シンガポールでは今でも、プンゴル(Punggol)、テンガ(Tengah)など新たな街が開発されていますが、同時に、既存の街や団地を更新するためのプログラムも作られています。その1つが、ROH(Remaking Our Heartland:リメイキング・アワ・ハートランド)です*1)。
ROH(Remaking Our Heartland:リメイキング・アワ・ハートランド)
HDBのウェブサイトにはROHが次のように紹介されています*2)。
2007年のナショナル・デー(建国記念日)の集会で、リー・シェンロン首相が発表した「Remaking Our Heartland」(ROH)は、既存のHDBの街・団地の更新とさらなる開発により、HDBのハートランドの地蔵区可能性と活気を実現し、すべての人々にとってシンガポールを個性的で親のある家にするための包括的な計画として立ち上げられました。
成熟した、あるいは、新しいHDBの団地は多世代の人々の家です。ROHプログラムを通じて、HDBの団地を更新するための刺激的な計画が作成されます。計画はコミュニティの変化するニーズを満たすように調整されます。それぞれのHDBの団地は、それぞれのエリアの異なる特徴を利用して、そこをユニークにするものに基づいて建設されます。計画はHDBの街や団地を適切で、活気があり、そして、持続可能であり続けるように作り変えます。
プンゴル(Punggol)、イーシュン(Yishun)、ドーソン(Dawson)は2007年にROHに選ばれた最初の街・団地です。その後、2011年にイースト・コースト(East Coast)、ホウガン(Hougang)、ジュロン・レイク(Jurong Lake)がROH 2に選ばれました。
2015年3月、トア・パヨ(Toa Payoh)、ウッドランズ(Woodlans)、パシール・リス(Pasir Ris)が、ROH 3を受ける次のHDBの街であることが発表されました。再生計画を作成するにあたって、計画の初期段階に住民とステークホルダーが積極的に関与するため、HDBは2015年6月と7月にフォーカス・グループ会議(FGD=Focus Group Discussion)を開催しました。ROH 3の計画を策定するにあたって、HDBはフォーカス・グループ会議の参加者の意見を考慮しました。(後略)
イーシュン(Yishun)のROH
上で紹介されている通り、2007年、最初にROHの対象地に選ばれたHDBの街の1つがイーシュンです。ROHにより、イーシュンではタウン・センター、及び、屋外施設の更新が行われています*3)。
2007年9月、HDBは既存の団地を活性化させるためにROHの計画を発表しました。この政策の下で、イーシュンは、タウン・センターに新たな活気をもたらし、住民が楽しむためのより多くの屋外施設を作り出す新しいアップグレード・プログラムにより豊かになります。(後略)
以下では具体的にどのようなリニューアルが行われたのかを紹介したいと思います*4)。
タウン・センター
ノースポイント・シティ(Northpoint City)
MRTのイーシュン駅前にあるショッピング・モール。以前からあったノースポイント・ショッピング・センター(Northpoint Shopping Centre)を拡張したもの。以前からあるノースポイント・ショッピング・センター自体のリニューアルは2009年9月に完成。
ノースポイント・シティにはコミュニティ・クラブ、民間の集合住宅、バス・インターチェンジもあります。このコミュニティ・クラブは、シンガポールで初めてショッピング・モール内に開かれた場所ということです*5)。
歩行者空間(Pedestrian Mall)
タウン・センターに以前からある歩行者空間がリニューアルされています。改善は2010年7月に完成。
イーシュン・タウン・スクエア(Yishun Town Square)
タウン・スクエアはノースポイント・シティの南東、コミュニティ・クラブに隣接してもうけられた屋根のある大きな広場で、2018年5月に完成。広場に面してお寿司屋、ハンバーガー・ショップが開かれています。
タウン・スクエアの一画に次のような掲示がなされていました。
「イーシュン・タウン・スクエア
ROHの一環として建設されたイーシュン・タウン・スクエアは、住民が様々なイベントや活動において出会い、知り合いになるための重要な集まりの場所です。ヘリテージ・マーカー@イーシュン・タウン・スクエア
ヘリテージ・マーカー(Heritage Marker)はイーシュンとセンバワン(Sembawang)における重要なマイルストーンのいくつかを記録しています。時の流れを追うために、ヘリテージ・マーカーを辿ってください。」
ヘリテージ・マーカーというのは、タウン・スクエアの地面に描かれた円。11の円が描かれており、主な出来事が年号とともに紹介されています。
ヘリテージ・ガーデン@イーシュン(Heritage Garden@Yishun)
タウン・スクエアの南東には、ヘリテージ・ガーデン@イーシュンがあります。2010年5月に完成したこの場所は、シンガポール初の屋外のヘリテージ・コーナーとされています。
ヘリテージ・ガーデン@イーシュンは芝生の広場と建物に挟まれた長方形の空間で、ベンチ、植栽の間に歴史にまつわる約30枚のパネルが設置されていました。
イーシュンとセンバワン(Sembawang)にはヘリテージ・トレイル(Heritage Trail)がもうけられています。ヘリテージ・トレイルでは、歴史や文化にまつわる42カ所がスポットとされており、ヘリテージ・ガーデン@イーシュンもその1つとされています。
公園・屋外施設
イーシュン池(Yishun Pond)
タウン・センターの東にあるイーシュン池が綺麗にされています。2011年11月に完成。池の東には展望台。展望台は横断歩道ともつながっています。
コーテクプア病院(Khoo Teck Puat Hospital)
イーシュン池に面して、コーテクプア病院が建設。コーテクプア病院は2010年7月完成。病棟の間は緑の庭になっており、庭はそのままイーシュン池につながっています。
イーシュン公園(Yishun Park)
イーシュン池からイーシュン・セントラル(Yishun Central)という道路を渡った東に位置する大きな公園で、2012年8月に再開発が完成。豊かな緑のある公園です。
イーシュン公園の近くには、2017年9月20日にオープンしたイーシュン公園ホーカー・センター(Yishun Park Hawker Centre)があります*6)。
この他、ローワーセレターリザーバー(Lower Seletar Reservor)のリニューアル(2010年6月完成)、近隣公園(Neighbourhood Park)のリニューアル(2010年10月完成)も行われています。
住宅
新しい団地の建設
住宅の選択肢を増やすため、2007年12月に比べて17,000戸の住宅が新たに建設されています。建設された住宅は公営住宅(HDBの住宅)と民間の住宅で、17,000戸のうち12,328戸が公営住宅(HDBの住宅)とされています。
写真は新たに建設されたイーシュン・リバーウォーク(Yishun Riverwalk)というHDBの団地。中庭を作るように高層の住棟が配置されています。
既存の団地の改良
新たに住宅が建設されているのに加えて、HIP(Home Improvement Programme)、NRP(Neighbourhood Renewal Programme)、LUP(Lift Upgrading Programme)というプログラムを用いて既存の団地の住戸内、共用空間の改良も行われています*7)。
写真はイーシュン・リング・ロード(Yishun Ring Rd)の東側のエリアのHDB団地の写真。住棟は赤と白で塗られていますが、塗装はまだ綺麗であり、比較的最近塗られた塗装のように見えました。
NRPにより設置されたと思われる住棟の間の遊び場、フィットネス・コーナー、住棟周りのドロップオフ・ポーチ(降車ポーチ)、屋根付きの接続歩道(Covered Linkway)などを見かけました。
397番の住棟(Block 397)と399番の住棟(Block 399)の間で、ニー・スーン・イースト・ヘリテージ・パーク(Nee Soon East Heritage Park)という場所を見つけました。上部が広がった円柱4本が設置されており、周りにベンチ。円柱には地域の歴史などを紹介するパネルが掲示されていました。
自転車道(Cycling Track)
イーシュンの主要道路に自転車道が設置されています。フェーズ1は2001年3月に完成、フェーズ2は2015年第二四半期に完成。
アン・モ・キオ(Ang Mo Kio)の自転車道とは路面の色が異なりますが、バス停付近、交差点などで自転車道が途切れる部分には、自転車の運転手に注意を喚起するための黄色い線を引くという仕組みは同様です。
注
- 1)ハートランド(Heartland):オーチャード・ロードとビジネス街の外側のエリア(郊外)を指し、HDBの団地が建ち並んでいる。
- 2)以下の部分はHDB「Remaking Our Heartland」のページの翻訳である。翻訳にあたってはHDB Town:HDBの街、HDB Estate:HDBの団地の訳語をあてた。
- 3)以下の部分はHDB「Yishun」のページの翻訳である。翻訳にあたってはEstate:団地、Town Centre:タウン・センターの訳語をあてた。
- 4)以下はHDB「Yishun」のページに掲載されているe-Exhibition(2013年6月)のパネル、Wikipediaの「Yishun」のページなどを参考にした。
- 5)Wikipediaの「People’s Association (Singapore)」のページには、コミュニティ・クラブ(Community Club)が次のように紹介されている。
「1959年、シンガポールがイギリスの自治領になった時、多くのシンガポール人にとって雇用の見通しに乏しく、スキル訓練の機会もほとんどありませんでした。レクリエーション施設、社会施設、スポーツ施設もごく稀にしかありませんでした。人民協会(People’s Association)はイギリス政権によって設立された元の食品流通センター(Food Distribution Centre)をコミュニティ・センター(Community Centre)に変えました。コミュニティ・センターは全ての人々にとって、スキルを学び、社会活動やレジャー活動に参加し、そしてコミュニティの意識を築くために集まることのできる場所でした。経済の進歩を伴う長年の歩みを通して、コミュニ・ティセンターはコミュニティ・クラブ(Community Club)へと進化し、住民のニーズの変化にあわせて幅広いコース、活動、プログラム、施設を提供してきました。コミュニティ・クラブはコミュニティ・クラブ管理委員会(CC Management Committee)と呼ばれるボランティアのグループにより運営されています。」
- 6)ホーカー・センター(Hawker Centre)はこちらを参照。
- 7)HIP、LUPはこちら、NRPはこちらを参照。