千里ニュータウンでは近隣住区論、クルドサックや歩行者専用道路による歩車分離(ラドバーン方式)、土地の高低差をいかした車道と歩道の立体交差、居住者層の偏りを防ぐために戸建住宅と集合住宅(賃貸・分譲・社宅)を混合させるソーシャル・ミックス、住民が交流する場所を生み出すための府営住宅における囲み型配置、公団住宅における北入り住棟・南入り住棟をペアにした平行配置(NSペアによる配置)など多様な計画手法が採用されました。
シンガポールで現在開発が進められているプンゴル(Punggol)を歩く機会がありました。
シンガポールでは国民の約8割がHDB(Housing and Development Board:住宅開発庁)が建設する住宅に住んでいます。プンゴルはHDBが開発している最新のニュータウン。HDBのオフィス(HDB Hub)でも大きな模型が展示されていることから、HDBが力を入れて開発していることが伺えます。
プンゴル
プンゴルはシンガポールの北東に位置し、MRT北東線(MRT North East Line)の終着駅に開発。大通りに囲まれた四角形の街区によって町が構成されています。
プンゴルの2015年の人口は109,750人。面積は9.34㎢で人口密度は約11,750人/㎢となります。参考までに千里ニュータウンの2015年の人口は97,156人(但し上新田を除く)で、面積は11.6㎢。人口密度は8,375人/㎢となり、プンゴルの方が高密度で計画されていると言えます。
従来、HDBは近隣住区論に基づいて街を開発してきましたが、プンゴルでは、政府が1996年に公表した「プンゴル21」(Punggol 21)という新たな考え方に基づいて開発されています。
■近隣住区のコンセプト(Neighbourhood Concept)
1960年代から90年代半ばまで、街は近隣住区(neighbourhood)に基づき包括的に計画されていました。街は4,000~6,000戸からなるいくつかの近隣住区に分けられます。 それぞれの近隣住区には近隣公園、近隣センター、学校などの施設が配置されています。■プンゴル21のコンセプト(Punggol 21 Concept)
プンゴル(Punggol)の計画においては、より小さく、より親密な団地という、従来とは異なるコンセプトが採用されました。それぞれの団地は、共有の緑地、学校、管区の店舗群(Precinct Shop Cluster)を共有する2,000~3,000の住戸で構成されています。これにより団地はより歩きやすくなり、住民間の交流の促進につながります。
HDBはPunggolにおいて、地区(District)のコンセプトを導入しました。それぞれの地区(District)は、アイデンティティと帰属感を生み出すのに寄与する独自の性格を持っています。この独特の地区のコンセプトは、ビダダリ(Bidadari)とテンガ(Tengah)の計画にでも用いられています。
※HDBギャラリーの展示の翻訳。
しかし、1997年のアジア通貨危機、2003年の経済危機の影響で計画通りに開発は進まず、2007年時点では計画された80,000戸のうち16,000戸しか建設されませんでした。
2007年、プンゴルの新たな開発計画として政府は「プンゴル21プラス」(Punggol 21-puls)を公表。新たに18,000戸が追加で計画され、これにより完成時の住戸数は96,000戸とされ、毎年3,000戸のペースで建設されることが計画されました。
貯水池としても機能する淡水湖として、街の東西を流れる川を結ぶ長さ4.2Km、幅20~30mの運河が建設されました。街の中心部では、この運河沿いにウォーターフロントの商業・住宅(コンドミニアム)の一体型開発が計画され、ウォーターウェイ・ポイント(Watarway Point)として2016年にオープンしました*1)。
実際にプンゴルを歩いて、千里ニュータウンで採用されたものも含めて、様々な計画手法が採用されていることに目がとまりました。
交通システム
- プンゴルはMRT北東線(MRT North East Line)の終着駅であり、地下鉄駅の東西には高架のLRT(Light Rail Transit/ライト・レール・トランジット)が走っている。地下鉄とLRTとは改札内で直結している。
- LRTにより町を一巡することができる(ただし、プンゴルは現在開発が進められているため、LRT西環状線はまだ一部の駅しか開業していない)。LRTは三菱重工製。無人運転の1両編成で、訪れた時にはほぼ5分間隔ほどで運行していた。
- LRTの駅から住宅までは屋根がついた歩道が続いており、雨に濡れずに住宅までアクセスできるようになっている。
施設の段階的な配置
- 地下鉄駅前には大きなショッピングセンター(Waterway Point)、Coral EdgeというLRTの駅に隣接してやや大きなショッピングセンター(Punggol Plaza)が配置。そして、LRTの各駅前には店舗や飲食店が集まる小規模な商業施設があり、商業施設は段階的な配置がなされている。
歩車分離
- 大通りの両側には歩道がもうけられているが、歩道の内側には街区内を走る車道(住宅の駐車場に通じる車道など)があり、街区を周回する大通り、歩道、街区内の車道が分離されている。
- 運河の両側には遊歩道が整備されており、人が歩くところと自転車が走るところは、違う色の舗装がされている。
- 集合住宅に囲まれた街区中央はオープンスペースになっており、車が入ることができない。
- 立体駐車場の屋上も車が入ってこないオープンスペースとなっているところがある。
オープンスペース・緑地
- オープンスペースには遊具、健康器具、バスケットボールコート、ベンチなどが配置され、住民が多様な活動を展開できるような工夫がされている。フェンスに囲まれたコミュニティ・ガーデンもいくつか見かけた。
- オープンスペース内の遊歩道は運動のためのトラックにもなっており、1周すると○○mという表示と、スタート・ゴールの目印が書かれており、住民の健康への配慮もされている。
- 直線でなく曲がりくねった遊歩道、植栽によりオープンスペースが単調にならないような工夫がされている。
ソーシャルミックス
- HDBが開発する集合住宅と、民間のコンドミニアムがある。HDBの団地の足下はヴォイド・デッキ(Void Deck)と呼ばれるピロティ空間になっており、自由に通り抜け、街区中央のオープンスペースまで行くことができるのに対して、コンドミニアムはゲート型の住宅になっており敷地内を通り抜けることができない。
半日歩いただけの表面的な印象に過ぎませんが、以上のようなことに目がとまりました。
近隣住区論を提唱したクラレンス・A・ペリーは、住区の中心に教会を配置することを提唱していましたが、千里ニュータウンは開発主体が大阪府企業局であり、政教分離の考えから宗教施設が配置されることはありませんでした。それに対してプンゴルではキリスト教の教会、イスラム教のモスクが配置されており、この点は千里ニュータウンとの大きな違いであることも感じました。
■注
- 1)Wikipediaの「Punggol」、「Waterway Point」のページより。
(更新:2024年2月5日)