MRTのトア・パヨ(Toa Payoh)駅に直結するHDBハブ(HDB Hub)のギャラリーは、2018年9月に「LIVINGSPACE Behind the Block: Singapore’s Public Housing Story」(リビングスペース 住棟の舞台裏:シンガポールの公営住宅の歴史)としてリニューアル・オープンしました。
シンガポールではこれまで多くの街や団地が開発されてきました。そして、現在でも新たな街や団地が開発され続けています。
計画の理念と手法に関する展示は非常に興味深い内容ですが、もう1つ興味深いと感じたのは、既存の街や団地を再生したり、コミュニティを形成したりするためにHDBでは様々な取り組みがなされていること。つまり、計画だけでなく、計画されたものの「その後」についても考えられていること。
以下ではギャラリーの「創造」(CREATE)、「共有」(SHARE)のコーナーの展示内容から、街・団地の再生、コミュニティ形成についての取り組みを紹介したいと思います*1)。
街の再生(Town Rejuvenation)
HDBのユニークな再生プログラム(Rejuvenation Programme)は、HDBのハートランド*2)が全ての人々にとって大切な家であり続けることを保証します。
団地のリニューアル・プログラムに基づく継続的な作り変えにより、古いHDBの街は、新しい街の標準に近づきます。コミュニティのニーズを満たすために常に進化しているこれらのプログラムは、住民が質の高い生活環境を享受できるようにします。リメイキング・アワ・ハートランド(ROH=Remaking Our Heartland)
ROHは、街や団地をより活気にあふれ、親のある家に変えるための総合的なプログラムです。
各地域の異なる特徴に基づいて、それぞれのROHプログラムは、交通の接続の向上から物理的な設備の改良、アイデンティティの強化まで地域社会のニーズに合うように調整されます。
コミュニティ・スペースを更新する計画について助言を求められる住民は、タウンセンターや近隣住区のワクワクする作り変えに重要な役割を果たします。選択的・包括的な再開発計画(SERS=Selective En bloc Redevelopment Scheme)
SERSの下では、土地利用を最適化し、古いHDBの団地を再生するために、選択された集合住宅の住棟を再開発できるようにします。
SERSでは、住民がまとまって新しい集合住宅に入居することを選択できるため、家族やコミュニティの結びつきが保持されます。近隣住区リニューアル・プログラム(NRP=Neighbourhood Renewal Programme)
住棟、管区内の共有エリアの改善に焦点をあてるNRPは、住民の生活環境の形成に積極的に取り組んでいます。
住宅改善プログラム(HIP=Home Improvement Programme)・アクティブシニアのための改良(EADE=Enhancement for Active Seniors)
HIPは住戸のオーナーが老朽化した住戸の一般的なメンテナンス問題を体系的かつ包括的に解決するものです。
EASEは住戸の安全性を高め、高齢の住民の移動のしやすさと快適性を向上させるために、高齢者に優しい改善を提供するものです。
※HDBギャラリーの展示の翻訳。
コミュニティの精神とつながりを生み出すデザイン(Designs That Foster Community Spirit & Bonding)
コミュニティ・スペースをデザインする際に、住民間のつながりと接触を生み出すことによって、より密接なコミュニティを育むことを目指しています。経路であろうと目的地であろうと、様々なコミュニティ・スペースは地域の人々との交流や活動を促進します。
頻繁に利用されることで、住民の間に帰属意識を育み、経験の共有に寄与します。近隣センター(Neighbourhood Centres)
近隣センターは、十分なコミュニティ・スペースと、スーパーマーケット、フードコート、飲食店、小売店のような日々のニーズを満たすため様々な設備への便利なアクセスを提供し、これにより住民が近隣住区の外に出る必要性を最小限に抑えます。
公園と庭園(Parks and Gardens)
近隣公園、共有の緑地、管区の庭園(Precinct Garden)はHDBの団地における新鮮な空気が吸える場所(Lung)です。緑豊かに植栽がされており、住民に緑の野外を楽しませます。遊具やフィットネスの機器は休憩エリアと統合されており、あらゆる年齢の人々にオープンでリラックスできるスペースを作り出しています。
スカイ・ガーデン(Sky Gardens)
空の庭園は、住民が楽しむための追加の緑地を提供します。屋上や途中階にあるこれらの垂直な庭(Vertical Garden)は座れる場所があり、コミュニティの集まりのためにデザインされており、また、住民がアーバン・ガーデニングを行うことを可能にします。それらはまた、高層建築の形態を柔らかなものにし、素晴らしい景観を生み出します。
シビック・プラザ(Civic Plazas)
タウン・センターといくつかの近隣センターの中心部に配置されているシビック・プラザは、新たなコミュニティ・スペースを作り出すために、周囲の開発と統合されています。HDBと地元のコミュニティのパートナーで構成される活性化チーム(Activation Team)はシビック・プラザにより大きな生命と活気をもたらすための活動をコミュニティが組織化することを奨励し、ファシリテートします。
コミュニティ・ガーデン(Community Garden)
希望があれば、あらゆる新たな管区において、コミュニティ・ガーデンを行うためのスペースが提供されます。通常、立体駐車場の上にあり、補助設備を設置することで車椅子にも優しいガーデンとして設計されています。
3世代の遊び場(3-Generation (3G) Playground)
3世代の遊び場には、子どもの遊び場と、大人・高齢者のフィットネス・コーナーが併設されています。大人は運動している間、子どもや孫を見守ることができます。そこはまたあらゆる年齢の住民がつながりを築くことを促進します。
管区のパヴィリオン(Precinct Pavilion)
管区のパヴィリオンは、コミュニティのニーズを満たすために新たな管区に設けられている屋根のついた、囲われていないスペースです。座れる場所、洗面台などの設備が備え付けられており、コミュニティのイベント、結婚式、葬儀などの社会的なイベントを開催するのに役立ちます。
コミュニティ・リビング・ルーム(Community Living Room)
コミュニティ・リビング・ルームは、コミュニティのリビング・ルームとして機能するように設計されています。通常、住民が頻繁にいるレターボックスやEVロビーの近くにあり、住民が交流したり話をしたりするために座れるスペースがあります。住民はここから接続歩道に沿って歩くことで、パーゴラ、多世代の遊び場など近くにある施設に行くことができます。
ヴォイド・デッキ(The ‘Void Deck’)
HDBの住棟の1階に位置するヴォイド・デッキは、ブロック・パーティー、お祭りなど様々な用途に利用できる大きくて柔軟なコミュニティ・スペースです。ヴォイド・デッキの一部は、保育園、学生のケアセンター(Student Care Center)、高齢者のデイケアセンターなどの社会施設やコミュニティ施設に転用されています。
共用通路(Common Corridors)
共通通路は、HDBの住棟の各階の全ての住戸から、EVロビーと、集中ゴミシュート・エリアへのアクセスを提供します。ここはまた、住民同士が交流できる場所でもあります。
※HDBギャラリーの展示の翻訳。
このようにHDBでは街、近隣住区、管区、住棟など様々なレベルにおいて、様々な空間がもうけられています。もちろん、物理的な空間をもうけることが即コミュニティ形成につながるわけではありませんが、まず、様々な空間がもうけられているのは興味深い点です。
また、シビック・プラザを活性化させるためにHDBと地元のコミュニティのパートナーでチームが構成されることも興味深い点です。
ギャラリーの「将来」(FUTURE)のコーナーでは、HDBの将来として次のような展示がなされていました。
- 高齢社会への対応(Adaptin to Ageing)
- 空間の創造(Creating Space)
- 社会の多様性の抱擁(Embracing Social Diversity)
- 環境の保全(Saving Our Envronment)
- 最高の明日の実現(Shaping The Best Tomorrow)
注
- 1)HDBギャラリーの展示の翻訳にあたっては、次のような翻訳語をあてた。
- HDB Town:HDBの街
- Estate:団地
- District:地区
- Neighbourhood:近隣住区(Neighbourhood Centre:近隣センター、Neighbourhood park:近隣公園)
- Precinct:管区
- Block:住棟(Block Party:ブロック・パーティー)
- 2)ハートランド(Heartland):オーチャード・ロードとビジネス街の外側のエリア(郊外)を指し、HDBの団地が建ち並んでいる。
※リニューアル前のギャラーの様子はこちらをご覧ください。
(更新:2023年11月6日)