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ニュータウンの近隣センターの可能性を描くこと@新千里東町近隣センターの移転・建替から考える

千里ニュータウン新千里東町の近隣センターは、現在、移転・建替の計画が進められています。空き店舗を活用してコミュニティ・カフェの「ひがしまち街角広場」が運営している近隣センターです。

知り合いの方から、新千里東町近隣センターの完成イメージ図が掲載されている資料を教えていただきました。
国土交通省の審議会「住宅団地の再生のあり方に関する検討会(第2期) 第5回」(2018年7月4日)の資料「住宅団地の再生の取組みについて」です。

資料では大阪府の住宅団地の現状と再生の取組みが紹介されており、新千里東町近隣センターの完成イメージ図は資料のp16に掲載。掲載されているイメージ図を見る限り、新千里東町近隣センターは普通の分譲マンションに建て替わるようです。

資料によれば、大阪府には100の住宅団地があるとのこと。

  • 共同分譲住宅(マンション)団地(マンションが主):44団地
  • 公的賃貸住宅を含む団地(公営等の公的賃貸+戸建てほか):29団地
  • 戸建て住宅団地(戸建てのみ、又は戸建てが主):39団地

このうち共同分譲住宅については、「ポテンシャル」が「高いエリア」を①活用地投資型、「ポテンシャル」が「あまりないエリア」を②リノベーション型にすることが記載。そして、前者の例として千里ニュータウン、後者の例として泉北ニュータウンが挙げられています。
興味深いのは、①活用地投資型の千里ニュータウンの事例(資料のp15~16)に掲載されている事例は人間が1人も写っていないのに対して、②リノベーション型の泉北ニュータウンの事例(資料のp17~18)に掲載されている事例ではたくさんの人が写っていること。
意図的かともかくこうした写真が選ばれたことには、千里ニュータウンで進められている①活用地投資型の団地建替が、ハード重視の街づくりであることの現れかもしれません。

なお、事例で取り上げられている佐竹台の府営住宅+分譲マンション(資料のp15)が実現した背景には、「ラウンドテーブル方式」(佐竹台方式)、つまり、団地の住民だけでなく住区全体の住民で建替後のあり方を議論する場をもうけるという先駆的な取り組みが行われましたが、こうしたソフト的な取り組みに触れられていないことからも、千里ニュータウンはハード重視の街づくりであることが現れているように思います。


もちろん、良い街を実現するためにはハードが大切であることは言うまでもありません。ただし、気になることは、新千里東町近隣センターの完成イメージ図(資料のp16)を見る限り、これからの社会に必要な近隣センターのあり方についてどのような提案がされているかを伺うのは難しいことです。

これからの社会に必要な近隣センターのあり方の提案ということで思いつくのが、シンガポールのプンゴル(Punggol)というニュータウンにある「オアシス・テラス」(Oasis Terraces)。「新世代の近隣センター」という位置付けで計画された場所です。
駅に直結した建物に各種店舗と、プライマリケアを行うポリクリニック(大型診療所)が入居。環境への配慮として、階段状のテラスは緑化されています。
「オアシス・テラス」のハードに注目するだけでも、この場所が新たなことを生み出してくれそうな予感がします。

国によって事情が異なるため単純に比較できませんが、成熟を迎えた日本社会では、新たなニュータウン像を提示する時代ではないということかもしれません。

1970年の大阪万博の頃はまだ生まれていないため、当時の雰囲気はわかりませんが、当時の日本は、現在のシンガポールのような雰囲気だったのではないかと想像しています。