『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

地域の交通を考えるためのワークショップ

2016年11月19日(土)、「居場所ハウス」にて地域の交通を考えるためのワークショップを開催しました。日建設計ボランティア部「逃げ地図」メンバーとIbasho Japanのメンバーで行ってきた5回目のワークショップです。

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これまでのワークショップでは、「居場所ハウス」のある大船渡市末崎町での暮らしで、どのような課題があるかを伺ってきました。参加された方の意見から切実な課題として浮かび上がってきたのはモビリティ(移動すること)。

地域の交通にまつわる課題を解決しようとすると、行政など大きなところに陳情するか、個人・家族で抱え込むかという両極端な考えになりがち。前回のワークショップでは移動することの課題を自分自身の身近なものとして考えてもらうためのきっかけとして川柳を書いてもらうと同時に、それを解決するためのヒントとして各地で実施されている事例の紹介を行いました。紹介した事例の中で、参加された方が興味を示されたのが低速の電動コミュニティバス、Uberのシステムを用いた自家用車による有償送迎サービスの2つでした。


こうした経緯をふまえ、この日のワークショップでは、最初に低速の電動コミュニティバス、Uberのシステムを用いた自家用車による有償送迎サービスについての詳細を紹介。
低速の電動コミュニティバスについては、いくつかの自治体により観光用のバスとして利用されていること、最高で時速19kmとゆったりとした乗り物であること、そのため車両の後部に「お先にどうぞ」と後続車に追い越してもらうための表示がされていること、客席は8人乗りであること、仕切りがないため乗りながら話をしやすい客席になっていることなどを紹介いただきました。

自家用車による有償送迎サービスについては、京都府京丹後市で「ささえ合い交通」として既に実施されている事例を紹介いただきました。日本では自家用車による有償送迎サービスは禁止されていますが、公共交通空白地では特例としてそれが認められており、京丹後市の「ささえ合い交通」はその特例によるもの。
末崎町の中央地区、細浦地区にはBRT碁石海岸口駅、細浦駅があるため公共交通空白地とは認められない可能性はありますが、「無償」であれば自家用車での送迎サービスは可能だという説明もしていただきました。ここでいう「無償」の送迎サービスとは、

  • 送迎の対価を求めない場合(任意の謝礼と認められる場合は無償という位置付け)
  • 送迎の対価が自宅で採れた野菜などで支払われたり、地域通貨で支払われたりする場合
  • ガソリン代、駐車場代など実費のみを受け取る場合
  • 送迎が、デイサービスなど他のサービスと一帯となっており、送迎の部分については対価を負担する必要がない場合

があるとのことです。
参加された方からは、京丹後市の「ささえ合い交通」について必要な運転免許の種類、保険についての質問。普通免許でも講習を受ければサービスの提供者になれる、サービスを受けるためには会員に登録する必要がある(Uberのアプリケーションから登録可能)という説明をしていただきました。

次に、上でも触れた末崎町で身近にある公共交通としてBRT(Bus Rapid Transit)を紹介。BRT大船渡線・気仙沼線はグッドデザイン金賞を受賞しましたが、BRTがあるため公共交通空白地にはならない地域は恵まれているのかもしれません。

BRTはバスを鉄道のように運行するために元々は海外で考案されたもの。バスは時刻通りには運行しない、鉄道駅に比べるとバス停の位置がわかりづらいという課題を解決するために、専用道をバスが走るというのがBRT。日本でもBRTが導入されている地域はあるが、専用道を作るのが難しい。それに対して、BRT大船渡線・気仙沼線は被災した鉄路を転用しているため、BRTが専用道走っているという説明がありました。
ワークショップに参加された方にBRTへの乗車経験を尋ねたところ、乗ったことがあるという方もいましたが、乗ったことがないという方もいました。BRTは専用道を走るため大船渡の中心部に行くには自家用車よりも速く、1時間あれば買物をして戻ってこれるという意見、鉄道の時より本数が増えて便利になったという意見がありました。逆に、自宅からBRTの駅まで遠いため乗ったことがないという意見、BRTは降雪時などは一般道を走行するが、一般道を走行しているという情報は駅にいかないとわからないため不便(駅で迂回していることを知った後、一般道まで移動するのが大変)という意見。

低速の電動コミュニティバスにしても、自家用車による有償送迎サービスにしても、BRTにしても、1人ひとりの住民が、あるいは、住民が何人か集まって簡単にスタートできるものではありません。

そこで、日建設計のメンバーは、自分たちでできる活動のヒントになればと、この日のワークショップでは実際に「居場所ハウス」からBRT碁石海岸口駅まで歩くという企画を考えてくださっていました。実際に歩くことで、楽しい経験を共有したり、歩くのに危ない場所を探したり。また、BRT碁石海岸口駅は遠いからと歩くのを敬遠していても、実際に歩いてみると思っていたほど遠くはないという認識をもってもらえるのではないかという考えもありました。
しかし、この日はあいにくの雨。BRT碁石海岸口駅まで歩く企画は中止となりました。そこで、引き続き「居場所ハウス」にて議論を継続することに。

議論したのは、地域の方が本当にどのような地域を実現したいか、どのような課題を解決したいと考えているのかを出して欲しいということ。それを共有した上で、次回以降のワークショップでは、その目標に向けてどのような活動を展開できるかを議論していくこととなりました。雨天のため外に出ることはできませんでしたが、こうした議論の時間を持てたことはよかったと思います。
話はワークショップの始まりに戻ったかもしれませんが、今まで何回かのワークショップで行ってきた議論は決して無駄ではありません。これまでの議論をふまえて、改めてどのような地域を実現したいか、どのような課題を解決したいかをあげてもらうことは、地域の人々が主体となった活動を立ち上げていくためには必要なプロセスだと考えています。


最近、高齢者のドライバーによる事故のニュースが連日のように流れています。末崎町の人々にとっても他人事ではない切実な問題。それゆえ、低速の電動コミュニティバスや自家用車による有償送迎サービスに関心が集まったり、BRTについての議論が行われたりしたわけですが、これらをいざ導入するとなると資金が必要であったり、実施体制を整える必要があったり、行政やJRといった大きな組織に陳情するという話になったり。
自家用車を運転できなくなった時の暮らしをどうするかという自分自身にとっての切実な課題であったはずが、資金が必要だ、体制を整えなければならない、陳情しなければならないというように、自分一人では手が出しにくい問題へとすりかわってしまう。ここに地域の交通をめぐる困難があるような気がします。
もしかすると、交通とモビリティ(移動すること、あるいは、移動できること)とを分けて考える必要があるのかもしれません。自分自身にとって切実な問題を、他人事ではなくあくまでも自分自身のこととして向き合うための、言い換えれば、自分自身にとっての切実な問題を一般的な交通問題に回収してしまわないための枠組みを設定していく必要があるように考えています。