『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

実家の茶の間・紫竹:居場所から地域へ

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少し前の記事で、新潟市東区の「実家の茶の間・紫竹」を訪問させていただいて感じたこととして、個人として孤立せずに居られること運営側のスタッフも地域で生活する1人としていられることの2つをご紹介させていただきました。
けれども、任意団体「実家の茶の間」代表である河田さんの話を伺って感じたことは、それだけではありません。「実家の茶の間・紫竹」という居場所で築いた関係を、どうやって地域に広げていくかを目指されていることを強く感じました。

そのツールとして「実家の茶の間・紫竹」では「実家の手」という参加回数券を発行されています。「実家の茶の間・紫竹」の参加費は1回300円ですが、「実家の手」は参加券6枚セットで1,500円で販売されています(1枚あたり250円)。「実家の手」は「実家の茶の間・紫竹」の参加券として利用できるのは当然ですが、地域において「ちょっした手助けのお礼」にも利用できるとされています。手助けをしてもらった際に、券を何枚謝礼として渡すかはその時々で判断してもらっているとのこと。そして、手助けをした人は謝礼として受け取った券を「実家の茶の間・紫竹」の参加費として支払うことができるという仕組みです。
「実家の手」を使えば1回あたりの参加費は50円安くなるけれど、いくら金額が安くなったとしても、6回来ようと思ってもらえる場所でなければ、「実家の手」を買ってもらうことはできないと河田さんは話されていました。

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「実家の茶の間・紫竹」は任意団体「実家の茶の間」と新潟市の協働事業として、2014年10月にオープンしましたが、河田さんらが30年近くにわたる活動がその背景となっています。
その1つが、1991年からスタートされた「まごころヘルプ」という有償の助け合い活動。「まごころヘルプ」で他人(家族外の人)に家の中に入ってもらうとしても、誰もが同じ地域の人には家の中に入ってもらいたくないもの。それは、同じ地域の人に家の中のことを見られたくないし、家の中のことが地域で噂になるのも嫌だから、と河田さん。「まごころヘルプ」が上手くいったのは新潟市全域、あるいは、新潟市外も対象とする活動だったからではないかと。

「まごころヘルプ」が地域を越えた人々の助け合いであったのに対して、「実家の茶の間・紫竹」は地域内での助け合いの関係を目指すもの。これを実現するためには、より高いハードルを越える必要があると河田さん。
「実家の茶の間・紫竹」の室内に掲示されている「その場にいない人の話をしない(ほめる事も含めて)」、「プライバシーを訊き出さない。」、「どなたが来られても「あの人だれ!!」という目をしない。」という決まり事は、地域内での関係をみすえたもの。「実家の茶の間・紫竹」においてこれらのルールが当たり前のものとなった時、人々が助け合うことのできる地域になっていくのではないかという話でした。

現在、各地に「まちの居場所」(コミュニティ・カフェ、地域の茶の間など)が開かれています。ややもすると「まちの居場所」は安くコーヒーが飲める場所、仲間同士で過ごせる居心地のよい場所、介護予防のための場所というイメージで捉えられがちですが、河田さんの話を伺うと、「まちの居場所」は単に安くコーヒーが飲める場所でも、仲間同士で過ごせる居心地のよい場所でもなく、介護予防のための場所でもなく大きな可能性を秘めた場所であることが伺えます。

この意味で、まさに「実家の茶の間・紫竹」は地域における助け合いの拠点だと言えます。

(更新:2017年4月21日)