シンガポールで開発が進められているプンゴル(Punggol)という最新のニュータウンを訪問する機会がありました。プンゴルを訪問するのは2度目で、1年数ヶ月ぶりの訪問となります。
プンゴル内は無人運転のLRT(Light Rail Transit/ライト・レール・トランジット)が走っており、LRTの車窓からは近未来的な景色を眺めることができます。
前回の訪問で感じたことは、プンゴルでは例えば、交通システム、施設の段階的な配置、歩車分離、オープンスペース・緑地、ソーシャルミックスなど、千里ニュータウンで採用されたものも含めた様々な計画手法(ボキャブラリー)が存分に採用されていること。
こうした考えは今回の訪問でも変わりませんでしたが、今回訪問して改めて気づかされたこと、考えさせられたことを、特に千里ニュータウンの状況と比較しながら書きたいと思います。
時間をかけた開発
千里ニュータウンは10年という期間で開発が終了しました。そのため住民の世代に偏りが生じることで一気に高齢化が進んでしまう。子どもの数も急激に減少し、小学校・中学校は空き教室ばかりになってしまう。こうした状況があります。
一方、プンゴルでは経済危機の影響もあり、結果として長期間にわたる開発が行われることになり、現在もまだ計画が進められています。
Wikipediaの「Punggol」の項目によると、1996年に政府がプンゴルの開発計画「プンゴル21」(Punggol 21)を公表。しかし、1997年のアジア通貨危機、2003年の経済危機の影響で計画通りに開発は進まず、2007年時点では計画された80,000戸のうち16,000戸しか建設されなかったとのこと。2007年、プンゴルの新たな開発計画として政府は「プンゴル21プラス」(Punggol 21-puls)を公表。新たに18,000戸が追加で計画され、これにより完成時の住戸数は96,000戸とされ、毎年3,000戸のペースで建設されることが計画。
当初の想定通りではなく、結果として長期にわたる開発が行われることになったのかもしれませんが、このことは後々、ニュータウンに大きな影響をもたらすことになると思います。
MRT北東線(MRT North East Line)とLRTの駅に直結し、タウンセータに位置するにショッピングセンターのウォーターウェイ・ポイント(Waterway Point)は2016年1月に部分開業、2016年4月に全面開業しています。
LRTのオアシス(Oasis)駅に隣接するオアシス・テラス(Oasis Terraces)。HDBハブで見た展示によると総合病院を統合した新しい近隣センターとして計画されており、2018年にオープン。2つのボリュームに挟まれたテラスが特徴的なこの建物も、躯体はほぼ完成していました。
歩行者路と自転車路
千里ニュータウンでは、特に後半に開発された住区では歩行者専用道路が住区内を巡回。歩行者と自転車が、自動車にあうことなく住区内を移動することができるようになっています。ただ、日本の最近の流れでは自転車は車道を走るようにと言われているように、自転車は車両という認識が共有されつつある。
こういう視点でプンゴルを見たとき、運河の両側を走る道は(もちろん自動車は通行できませんが)歩く部分と自転車が走行する部分は路面の仕上げが異なっている。
歩く人と自転車が道路を共有していても事故さえ起こらなければ問題ないためどちらがよいという比較に意味はありませんが、千里ニュータウンとの違いとして気づいた点です。
集合住宅の中庭
千里ニュータウンでは、特に最近建て替えられた集合住宅では立体駐車場がもうけられていることがあり、その部分を人が有効に使えず、景観的にも何らかの配慮ができないかと感じることがあります。
プンゴルでは、通りかかったほとんどの集合住宅は住棟が中庭を作るように囲み型で配置。中庭の下が駐車場となっており、空間が有効に使えるような配慮がなされています。
この点については日本とシンガポールとでは自家用車の普及率の違いもあり(※Wikipediaの「国別自動車所有台数一覧」の項目によれば、1,000人あたりの所有台数は日本が591台に対して、シンガポールは149台)、住戸に対してどのくらいの割合の駐車場が確保されているのかがわかりません。そのため安易な比較はできませんが、駐車場の上を有効にオープンな中庭として活用するという工夫が見られることは確かです。
中庭は自由に通り抜けができるようオープンなものになっており、遊具、健康器具、ベンチなどが置かれている他、曲がった道や高低差、そして植栽によって単調な空間にならないような工夫がなされていると感じました。また、健康器具が並んだ場所は高齢者のフィットネス・ステーション(EFS=Elderly Fitness Station)と表示されており、高齢の住民を意識した計画になっていることも伺えます。もちろん、EFSの他に子どもの遊び場(PG=Children Playground)ももうけられています。千里ニュータウンでは基本的に中庭は子どもの遊び場が計画されてきたこととは対照的。人口が増加しつつあった時期に計画されたニュータウンと、高齢社会が視野に入りつつある時代に計画されているニュータウンという時代の状況が、こういう部分にも表れていると感じました。
(更新:2024年2月5日)