『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

千里ニュータウンの可能性を考える@コミュニティ政策学会

2017年7月2日(日)、千里文化センター・コラボでコミュニティ政策学会の分科会「ニュータウンから探る、まちの担い手が育つコミュニティ」が開催されました。分科会は千里文化センター・コラボ、2階の多目的スペースに用意された100席がほど満席になるほどの参加がありました。

「ニュータウンから探る、まちの担い手が育つコミュニティ
戦後、高度成長期に全国の都市部につくられたニュータウン。少子高齢化や集合住宅の建替えが進み、地域コミュニティ活力の低下や近隣センターの空洞化、コミュニティの主体の変化等により、コミュニティの形態が変わりつつある。しかし、ニュータウンが抱える課題は、その他のまちづくりに共通したものも多くあるのでないだろうか。
千里ニュータウンや泉北ニュータウンでは、若い世代を中心とした新たな担い手がまちづくりに参画するほか、住民・市民団体・企業等が協働して取り組む等、コミュニティづくりにつながる新たな動きが出てきている。本分科会では、これらの取組みをもとに、今後のコミュニティづくりを支える担い手確保の工夫などを探りつつ、まちづくりの可能性を考える。

  • 日時:2017年7月2日(日) 12:45~14:45
  • 場所:豊中市千里文化センター・コラボ 多目的スペース
  • コーディネーター:室田昌子(東京都市大学環境学部教授)
  • 発表者:
    ・太田博一(千里ニュータウン研究・情報センター共同代表)
    ・笹部勝彦(笹部書店代表)
    ・佐藤由美(奈良県立大学地域創造学部准教授)
    ・石橋尋志(泉北をつむぐまちとわたしプロジェクト代表)

分科会では「千里ニュータウン研究・情報センター」(ディスカバー千里)の共同代表であり、「ひがしまち街角広場」の代表でもある太田さんから、「まちの担い手育ちにつながる協働・交流の場について〜千里ニュータウンの場合〜」と題する発表がありました。また、分科会終了後には新千里東町を巡るエクスカーションが開催されました。
分科会とエクスカーションに参加し、新千里東町について次のようなことに気づかされました。

隣住区論の再評価

千里ニュータウンはクラレンス・A・ペリーによる近隣住区論に基づいた計画がなされています。千里ニュータウンで計画された12の住区の中心になるのが近隣センターと小学校。太田さんの発表では、各住区は小学校を中心としてほぼ半径500mの円に収まることが基本として計画されたとのこと。
近隣センターは、住民が買物をしたり、交流したりするために、商店、銭湯、集会所、広場で構成された場所ですが、集合住宅の住戸への風呂場の増築、自家用車の普及などによって空き店舗が目立つようになってきました。

近隣センターの空き店舗を活用して、2001年9月30日にオープンしたのがコミュニティ・カフェである「ひがしまち街角広場」です。建設省(現・国交省)の「歩いて暮らせる街づくり事業」がきっけけとなり、豊中市の社会実験としてオープン。半年間の社会実験終了後は、補助金を受けない「自主運営」がなされています。日々の運営は、千里ニュータウンの第一世代にあたる女性たちが中心となってボランティア(無償ボランティア)で担っています。

2015年9月、近隣センターに社会福祉法人・大阪府社会福祉事業団「豊寿荘」が運営する「あいあい食堂」がオープンしました。「あいあい食堂」では軽食が提供されている他、健康体操、脳トレなどのプログラムも行われています。

太田さんの発表では「あいあい食堂」の帰りに「ひがしまち街角広場」に立ち寄ったり、「ひがしまち街角広場」で「あいあい食堂」で行われるプログラムの情報交換をしたりと、2つの場所があることで近隣センターに新たな動きが生まれているとのこと。実際、エクスカーションで近隣センターを訪れた際には、「あいあい食堂」前で立ち話をしていた高齢の女性が、「ひがしまち街角広場」にやって来るという光景が見られました。「ひがしまち街角広場」は近隣センターで住民が立ち寄れる場所ですが、そのような場所が近隣センターに1つ増えたと感じました。
上に書いた通り、近隣住区論に基づいて計画された千里ニュータウンにおいて、各住区の中心になるのが近隣センター。近隣センターは当初は買物をしたり、交流したりするための場所でしたが、このことは、近隣センターとは住民の日々の暮らしをサポートするための場所と言うことができます。近隣センターの役割を日々の暮らしをサポートすることだと捉えるならば、「ひがしまち街角広場」や「あいあい食堂」がそうであるように、現在でも近隣センターは形を変えながらも日々の暮らしをサポートする場所であり続けている。このことは結果として、(徐々にその意義が忘れられつつある)近隣住区論を再評価することにつながっていると言えます。

「ひがしまち街角広場」を継承するとは

「ひがしまち街角広場」は千里ニュータウンの第一世代の女性たちを中心として運営されています。分科会における太田さんの発言で重要だと感じたのは、「ひがしまち街角広場」が生み出したものを継承するとは、運営スタイルを変えずに第一世代から第二世代の人々にバトンタッチすることだと捉える必要はないのでは? という問題提起です。

現在、新千里東町の近隣センターは建替えの計画が進められています。建替えによって手頃な価格で借りることができていた空き店舗がなくなるため、新しく建設される近隣センターの店舗を借りるか(この場合は家賃が高くなる)、あるいは、新しく建設される集会所の一画で運営するか(この場合、家賃はかからないが今までのような日常の場所として運営できなくなる可能性がある)、いずれにしても、「ひがしまち街角広場」の運営のあり方は見直しを迫られることになります。運営スタイルを変えずに第一世代から第二世代の人々にバトンタッチすることが難しいという背景はここにあります。

ただし、こうした背景をふまえた上で、太田さんが例にあげるのが今年の4月に開催した「春の竹林清掃&地域交流会」です。「春の竹林清掃&地域交流会」は「ひがしまち街角広場」の主催、「ひがしまち街角広場」から生まれたグループである「千里竹の会」、「東丘ダディーズクラブ」、「ディスカバー千里(旧・千里グッズの会)」の協力で行われたもの。「ひがしまち街角広場」は単にコーヒーが安い値段で飲めるカフェではなく、15年以上にわたる運営を通して地域に様々なネットワークを生み出してきた。こうしたネットワークを活かしながら、「ひがしまち街角広場」に代わるもの、「ひがしまち街角広場」を越えるものを生み出すことが、「ひがしまち街角広場」を継承することになるのではないかという話でした。
「ひがしまち街角広場」は、施設の集積として作られたニュータウンには、ふらっと立ち寄って、住民同士で話ができる場所がないという問題意識から生まれた場所。この背景には、地域における豊かな暮らしとは何かという切実な問い直しがあります。こうした問い直しをこそ継承していくべきことなのだと思いました。

共同作業の場所の重要性

太田さんが分科会で「ひがしまち街角広場」主催の「春の竹林清掃&地域交流会」、そして、新千里北町の北丘小学校内に開かれた「畑のある交流サロン」に触れて言及されたことが、共同作業の場所の重要です。
行政や専門家によって計画されたニュータウンにおいて、また、住宅が商品化された状況において、住民は往々にして地域の環境を改善することに対してお客さんという立場になりがち。つまり、自らの手で地域の環境を改善するのではなく、お金を払いサービスとして環境を改善してもらうという立場になってしまう。
こうした状況において、竹林整備、農作業という共同作業は、地域の環境を改善することにつながる。さらに、結果として世代を越えた人々が地域に関わるきっかけになり、暮らしの知識、技術や、地域の歴史が世代を越えて伝わっていく可能性がある。

千里ニュータウンには、ささやかであっても住民同士で、場合によっては専門家の協力も得ながら、地域の環境を改善するための共同作業の場所が求められているのかもしれません。