『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

地域の課題と、それを解決する手がかりを発見するためのマップ作りワークショップ

151219-135904 151219-142053 151219-153741

2015年12月19日(土)、「居場所ハウス」で地域での暮らしの課題を共有し、解決する手がかりを得るためのマップ作りのワークショップを行いました。ワークショップは日建設計ボランティア部とNPO法人Ibasho Japanの共同で実施したもので、2015年6月27日(土)10月17日(土)につぐ3回目のワークショップとなります。
10月に開催した2回目のワークショップでは、地図を見ながら「居場所ハウス」の周辺地域でどのような課題があるかを出し合いました。その時には、道路に歩道がついてない、照明が少なく夜になると道が暗い、現在は車を運転できるのでよいが、運転できなくなると不便になる、食材や日用品を買い物できる場所が少ない、「居場所ハウス」周囲で進められている高台移転などについての意見が出されました。
これを受け、3回目のワークショップでは、①買い物、②医療、③コミュニティに焦点を絞り、地域の課題を解決する手がかりを得るために、より詳しい話を聞いていきました。日建設計ボランティア部では、「居場所ハウス」周辺にある店舗、医院、公民館などをマッピングし、そこから800mの範囲にある道路を塗った地図を用意してくださいました。800mというのは、高齢者が歩けると言われている距離です。
この地図を使いながら地域の方から意見を伺っていきましたが、今回のワークショップでは次のようなことを気づかされました。


(1)空間的な近接性と公民館のまとまり
ワークショップに参加された方に自宅の場所を聞いたところ、大半の方が「居場所ハウス」のある平地区の方でした。中には他の地区から来られている方もいましたが、「居場所ハウス」は近所にあるから行くというように、空間的な近接性が重要だということだと思います。また、参加された方からは、末崎町は公民館(地区)のまとまりが強いという意見も出されました。平地区にある「居場所ハウス」には、他の地区の方は行きにくいという心理的なバリアがあるのかもしれません。

(2)居場所ハウスと公民館との違い
現在、末崎町には17地区があります(震災前は18地区だったのが、震災のため泊里地区は解散)。名前に「河原」「岸」「浦」「浜」という水に関する漢字が使われている地区、「坂」「山」と山に関する漢字が使われている地区があるのはリアス式海岸の土地だということが表れています。
それぞれの地区の中心になるのが公民館ですが、ワークショップでは公民館と「居場所ハウス」の違いについて話が出ていました。公民館というと社会教育施設やカルチャーセンターのようなものを想像される方もいるかもしれませんが、末崎町でいう公民館は社会教育施設としての公民館ではなく、集落自治の拠点としての公民館(自治公民館)です。
公民館は地区の住民がお金を出し合った建設された共有財産であるため、公民館にはその地区に所属している人だけが対象となります。それに対して、「居場所ハウス」は(平地区の人が中心だという現実があるとしても)対象者に限定はありません。公民館は普段は鍵が閉まっており、会議などあらかじめ予定を立ててから利用する場所であるのに対して、「居場所ハウス」は気が向いた時にいつ訪れてもよい場所だという違いがあります。
末崎町にある17地区は少ないところで30〜40世帯ですが、「居場所ハウス」のある平地区は200世帯と最大規模の地区になります。加えて、今後は防災集団移転による戸建て住宅と災害公営住宅約100世帯の入居が行われるため、世帯数はさらに増加していくことになります。このような大規模な地区はどのようにまとまりを築いていくのかが課題とされています。
東日本大震災の前、それぞれの公民館(地区)は所属メンバーに大きな変化もなく、安定した枠組みになっていたのだと思います。それが東日本大震災の影響で一部の人が他の地区に移転したり、解散する地区が出てきたり、失われる世帯があったりというように、現在、公民館(地区)という枠組みは揺らいでいると言えます。そういう揺らぎのある時期だからこそ、公民館(地区)の枠組みに捕らわれない「居場所ハウス」のような場所が必要なのだと思います。

(3)末崎町の一世帯当たりの人員数
ワークショップに参加した方に、単身の高齢世帯がどのくらいあるかと尋ねましたが、主催者が想像していたほど単身の高齢世帯はあげられませんでした。
ワークショップに参加したのは平地区の方が多かったのですが、上に書いたように地区ごとのまとまりが強いため、他の地区の情報をあまりご存じでないという理由もあると思います。2014年10月に大船渡市民を対象としたアンケート調査では(有効回答者数は1,164人。うち末崎町の住民は238人)、末崎町の回答者の単身世帯は約4%と、大船渡市の他町に比べて割合が小さかったという結果になったことから、そもそも末崎町には単身世帯が少ないという理由もありそうです。
こういう状況の中で、「居場所ハウス」の周りに建設が進んでいる県営の災害公営住宅には単身の高齢者が何人も入居してくる予定であり、単身の高齢世帯が集まるという末崎町内でも特異なエリアとなります。
なお、「居場所ハウス」で話を聞いていると、末崎町内には高齢の夫婦で住んでいたり、また単身であっても兄弟姉妹、親戚が同じ末崎町内に住んでいる高齢者も多いということです。そのため、今後、確実に単身の高齢世帯は増加すると思われます。

(4)施設の範域
ワークショップでは買い物や通院をどうしているかをお聞きしました。車の運転できる方は、車で末崎町外のスーパーマーケットに行く、洋服は一ノ関や水沢までドライブがてら買い物に行く、通院も車でという話。車が運転できない人はどうしているかと言うと、スーパーマーケットの買い物バスが巡回してくる、生協に宅配してもらう、日は限られているが訪問診療してくれる医師がいるなどの話でした。また、末崎町内には救急車が配備されておらず、119番に電話してから病院に到着するまで1時間はかかる、20〜30年前から末崎町内に救急車を配備してくれるよう依頼しているが予算の関係で難しいだろうという話も出されました。
「人口○○人に対して、○○施設を配置していく」「面積○○あたりに、○○施設を配置していく」というように、適正な範域をもって施設が配置されるのが好ましいという考え方があります。その考え方に従えば、末崎町内にもスーパーマーケットがあったり、病院があるのが好ましい状態ということになります。けれども、地方ではそのような状態は、現実的に実現するのが難しいのだと思わされました(大船渡市内に、釜石のイオンまで40数Kmという看板が立っているのを見て驚いたことがあります)。
以下は個人的な印象ですが、買い物や医療のように明確な目的があるものについては、自家用車や買い物バスで遠くまで出向くことで目的を達成するのと同時に、宅配や訪問診療により自宅にいながら目的を達成できるという状況が生まれている。家から自転車や徒歩で行ける中間的な距離には施設がすっぽりと抜け落ちていて、距離が遠いところ(車で)と距離がゼロ(自宅で)とに二極化している感じがしました。
そういう地方での暮らしがある中で、日常的に顔を合わせて話をする、見守る、お裾分けするというように、機能としては曖昧なものについては、変わらず空間的な近接性が意味をもち続ける。「居場所ハウス」にはわざわざ遠くから来る人はおらず、近所の人が訪れているという状況はこのことを表しているのかもしれません。


ワークショップはもう一度開催することを予定しています。次回のワークショップでは、今回出された意見をふまえた上で、それらの課題を解決するために何ができるか? を考える機会にしたいと考えています。