『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

BRTの可能性を思い描く

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現在、大船渡の盛駅〜気仙沼駅間はBRT大船渡線(かつてのJR大船渡線の盛駅〜気仙沼駅間。BRTはBus Rapid Transit(バス高速輸送システム)の意味)が運行しています。2016年3月に新しい大船渡駅が完成してからは、大船渡市内は全て専用道が完成。交通渋滞に巻きこまれることもなく、BRTはほぼ定刻通りの運行が行われています。

大船渡市末崎町においては従来からあった細浦駅に加えて、新たに碁石海岸口駅が新設されました。末崎町から大船渡の中心市街地へ出るためには、1時間に1〜2本のBRTが運行しているのも便利なところ。震災前、電車が走っていた時は2時間に1本ほどしか運行していなかったことに比べると、BRTになり利便性は向上していると思われます。
以前、JR大船渡線の盛駅〜気仙沼駅間は鉄路での復旧を断念し、今後もBRTでの運行を行うという発表がなされました。それに対して、鉄路での復旧を求める声もあると聞きます。BRTが好ましいのか、あるいは、鉄路が好ましいのかは立場によって異なると思いますので、一概には言えません。ただし、今後もBRTでの運行を行うという発表がなされたとすれば、BRTにどのような可能性があるかを考えることも無駄ではないと思われます。

BRTは、鉄路を置き換えたものに過ぎないと見なせば、BRTの可能性はなかなか見えてきません。けれどもBRTは一般道も走行できるバスであり、BRT専用道は一般の車両も走行できる普通の道路だという点に注目すれば、色々可能性は広がってくるのではないかと思います。例えば…

末崎発→県立大船渡病院行きのBRT

2014年10月から半年間、末崎町内を巡回するコミュニティ・バスの社会実験が行われました。コミュニティ・バスは100円という乗車賃であったにも関わらず、あまり利用する人はいなかったと聞きます。ネックは乗り換えが不便であること。例えば、末崎町内から県立大船渡病院に行くためには、コミュニティ・バス→BRT→岩手県交通のバスと2度の乗り換えが発生します。ここで乗車しているのは(運行主体は違えど)全てバスだという点に注目すれば、末崎町内を巡回したバスが、碁石海岸口駅か細浦駅付近からBRT専用道に入り、そのまま大船渡の中心街まで走行し、大船都市駅付近から一般道に降りて県立大船渡病院に向かうという、末崎発→県立大船渡病院行きのBRTが実現できるかもしれません。

大船渡発→一ノ関行き、大船渡発→仙台行きのBRT

同じことは気仙沼駅での乗り換えについても言えます。震災前は盛駅から一ノ関駅まで乗り換えることなく行けたのに、現在は盛駅から気仙沼駅まではBRT、気仙沼駅から一ノ関駅まではJRと乗り換えが発生してしまいます。ここでもBRTは一般道も走行できるバスであるという利点をいかせば、気仙沼駅から一ノ関駅まで、さらには、仙台まで一般道を運行するという大船渡発→一ノ関行き、大船渡発→仙台行きのBRTというのも可能です(もちろん、大船渡発→東京行きのBRTも)。

BRT専用道を開放

末崎町内から大船渡の中心市街地に行く道は国道45線しかありません。事故が起これば渋滞が発生し、行き来に非常に時間がかかってしまいます。そういう時に国道45号線とほぼ平行して走るBRT専用道は貴重なインフラ。以前、住民の方が「専用道にはBRTが1時間に1〜2本しか走らないのはもったいない。事故があった時は、普通の車も走れるようにしたらいいのに」という話をしているのを聞いたことがあります。また、日建設計ボランティア部「逃げ地図」メンバーの方々と昨年、「居場所ハウス」で行ったワークショップでは、末崎町内から119番で救急車を呼んでも、末崎町には救急車が配置されていないため、病院に着くまでに1時間はかかってしまうという話が出されました。
こうした状況であれば、緊急の車両に限ってもBRT専用道を開放すれば、もっと病院に早く着くのではないかと思ってしまいます。また、将来子どもが減少し、小中学校が統廃合されるという自体になった場合も、スクールバスはBRT専用道を走れるということにしておけば、通学の不便さは少しは解消されるかもしれません。


もちろん、ここにあげたのは今の段階では夢物語に過ぎません。異なる主体のバス会社が連携して運行するのは難しいかもしれません。BRT専用道を開放すると言っても、どうやってすれ違うのかというシステムを考える必要があるため、安易に開放できるものではないと思います。
けれどもBRTは鉄路を置き換えたに過ぎないと捉えるのではなく、一般道も走行できるバスであることの長所を最大限にいかせば、新たなものをわざわざ作らずとも、今あるものを組み合わせることで(ということは莫大なお金をかけることなく)、暮らしの豊かさを向上させることは不可能でありません。こうした組合せの知恵が求められていると思います。

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『岩手日報』にBRT大船渡線についての記事が掲載されていました(「利用者1日平均8人 BRT魚市場前駅」・『岩手日報』2016年9月9日)。記事に記載されている「気仙沼-盛間の急行便、新幹線駅までの特急便が可能かを検討している」という部分がもし実現されたなら、BRTはもっと便利になると思います。

なお、記事に掲載されている利用者数は、JR東日本の「BRT駅別乗車人員」が元データ。
データはあくまでも乗車人員(降車人員は含まれない)ですが、BRT大船渡線で乗車人数を多い順にあげると、盛駅(272人/日)、高田高校前駅(118人/日)、陸前高田駅(87人/日)。また、末崎町内にある碁石海岸口駅は17駅中の7番目(32人/日)、細浦駅は9番目(29人/日)と真ん中ぐらいになっています。

(更新:2016年9月10日)