつきあいをしながら、少しでもその場所を耕すことのお手伝いができるような研究。「ひがしまち街角広場」とはそのようなおつきあいをしていきたいと考えています。

ひがしまち街角広場〜ニュータウンの空き店舗を活用した地域の「ひろば」〜

社会実験から自主運営へ

「ニュータウンの中には、みんなが何となくふらっと集まって喋れる、ゆっくり過ごせる場所はありませんでした。そういう場所が欲しいなと思ってたんですけど、なかなかそういう場所を確保することができなかったんです」。「ひがしまち街角広場」(以下、街角広場)は、このような地域の人々の切実な思いから生まれた。
「街角広場」が開かれているのは、千里ニュータウンの一住区である新千里東町(1966年入居開始)の近隣センターである。近隣センターというのは、人々が徒歩で日常生活を送れるようにと考えられ、千里ニュータウンの各住区に計画された場所である。日用品を扱うお店や公衆浴場、銀行などが営業する場所であったが、モータリゼーションや各住戸への風呂場の設置等の生活環境の変化に伴い、次第に空き店舗が目立つようになっていった。
2000年、新千里東町が国土交通省の「歩いて暮らせるまちづくり事業」のモデルプロジェクトの対象地区に選定された。この事業で行われたワークショップで「近隣センターを生活サービス・交流拠点へ」という提案があり、これを受けて豊中市の社会実験として「街角広場」の運営が始められることになった。当初は社会実験として半年間のみ運営される予定であったが、社会実験が終了する頃になると運営を続けて欲しいという声が地域からあがってきたため、この声に応えて、社会実験終了後も運営が続けられることになった。社会実験の間は豊中市から財政的な支援を受けていたが、これ以降は補助金を受けることなく「自主運営」されている。
2006年春、利用していた店舗の利用契約の期限が切れることになった。その後の運営のあり方について議論がなされ、近隣センターで運営しないのなら「街角広場」の意味がないという考えから、近隣センターの他の空き店舗に移転し、運営が続けられることになった。
「お客さんが来なくなって運営が継続できなくなるというのは、「街角広場」が地域で必要されていないという意味だから、その時には補助金で下支えして無理に運営を続けるんじゃなく、潔く閉めましょうね」。「自主運営」を始める時にこう約束したと代表の赤井さんは話す。このような約束で「自主運営」が始められた「街角広場」も、今秋にはオープン10周年を迎える。

気軽で自由な場所

私たちは、住む場所(ファーストプレイス)や働き学ぶ場所(セカンドプレイス)において多くの役割を担い、責任を負っている。サードプレイスとは、これらの役割や責任から解放される場所である。このような説明を聞くと、ここで紹介している「街角広場」は役割や責任を負う必要のない、気軽で、自由な場所だという印象を持たれるかもしれない。
もちろん、「街角広場」にも気軽で、自由な場所だという側面はある。毎日運営されており、またコーヒーや紅茶などが「お気持ち料」100円で提供されていることから、地域のお年寄り、小さな子どもを連れた母親など様々な人々が気軽に立ち寄り、思い思いに過ごせる場所になっている。学校帰りの子どもたちが「おばちゃんお水ちょうだい」と立ち寄る場所にもなっている。それまでニュータウンになかった「みんなが何となくふらっと集まって喋れる、ゆっくり過ごせる場所」を実現したという意味で、気軽さ、自由さが「街角広場」の魅力であることには違いない。けれども、気軽さ、自由さという側面からだけでは「街角広場」が地域で担っている意味は語り切れない。

地域への入口

「街角広場」の日々の運営は2~3人のボランティアによって担われているが、ボランティアとそれ以外の来訪者との関係が固定されているわけではない。時間がある時はボランティアも来訪者と一緒に座って話をする。逆に忙しくなれば、来訪者がコーヒーを運ぶのを手伝ったり、テーブルの後片付けを手伝ったり、水を汲みに行ったりする。写真や絵画を展示したり、手作りの竹細工を持って来たり、お土産などを差し入れたりする人もいる。日々の運営だけでなく、毎年10月に行われる周年記念行事や2006年の移転の際にも、多くの人々の協力がなされた。このように「街角広場」は多くの人々の協力によって成り立っているのである。代表の赤井さんは「来る方もボランティア、お手伝いしてる方もボランティアっていう感じで、いつでもお互い何の上下の差もなく、フラットな関係でいられるっていうのが一番いい」、「ここは常に未完成なんです。未完成なままでやってるから、次々と色んなことを取り入れることができるんです」と話す。
地域のために何か役に立ちたいと考える人は少なくないかも知れないが、実際に何ができるかを見つけるのは難しいし、それを実行するのはさらに難しい。けれども「街角広場」に行けば、飲み物をいれたり、水を汲みに行ったり、写真や絵画を展示したり、バーベキューの準備をしたり、ペンキを塗ったりというように、お手伝いできる具体的な役割をたくさん見つけることができる。つまり、「街角広場」は地域の人々がお客さんとして気軽に訪れ、思い思いに過ごせるというだけの場所ではない。人々が「私にはこれができる」という具体的な役割を見出す余地のある「未完成なまま」の場所なのである。人々はそうした役割をきっかけとして地域に関わっていくのであり、同時に、人々により少しずつ担われる役割の積み重ねによって「街角広場」は成り立っているのである。
居心地の良い場所を誰かに提供してもらうのではなく、自らが当事者となり、何らかの役割を担うことによって地域を良いものにしようと働きかけていくこと、自らにとっての豊かな生活環境は、そのような働きかけを通してしか築かれない。ニュータウンは隅々まで計画され、極力無駄が排除された、言わば完成品としての街である。そんなニュータウンだからこそ、「未完成なまま」であるが故に、人々が地域へ関わるきっかけとなる具体的な役割を見出す余地がある「街角広場」のような場所が必要なのである。

地域の場所としての具体的なかたち

「ひがしまち街角広場」の運営が始められた後、新千里東町には新たな「ひろば」が生まれている(地図参照)。「ひがしまち街角広場」は近隣センターの空き店舗に、「コラボひろば」は公共施設である豊中市千里文化センター・コラボの一画に*1)、「3・3ひろば」は府営住宅の集会所に、「街角広場」は分譲マンションの共用施設として開かれた場所であり、それぞれ運営方法も運営体制も異なるが、いずれも「ひろば」と名づけられている。
先程の表現を用いると、地域のための場所を作りたいと考える人は少なくないかも知れないが、実際にどのような場所を作ればよいかを考えるのは難しいし、それを実現するのはさらに難しい。「ひがしまち街角広場」はそのような人々に対して、特定の活動やイベントの時だけ人が集まる場所ではなく、お茶が飲める日常的な場所が大事であること、そのためには広いスペースや高価な設備は不要であり、ささやかでも自分たちの手で作っていくことに意味があること、というように地域のための場所の1つのあり方を、目に見えるかたちで示している。
地域に「ひがしまち街角広場」が開かれたことの意味は、気軽で、自由な場所が近隣センターの空き店舗に完結された世界として実現されたということにとどまらない。新千里東町にいくつかの「ひろば」が生まれているように、その住民手作りの場所は地域のあり方にも影響を与えているのである。


場所の概要

■ひがしまち街角広場

[所在地]大阪府豊中市新千里東町(千里ニュータウン)
[オープン]2001年9月 *2006年5月に移転
[運営日]月曜~土曜日
[時間]11:00~16:00
[運営]ひがしまち街角広場運営委員会
[スタッフ]約12名のボランティア
[建物]近隣センターの空き店舗を活用
[面積]移転前:約30㎡/移転後:約75㎡
[メニュー]コーヒー・紅茶・日本茶・カルピス・ジュース
*全て「お気持ち料」100円

■コラボひろば

[運営開始]2010年4月
[運営日]火曜~土曜
[運営時間]10:00~17:00
[建物]千里文化センター・コラボ
*「千里文化センター市民実行委員会」のメンバーをはじめとするボランティアにより運営されており、コーヒー・紅茶が200円、ジュース・カルピスが100円で提供されている。「絵本カフェ」「多文化カフェ」「エコカフェ」の「テーマ型交流カフェ」、住まいの相談などの活動も行われている。

■街角広場

[建物]分譲マンションの共用施設
*2005年に入居がはじまった分譲マンション。「ひがしまち街角広場」を訪れた設計者が、マンションにもこのような場所が必要だと考え、計画した。

■3・3ひろば

[運営開始]2009年7月
[運営日]第2水曜・第4金曜
[運営時間]13:00~16:00
[建物]府営住宅の集会所
*府営住宅の建て替えで一時移転している人、一人暮らしの人がお茶を飲みながら、おしゃべりできるようにと考えられ開かれた。ボランティアによりお茶・コーヒー・紅茶・カルピスなどが100円で提供されている。

*1)「コラボ」は、千里公民館、千里図書館、千里老人福祉センター、千里保健センター、新千里出張所の5つの機関が入居する複合施設で、千里中央地区の再開発に伴い、2008年2月にオープンした。

参考文献

・日本建築学会編『まちの居場所』東洋書店, 2010
・田中康裕ほか「日々の実践としての場所のしつらえに関する考察―『ひがしまち街角広場』を対象として―」・『日本建築学会計画系論文集』No.620, pp.103-110, 2007.10

(更新:2019年2月15日)