『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

シンガポールの団地における歩車分離のラドバーン方式@イーシュン

千里ニュータウンが計画される際、海外のニュータウンや計画住宅地から学んだ手法の1つにラドバーン方式があります。

ラドバーン方式は、アメリカのニュージャージー州の計画住宅地であるラドバーンで採用された歩車分離のため方法です。これはスーパーブロック方式を採用して、車はスーパーブロックの外周道路からアクセス。そして車道の先端をクルドサック(袋小路)にし、クルドサック(袋小路)の先端をフットパス(歩行者専用道路)で結ぶことで、歩行者は車にあわずに学校や公園などに移動できるという方法です。
ラドバーンは戸建住宅地ですが、千里ニュータウンでは戸建住宅地だけでなく、URの団地や、後期に開発された府営千里南住宅や府営千里桃山台住宅の団地でもラドバーン方式が採用されました。

シンガポールでもラドバーン方式になっているエリアを見かけました。イーシュン(Yishun)という街にあるイーシュン・グリーン・リンク(Yishun Green Link)です。イーシュン・グリーン・リンクが、直接的にラドバーンの歩車分離の方式を参考にしたかどうかはわかりませんが、国を越えた団地の計画手法の共通点として興味深いと思います。

イーシュン(Yishun)

ここでご紹介するイーシュン(Yishun)も、HDBが開発した街で、1981年に最初のHDBのプロジェクトが完成。HDBが1992〜2024年まで用いていた分類では、HDBの住宅開発に利用できる土地が多い「成熟していない団地」(Non-mature estate)に分類されています。

現在、HDBは新たな街を開発する一方で、既存の街を更新するためのプログラムも行っています。その1つが、ROH(Remaking Our Heartland:リメイキング・アワ・ハートランド)と呼ばれるプログラム。2007年、イーシュンは、プンゴル(Punggol)、ドーソン(Dawson)とともにROHの対象に選ばれ、タウン・センター、及び、屋外施設の更新が行われています。

イーシュン・グリーン・リンク(Yishun Green Link)

イーシュン・グリーン・リンク(Yishun Green Link)は、MRTイーシュン(Yishun)駅の南東、カーティブ(Khatib)駅の東に位置。ウィステリア・モール(Wisteria Mall)というショッピング・モールのあるイーシュン・アベニュー4(Yishun Ave 4)とイーシュン・リングロード(Yishun Ring Rd)の交差点の北側から、コーテクプア病院(Khoo Teck Puat Hospital)の南側までの間を、約400mの歩行者専用道路が結んでいます。スーパーブロック方式が採用され、車はスーパーブロックの外周道路からアクセスすることで歩車分離を実現。歩行者専用道路はウィステリア・モール、コーテクプア病院、ノースランド初等学校(Northland Primary School)などを結んでいます。

イーシュン・グリーン・リンクの南の入口は、イーシュン・アベニュー4とイーシュン・リングロードの交差点の北側にあります。歩行者専用道路に沿って子どもの遊び場、フィットネス・コーナーがもうけられています。屋根のついた半屋外の建物も。植栽がされており、公園の中を歩いているようです。

歩行者専用道路は、住棟の間を通ります。歩行者専用道路自体に屋根は付いていませんが、左右の屋根のついた通路や、住棟1階のヴォイド・デッキを通れば、雨に濡れずに移動することが可能です。この部分も、歩行者専用道路の両側には植栽がなされ、所々にベンチが置かれています。

しばらく歩くと、右手にオープンスペースが現れます。まだ工事が行われていましたが、屋根付きのバスケットボール・コートも整備されていました。子どもの遊び場、フィットネス・コーナーもあります。このオープンスペースの先には、ノースランド初等学校。さらにを東に進み、車道(Yishun Ave 4)を渡れば、イーシュン公園(Yishun Park)という大きな公園に行くことができます。

もう少し歩くと、今度は左手に公園が現れます。公園を囲む住棟には、飲食店の集まるコーヒー・ショップや店舗が入居しています。

住棟の間の歩行者専用道路をさらに北に歩くと、イーシュン・セントラル(Yishun Central)という車道に到着。車道を渡った先にコーテクプア病院があります。

先に書いた通り、車はスーパーブロックの外周道路からアクセスするようになっています。住棟の間には駐車場がもうけられ、駐車場から住棟1階のヴォイド・デッキなどを通り抜ければ、イーシュン・グリーン・リンクに行くことができます。


このように、イーシュン・グリーン・リンクにはラドバーン方式を見ることができます。ここでは歩行者専用道路という表現を用いましたが、単なる歩道ではなく、写真をご紹介したようにイーシュン・グリーン・リンク全体が公園のような空間になっていることが印象に残っています。

(更新:2024年2月14日)