『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

千里ニュータウン「ひがしまち街角広場」のこれからを考える集まり

千里ニュータウン新千里東町の「ひがしまち街角広場」は、2001年9月30日のオープン以来、近隣センターの空き店舗を活用して、約19年にわたり住民ボランティアにより運営が継続されてきました。最初の半年間は豊中市の社会実験として補助を受け運営されていましたが、その後は補助を受けない「自主運営」が続けられてきました。

先駆的な「まちの居場所」(コミュニティ・カフェ)として、地域にとって重要な場所であり、また、地域内外の場所のモデルにもなってきた「ひがしまち街角広場」ですが、近隣センターの再開発に伴い、早ければ2021年春頃、遅くとも2022年夏頃には運営を終了することが決まっています。

近隣センターが再開発され、新しい地区会館が建設されます。新地区会館の中に、地域自治協議会のメンバーによってカフェを開く計画が進められています。当初、「ひがしまち街角広場」を継承するカフェの開設が期待されていましたが、そのようなカフェにはならないだろいうというのが、「ひがしまち街角広場」のスタッフの認識となっています*1)。

こうした状況を受け、2020年8月7日には「ひがしまち街角広場」にて、8月8日には千里文化センター・コラボにて、「ひがしまち街角広場」をどのように閉じていくか、その価値をどのように継承していくかを考える集まりを開きました。


  • 1)地域自治協議会によって、新地区会館内のカフェを考える(カフェプロジェクトの)メンバー募集がなされたが、メンバー募集のチラシにはQRコードとEメールの電子的な方法でしか応募方法が記載されていなかった。この募集方法は高齢の世代への配慮が見られず、結果として高齢の世代を排除することになったと思われる。
  • 「ひがしまち街角広場」について

    初代代表が次のように話すように、「ひがしまち街角広場」は「みんなが何となくふらっと集まって喋れる、ゆっくり過ごせる場所」を目的として開かれました。

    「ニュータウンの中には、みんなが何となくふらっと集まって喋れる、ゆっくり過ごせる場所はありませんでした。そういう場所が欲しいなと思ってたんですけど、なかなかそういう場所を確保することができなかったんです」(初代代表の言葉)

    ニュータウンには様々な施設や店舗があり、一見すると住みやすい街のように感じます。けれども、施設や店舗を整えるだけでは、地域の人々が切実に求めていた「何となくふらっと集まって喋れる、ゆっくり過ごせる場所」は実現されなかったということ。これは都市計画やまちづくりの専門家や研究者に対する大きな問題提起となっています。

    2001年9月30日のオープンから約19年が経過しましたが、「ひがしまち街角広場」が「みんなが何となくふらっと集まって喋れる、ゆっくり過ごせる場所」として運営されていることは現在も変わりません。
    半年間の社会実験期間中は教室や展示、コンサート、フリーマーケットなどのプログラムが定期的に開かれていましたが、「自主運営」が始まってから次第にプログラムは行われなくなってきました。

    「色んな行事というか、そういうことをやっても、結果的にはやっぱりみんなそのイベントよりも、ここでゆっくりただ座ってお茶飲んでしゃべって行くぐらい。そうなったら、今日はマッサージの日とか、何とかの勉強会の日とか、何とかの講習会の日っていうのは、あまり意味のないことだと思う」(初代代表の発言)

    「ひがしまち街角広場」の1日の来訪者数の平均は約35.5人。時期によって増減はありますが、プログラムがほとんど行われていないにも関わらず、一定数の人が訪問し続けています。このことも、地域の人々にとって「みんなが何となくふらっと集まって喋れる、ゆっくり過ごせる場所」の重要性を裏付けています(※来訪者数の推移の詳細はこちらを参照)。

    地域にとっての「ひがしまち街角広場」

    「ひがしまち街角広場」は多くの役割を担ってきましたが、特に次の3つが重要だと考えています。

    ふらっと立ち寄れる場所

    上に書いた通り、「ひがしまち街角広場」はプログラムを提供せず、ふらっと立ち寄れる場所として運営され続けてきました。特定の目的がなくても立ち寄れる場所であり、いつ行っても顔見知りの人が居てくれる場所。こうした場所であることから、日々の助け合いも生まれています。
    ただし、必ず会話に参加しなければならないわけでなく、1人で過ごせる場であることも見落としてはなりません。

    (日常の様子)

    (1人で過ごす人もいる)

    自分なりの役割が担える場所

    「ひがしまち街角広場」は地域の人々が自分なりの役割を担える場所という側面もあります。「誰かのために役立っている」という手応えが、暮らしに張りをもたらすことを考えると、これも「ひがしまち街角広場」の大切な役割です。
    スタッフがコーヒーをいれるのも役割ですが、来訪者がテーブルを片付けるのを手伝ったり、差し入れをすることも役割。初代代表が次のように話すように「ひがしまち街角広場」に顔を出すこと自体も役割と捉えることができます。

    「みんなどっちもボランティア。来る方もボランティア、お手伝いしてる方もボランティアっていう感じで、いつでもお互いは何の上下の差もなく、フラットな関係でいられるっていうのがあそこは一番いい。その代わり暇な時は一緒に座ってしゃべる。忙しくなったら、お当番じゃない人がいきなり立って来て、エプロンもかけてないのに手伝いをする」(初代代表の言葉)

    日々の運営は2〜3人のスタッフにより担われていますが、スタッフはカフェの店員ではなく、来訪者もお客さんではない。スタッフも来訪者も同じ住民という立場だということです。
    2006年5月の移転時には、スタッフだけでなく、住民らの協力により移転先の空き店舗の清掃が行われました。また、以前行われていた毎年10月の周年記念行事、毎年4月の竹の子祭りにも多くの協力がなされました。

    (移転先の空き店舗の清掃)

    (周年記念行事への協力)

    多世代の緩やかな関わりが生まれる場所

    「ひがしまち街角広場」のスタッフと来訪者の中心は高齢者ですが、学校帰りに子どもが水を飲みに立ち寄ることもあります。また、4月に東町公園で開催している竹林清掃&地域交流会では多くの親子が参加します。
    新千里東町では全ての住戸が集合住宅であり、親子二世代で暮らしている人が多く、子どもたちが日常的に接するのは親と(学校や習い事の)先生。また、人工的に作られた町であることから自然に触れる機会もありません。こうした状況において、「ひがしまち街角広場」は子供にとっては親でも先生でもない大人と関われる場所であり、竹林清掃を通して自然に触れるきっかけを生み出す場所にもなっています。

    (水を飲みに立ち寄る子ども)

    (竹林清掃&地域交流会)

    「ひがしまち街角広場」のこれからを考える集まり

    「ひがしまち街角広場」が間も無く運営を終了するにあたり、「ひがしまち街角広場」をどのように閉じていくか、その価値をどのように継承していくかを考える集まりを、8月7日に「ひがしまち街角広場」にて、8月8日に千里文化センター・コラボにて開催しました(いずれも、「ひがしまち街角広場」と「ディスカバー千里」の共催)。

    これから街角広場をどのように閉じるか、伝えるか

    8月7日の「これから街角広場をどのように閉じるか、伝えるか」には、「ひがしまち街角広場」のスタッフ、「ディスカバー千里」のメンバーら約15人が参加しました。

    当初、8月8日の千里文化センター・コラボでの集まりを企画していたところ、新型コロナウイルス感染症の感染防止のため千里文化センター・コラボでの集まりは限られた人数しか出席でいない。「ひがしまち街角広場」のスタッフも参加したいということで、前日に「ひがしまち街角広場」での集まりを開くこととなりました。

    最初に「ディスカバー千里」のメンバーから、新千里東町の特徴、「ひがしまち街角広場」が実現してきたこと、そして、活動の参考として岩手県大船渡市の「居場所ハウス」の様子を紹介。この後、意見交換を行いました。

    スタッフからは「ひがしまち街角広場」について次のような話がありました。

    • 別のテーブルに座っていても、あっちからも、こっちからも話が出て、コミュニケーションができる。
    • 水を飲みに来た子どもたちには、「こんにちは」と挨拶しなさいと声をかけるなど、子どもの教育という意味でも地域に貢献している。
    • 若い人から入りにくいという声を聞くこともあり、こちらも若い人とどうしたらコミュニケーションがとれるだろうかと思っている。でも例えば、子どもの悩みを一言聞いてくれたら、あっちからも、こっちからもアドバイスをしてくれる人が出てくると思う。

    「居場所ハウス」では、自分たちより高齢の人が頑張ってる姿を見て、スタッフはまだまだ若いと話す方もいました。

    「ひがしまち街角広場」だけでなく、地域についても様々な意見が出されました。
    運動会でも盆踊りでも文化祭でも、行事を開く場合、主催者でなくても、みなが協力してきたのが新千里東町の良いところ。今は地域自治協議会が主催になっているが、主催者という名前だけで地域自治協議会の役員は行事に出てくることはない。「東町はいいとこやな、協力し合って」って言われてきた部分が崩れてきてる。地域自治協議会の役員は「ひがしまち街角広場」に来ることはなく、「ひがしまち街角広場」のことをよく知らないし、知ろうともしていない。
    地域自治協議会の役員と直接会って話をしようと依頼しても、書面での回答があっただけで直接会って話をすることすらできない。だとすれば、市役所に出向いて現状を伝えるしかないのではないかという意見も出されました。

    こうした状況に対して、「ひがしまち街角広場」はずっと「自主運営」してきた。今さら地域にお願いしようという考えは違うのではないかという意見も出されました。これに対して、地域にお願いしようとしているわけでない。ただ、地区会館に新しくできるカフェが、高齢者にとっても、子育て中の世代にとっても気軽に訪れることができるようになって欲しいだけ、と話すスタッフもいました。


    「ひがしまち街角広場」をどのように閉じていくか、その価値をどのように継承していくかという大きなテーマについて結論が出されたわけではありませんが、今後も継続してこのような集まりを開くこととなりました。この日の集まりは、その最初のきっかけです。

    これからの東町のコミュニティを考える会

    翌日、8月8日の「これからの東町のコミュニティを考える会」には、新千里東町の地域団体のメンバーを中心とする住民、「ディスカバー千里」のメンバーら約20人が参加しました。

    この日も最初に「ディスカバー千里」のメンバーから、新千里東町の特徴、「ひがしまち街角広場」が実現してきたこと、そして、活動の参考として岩手県大船渡市の「居場所ハウス」の様子を紹介。この後、意見交換を行いました。

    「ひがしまち街角広場」のスタッフではない方から、「ひがしまち街角広場」の役割について次のような話がありました。

    • 子育ての悩みを抱いている時は、同じ世代の人だけでなく、自分より上の世代の人の話を聞くことも大切。「ひがしまち街角広場」はそれができる場所。新築会館にカフェができたとしても、もしも運営が外部委託になると残念。
    • 「ひがしまち街角広場」は東丘小学校内のコミュニティ・ルームの鍵を預かったり、広報を預かったりしてもらってるように地域運営の一端を担っており、地域運営をスムーズにするために欠かせない場所。「ひがしまち街角広場」のスタッフは地域の人をよく知っているからコミュニティ・ルームの鍵を預かってもらうことができる。「ひがしまち街角広場」がなくなるとどうしたらいいのかと思う。
    • 福祉の立場としては、「ひがしまち街角広場」に行くと高齢者の様子もわかるし、高齢者の情報も入ってくる。見張るというのではなく、例えば集合ポストの新聞がたまってるとか、さりげなく見ててくれる。「ひがしまち街角広場」のスタッフも町の住人だから、高齢者の情報を誰彼となく話すのではなく、民生委員とか人を選んで話してくるのがいい。「ひがしまち街角広場」はふらっと行って、情報をいただける場所。

    このように地域に大切な場所を、再開発で運営場所がなくなったから「おしまい」というわけにはいかないだろう、19年間も運営を担ってきた「ひがしまち街角広場」のスタッフに対して「ご苦労さん」とねぎらいの言葉をかける人が地域に誰もいないことが問題ではないか、という意見もありました。

    居場所は単にコミュニケーションをするだけの場所でなく、例えば高齢者がスマートフォンを覚えたりなど生涯学習の場所でもある、千里東町の子どもたちは道ですれ違った大人にも挨拶をする(他の地域はそうではない)、小学校の校門と近隣センターが向かい合ってる環境がなくなって欲しくないという話などの意見も。

    「ひがしまち街角広場」のこれからについては、この日も地域自治協議会のことが話題になりました。
    このような集まりにこそ地域自治協議会の役員に出席してもらう必要があるのではないかという意見。それに対して、案内はしたけれど何の反応もないし、誰も出席しない。このこと自体が、今の地域が抱える問題が現れているという話がなされました。
    外野から批判しているだけでは何も進まないので、「ひがしまち街角広場」のスタッフが新地区会館のカフェを計画する委員に参加する必要があるのではないかという意見。それに対して、「ひがしまち街角広場」のスタッフだけでなく、地域全体で取り組むべきではないかという意見もありました。


    「ひがしまち街角広場」をどのように閉じていくか、その価値をどのように継承していくかという大きなテーマについては結論が出されたわけではありませんが、スタッフでない人が「ひがしまち街角広場」をどう認識しているかについての話が聞けたことはこの日の成果です。
    一見すると「ひがしまち街角広場」は高齢者の溜まり場だと見えてしまいます。しかし、自分より上の世代に子育ての悩みを相談できる、コミュニティ・ルームの鍵の預かりなど地域運営の一端を担う、見張るのではなくさりげない見守りなどの意見からは、(全ての住民出ないにしても)地域では「ひがしまち街角広場」が担ってきた役割や可能性がきちんと認識されていることが伺えます。こうしたことをきちんと共有していくことが大切な役割になります。

    また、「ひがしまち街角広場」を継承する場所については、新地区会館のカフェだけでなく、小中学校の空き教室、団地やマンションの集会所、新しい近隣センター、公園などの可能性を探ることが必要かも知れません。

    なお、両日とも地域自治協議会の問題点が指摘されました。これは外野からの批判という一方的な意見かも知れません。しかし、地域自治協議会によってかえって地域がギクシャクしてしまったと考えている人が一定数いることは事実です。
    こうした意見を高齢の世代の、若い世代に対する不満として片付けるのではなく、こうした意見を汲み取り意見をすりあわせていくことが地域自治協議会に求められる役割だと考えています。

    (更新:2020年8月14日)