『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

高齢者という概念と地域での暮らし@居場所ハウスより

大船渡市末崎町の「居場所ハウス」は間もなくオープンから5年を迎えます(オープンは2013年6月13日)。5年が経過し、日々風雨にさらされた表のフェンスも痛みが目立つようになったため、「居場所ハウス」メンバーのKさんがフェンスの修復作業をしてくださいました。Kさんは、現役時代に建築に関わる仕事をされていた方で、あっという間に作業は終わりました。工具も現役時代から大切に使い続けておられるものです。

「居場所ハウス」では冬場、薪ストーブを使っていますが、最近、薪にする木材はKさんと同級生で、まだ現役で大工をされている方が運んで(寄贈して)くださっています。先日、このKさんらが「居場所ハウス」で喜寿(77歳)のお祝いの同級会の打合せをされていました。

Kさんは交通指導隊として、10年間毎朝、子どもたちの通学時に横断歩道に立っておられ、75歳で交通指導隊を定年で引退されました。ただ、ここ数年は交通指導隊のなり手がいないということで、(Kさんとは別の方ですが)定年を延長し、80歳まで交通指導隊を続けて欲しいと言われた方もいるようです。
末崎町の2017年9月末時点の人口は4,213人。2017年10月末時点の高齢化率は38.8%。高齢化の進展は、今後は末崎町の人口が減少していくことを意味します。交通指導隊のなり手がいなくて定年が80歳に延長されたという話、あるいは、中学校の統合により末崎町から中学がなくなる。こうした話からは、既に人口減少が進みつつあるという現実が垣間見えてきます。

65歳上を高齢者と呼ぶという定義に従えば、ここで紹介した方々は高齢者ということになります。けれども、ご紹介したように70代後半でもまだ現役で仕事をしたり、地域の活動に携わっている方々がいる。こうした方々の姿を間近で見ていると、例えば、KさんはあくまでもKさんという個人であり、
地域においてKさんと接する時には高齢者という概念は別に必要ではありません。もちろんこれはKさん以外でも同様。このように高齢者という概念が大きな意味をもたない領域がある。そしてもちろんこれは、高齢者の定義を65歳という区切りから変更するということとは異なります。

高齢化の進展、それによって生じる人口減少は、これまで成立していた地域の様々な仕組みが維持できなくなるという意味では問題ですし、社会保障費のこと、介護の担い手のことなどの問題もあります。
ただ、高齢化は確かに問題だとしても、一人ひとりの高齢者の存在自体が問題ということにはならない。そして、高齢化がもたらす問題を乗り越えるために地域が注目されていますが、それは高齢者であることを殊更意識しなくても関われる関係を築くことから始める必要がある必要があると思います。それと同時に、実はこうした関係を築くこと自体が、目指すべきゴールなのかもしれません。