『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

シンガポールのホーカー・センター

シンガポールにはホーカー・センター(Hawker Centre)という場所があります。
複数の屋台が集まる場所で、非常に安価に食事をすることができます。様々な食事に加えて、デザート、飲み物を販売する屋台もあります。

半屋外の空間に固定式のテーブル・椅子が並びます。食事の注文はセルフ方式となっており、自分の好きな屋台で食事を注文、代金を支払い、固定式のテーブル・椅子まで運んで食事をすませます。
食器を返却する場所がもうけられており、食べ終えた食器はセルフで返却する必要があります。何度か食器をそのままにして席を立つ人を見かけたことがありますが、清掃をする人が巡回しているため、食べ終えた食器が置きっぱなしになることはありません。

衛生状態によりA→B→C→Dのランクがあり(Aが一番衛生状態が良い)、アルファベットが書かれた札が掲示されています。

HDB(Housing and Development Board:住宅開発庁)の団地の中、MRTの駅前などホーカー・センターはシンガポールのあらゆる場所にあります。

近年ではショッピング・モールなどの商業施設内に設置されるフード・コートが取って代わりつつあるとのこと。半屋外のホーカー・センターに対して、屋内のフード・コートにはエアコンあります。そのため、フード・コートがホーカー・センターに取って代わりつつあるようですが、エアコンがある分、フード・コートの方が値段が高くなっています。

ただし近年でも、ベドック(Bedok)のベドック・インターチェンジ・ホーカー・センター(Bedok Interchange Hawker Centre)、イーシュン(Yishun)のイーシュン公園ホーカー・センター(Yishun Park Hawker Centre)のように、ROH(Remaking Our Heartland:リメイキング・アワ・ハートランド)によりリニューアルされた街に、新たなホーカー・センターが設置されることもあります。

ホーカー・センターは、いわゆる観光地ではあまり見かけないかも知れませんが、例えば、チャイナタウン駅の近くにあるマックスウェル・フードセンター(Maxwell Food Centre)には有名な屋台があり、多くの観光者が訪れる場所になっているようです。


シンガポールのホーカー・センターは、次のように説明されています。

ホーカー・センターは、1950年代と1960年代の急速な都市化に伴い、都市部に広がりました。多くの場合、ホーカー・センターは、無免許のストリート・ホーカーによる非衛生的な調理の問題に部分的に対処するために作られました。最近では、マレーシアとシンガポールの都市部では富裕層が増えているため、ホーカー・センターは至る所にあるわけではなくなっています。特にシンガポールでは、ショッピングモールや他の商業施設内にあるフード・コート、エアコン付きのホーカー・センターへの置き換えが増えています。

1950年代から1960年代にかけて、ホーカー・センターは裕福ではない人々のための場所と見なされていました。ホーカー・センターは、飼い主のいなくなったペット(Stray domestic pets)や害虫が頻繁に出現することもあり、衛生的でない料理という評判でした。多くのホーカー・センターは管理が十分でなく、水道水や清掃のための適切な設備が不足していることがよくありました。最近では、地方自治体から圧力がかけられたため、衛生基準は改善されています。これには、屋台を営業するために十分な衛生基準が要求される場合に免許取得を課したり、非常に優れた衛生に対する報酬が含まれます。シンガポールでは1990年代後半から、ホーカー・センターのアップグレード、または再建が始められています。

シンガポールのホーカー・センターは、3つの政府機関、つまり、環境水資源省(MEWR)下の国家環境庁(NEA)、HDB(住宅開発庁)、JTCコーポレーション(JTC:工業・商業地区の開発・管理を主に行う)によって所有されています。HDBとNEAが所有する全てのホーカー・センターは、それぞれのタウン・カウンシルが、HDBが所有しているホーカー・センターを管理することで、NEAによる規制を受けます。JTCが所有しているホーカー・センターは自己管理されています。(後略)
※Wikipedia「Hawker centre」のページの翻訳

エアコン付きのフード・コートに取って代わられつつあるとは言え、ホーカー・センターは今でもシンガポールの人々にとっての日常の場所であり、時間帯によってはほぼ席が埋まっていることも。人気の店には行列ができている光景も見かけました。また、食事をするだけでなく、飲み物を飲みながら話をしている人も見かけます。

レイ・オルデンバーグは「家庭と仕事の領域を超えた個々人の、定期的で自発的でインフォーマルな、お楽しみの集いのために場を提供する、さまざまな公共の場所の総称」を「サードプレイス」と呼び、その例として十九世紀のドイツ系アメリカ人のラガービール園、戦前の田舎町のアメリカにあった「メインストリート」、イギリスのパブやフランスのビストロ、アメリカの居酒屋、イギリスとウィーンのコーヒーハウスなどを挙げています*1)。シンガポールのホーカー・センターもサードプレイスの1つに加えてよい場所だと考えています。


(更新:2022年7月20日)