シンガポールでは国民の約8割がHDB(Housing and Development Board:住宅開発庁)が建設する住宅に住んでいます。HDBの団地を歩くと、屋台が集まる場所が多数あって、多くの人々が飲食しているのを見かけます。時々、何人かで話をしながらビールを飲んでいる人も見かけます。
チキンライス、肉や魚の料理、各種の麺類をはじめ、デザート、飲み物など多様な屋台が集まっており、値段は、レストランに比べて安価。注文はセルフ方式で、屋台で注文、代金を支払い、食事を受け取った後は、好きなテーブル・椅子に座って食べることができます。
食事はトレーで受け取り、食事を終えた後は、食器をトレーごと返却*1)。食器を返却せず席を立つ人を何度か見かけたこともありますが、清掃をする人が巡回しているため、食べ終えた食器が置きっぱなしになることはありません。食事をせず、テイクアウトしている人も多数見かけます。
このような屋台が集まる半屋外の場所は、見た目は非常に似ていますが、ホーカー・センター(Hawker Centre)とコーヒー・ショップ(Coffee Shop)の違いがあると伺いました。
ホーカー・センター
- 建物:独立した建物
- 店舗数:コーヒー・ショップより多い
- テーブル・椅子:固定式
- 店舗の区画:個々の店舗が政府から直接区画をリース
- エアコン:付いていない
コーヒー・ショップ
- 建物:HDBの団地住棟や商業施設などの一画
- 店舗数:ホーカー・センターより少ない
- テーブル・椅子:必ずしも固定式とは限らない
- 店舗の区画:全体を1つの組織(会社)がリースし、個々の店舗がその組織(会社)から区画をサブリース
- エアコン:付いていない
なお、コーヒー・ショップはイーティング・ハウス(Eating House)と呼ばれることもあるようようです。
ホーカー・センター(Hawker Centre)
ホーカー・センターは次のように説明されています。
「ホーカー・センターは、1950年代と1960年代の急速な都市化に伴い、都市部に広がりました。多くの場合、ホーカー・センターは、無免許のストリート・ホーカーによる非衛生的な調理の問題に部分的に対処するために作られました。・・・(中略)・・・
1950年代から1960年代にかけて、ホーカー・センターは裕福ではない人々のための場所と見なされていました。ホーカー・センターは、飼い主のいなくなったペット(Stray domestic pets)や害虫が頻繁に出現することもあり、衛生的でない料理という評判でした。多くのホーカー・センターは管理が十分でなく、水道水や清掃のための適切な設備が不足していることがよくありました。最近では、地方自治体から圧力がかけられたため、衛生基準は改善されています。これには、屋台を営業するために十分な衛生基準が要求される場合に免許取得を課したり、非常に優れた衛生に対する報酬が含まれます。シンガポールでは1990年代後半から、ホーカー・センターのアップグレード、または再建が始められています。
シンガポールのホーカー・センターは、3つの政府機関、つまり、環境水資源省(MEWR)下の国家環境庁(NEA)、HDB(住宅開発庁)、JTCコーポレーション(JTC:工業・商業地区の開発・管理を主に行う)によって所有されています。HDBとNEAが所有する全てのホーカー・センターは、それぞれのタウン・カウンシルが、HDBが所有しているホーカー・センターを管理することで、NEAによる規制を受けます。JTCが所有しているホーカー・センターは自己管理されています。・・・(後略)・・・
※Wikipedia「Hawker centre」のページの翻訳」
ホーカー・センターとコーヒー・ショップの違いは、ホーカー・センターは独立した建物になっていること。そのため、ホーカー・センターの方が店舗が多く、固定式のテーブル・椅子を囲むように多くの屋台が並んでいます。半屋外になっているためエアコンは付いていません。1階建て建物が多いですが、2階建てのホーカー・センターも見られます。
ホーカー・センターは政府の所有で、個々の店舗が政府から直接区画をリースしているということです。
テーブルは特定の店舗のものでないため、どのテーブルに座ってもよいことになっています。話を伺った方によれば、何も買わずにテーブルに座ってもよいということでした。
クレメンティ(Clementi)
ワンポア(Whampoa)
トア・パヨ(Toa Payoh)
ウエスト・コースト(West Coast)
チョン・バル(Tiong Bahru)
ホーカー・センターの建物には、飲食のエリアだけでなく、野菜、果物、肉、魚、日用品などの店舗が入居するエリアもあります。
クレメンティ(Clementi)
ウエスト・コースト(West Coast)
ホーカー・センターで食事をしているのは地元の人が多いと思われますが、例えば、チャイナタウン駅の近くにあるマックスウェル・フードセンター(Maxwell Food Centre)のように、多くの観光者が訪れる場所もあります。
マックスウェル・フードセンター(Maxwell Food Centre)
設置から年月が経過したホーカー・センターがある一方、近年でも、ベドック(Bedok)のベドック・インターチェンジ・ホーカー・センター(Bedok Interchange Hawker Centre)、イーシュン(Yishun)のイーシュン公園ホーカー・センター(Yishun Park Hawker Centre)のように、ROH(Remaking Our Heartland:リメイキング・アワ・ハートランド)でリニューアルされた街に、新たなホーカー・センターが設置されることもあります。
ベドック・インターチェンジ・ホーカー・センター(Bedok Interchange Hawker Centre)
イーシュン公園ホーカー・センター(Yishun Park Hawker Centre)
2017年8月6日、タンパニーズ(Tampines)にオープンした巨大な複合施設アワ・タンパニーズ・ハブ(Our Tampines Hub)にはホーカー・センターが入居。ホーカー・センターは独立した建物だという定義にあてはまらない場所になっています。
「2017年8月6日、アワ・タンパニーズ・ハブ(Our Tampines Hub)が正式にオープンしました。シンガポール初のコミュニティとライフスタイルを統合したハブで、各種のスポーツ施設、地域図書館(regional library)、ホーカー・センター、パブリック・サービス・センター、シアター(Festive Arts Theatre)をはじめ、住民や来訪者にとって、便利で、楽しめる施設が1つ屋根の下に入居しています。」
※HDBの「Tampines」のページの翻訳。
アワ・タンパニーズ・ハブ(Our Tampines Hub)
アワ・タンパニーズ・ハブ(Our Tampines Hub)のホーカー・センター
コーヒー・ショップ(Cofee Shop)
ホーカー・センターが独立した建物であるのに対して、コーヒー・ショップはHDBの団地住棟や商業施設などの一画にあるという違いがあります。ホーカー・センターに比べて店舗数も少なく、おおよそ10店舗ぐらいの印象を受けます。テーブル・椅子は、必ずしも固定式とは限りません。店舗の区画のリースの仕方も異なっており、コーヒー・ショップの全体を1つの組織(会社)がリースし、個々の店舗がその組織(会社)から区画をサブリースしています。
このような違いはありますが、半屋外でエアコンが付いていないのはホーカー・センターと同じで、人々が飲食したり、飲み物を飲みながら話をしたりしている光景は、ホーカー・センターとよく似ています。
テーブルは特定の店舗のものでないため、どのテーブルに座ってもよいことになっていますが、話を伺った方によれば、ホーカー・センターと違って、何も買わずにテーブルに座るのは無言のプレッシャーを受けるようで居心地が悪いということでした。
ベドック(Bedok)
ブキ・バトック(Bukit Batok)
ジュロン・イースト(Jurong East)
タンパニーズ(Tampines)
コーヒー・ショップは、最近建設されたHDBの団地にも入居しています。例えば、2015年、クイーンズタウン(Queenstown)完成した960戸の大規模団地であるスカイヴィル@ドーソン(SkyVille@Dawson)の一画には、イーティング・ハウス(Eating House)という名前の場所がもうけられています。
スカイヴィル@ドーソン(SkyVille@Dawson)
フードコート(Food Court)
近年ではショッピング・モールなどの商業施設内に多数のフードコートがもうけられています。ホーカー・センター、コーヒー・ショップに対して、フードコートは屋内にありエアコンが付いているのが大きな違い。それもあり、フードコートの方が食事の値段はやや高くなっています。ただし、レストランに比べると、フード・コートの食事の値段は安くなっています。
プンゴル・プラザ(Punggol Plaza)
クイーンズタウン(Queenstown)
オーチャード・ロードのウィスマ・アトリア(Wisma Atria)
■注
- 1)イスラム教で食べることが禁じられている食品とハラル(Halal)とが混ざらないよう、食器の返却場所は「Halal」と「Non Halal」に分けられている。写真はマーガレット・ドライブ・ホーカー・センター(Margaret Driver Hawker Centre)の食器返却場所で、「Halal」の食事には緑色の食器やトレー、「Non Halal」の食事には黄色の食器やトレーが使われている。なお、新しいホーカー・センターの食器返却場所は、このようにベルトコンベアにトレーを載せる形式になっている。
(更新:2024年4月28日)