『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

ひがしまち街角広場の運営の仕組みについて

2019年8月5日(月)、「ひがしまち街角広場」に視察がありました。
「ひがしまち街角広場」は千里ニュータウン新千里東町の近隣センターの空き店舗を活用して開かれている場所。2001年9月30日のオープンから約18年にわたり、週6日の運営を住民がボランティアで担い続けてきました。最初の半年間のみ豊中市の社会実験として運営されていましたが、社会実験期間終了後は補助を受けない自主運営とされています。

現在は各地にコミュニティ・カフェが開かれていますが、「ひがしまち街角広場」はそのパイオニア的な場所だと言えます。ただし、近隣センターの移転・建替で空き店舗がなくなることから、あと2年弱で現在のかたちでの運営が終了することが決まっています。の後、運営が継続されるかどうかは現時点では決まっていません。

視察に訪れたのは大阪府内富田林市の金剛団地でまちづくりに携わる方々12人で、自分たちの団地にも「ひがしまち街角広場」を参考にした場所を開きたいという話でした。

最初に30分ほど「ひがしまち街角広場」代表から説明が行われた後、質疑応答。視察に来られた方々からは、運営体制、来訪者、運営資金、市役所との関わりといった基本情報のほか、18年間も運営が継続できたと要因、無償ボランティアでスタッフを続けているモチベーション、定年退職した男性や若い世代に関わってもらう工夫などについて多くの質問がありました。

最初の説明と質疑応答を含めて2時間ほどの視察でのやり取りを通して、「ひがしまち街角広場」について次のことに改めて気づかされました。

緩やかな運営体制

「ひがしまち街角広場」にはスタッフが15人います。スタッフの担当日をコーディネートしている人がいるのかという質問がありました。
スタッフの女性からは、特定の人がコーディネートしているわけではないという話。スタッフは担当する曜日が決まっており、もし自分の都合がつかなくなったら自身で代わりの人にお願いしているということです。

運営が終了する16時以降は貸切利用が可能となっていますが、16時以降の貸切利用の対応をしている人はいるのかという質問がありました。
これに対して、16時以降の貸切利用に対応する人もいないという話。貸切利用する人は事前に鍵を借りに来ること、当日は「ひがしまち街角広場」内に置かれているファイルに自身で記録を記入し、利用料を支払う。後片付けをして、(外から鍵を使わなくても施錠できる扉であるため)鍵を中に置いて帰る仕組みになっています。
これを聞いて、視察に来られた方からは、利用する人を信頼しているんですねという話。スタッフの女性は「同じ地域の人ですから、悪いことをする人もいません」と話されていました。

こうした仕組みが成立している背景には、18年間にわたる運営の積み重ねがあるのかもしれませんが、「ひがしまち街角広場」はスタッフ、来訪者が互いへの信頼をベースとして、誰か特定の人がコーディネートするのではない緩やかな運営体制となっています。
加えて、16時以降に貸切利用する人にとっては、単にサービスを受けるだけでなく、ファイルに記録を記入する、後片付けをする、鍵の管理をするなど役割があるという点で、「関わりの余地」を生み出しています。

負担を感じないボランティア

福祉の仕事をされている方から、次のような質問がありました。福祉でサロンを開いており、カフェの運営を地域で引き継いでもらいたいと考えている。けれど、なかなか地域で引き継いでもらえない。
これに対してスタッフの女性は、次のような話をされていました。新千里東町の集会室でも福祉のサロンが開かれており、この女性も関わっているとのこと。しかし、福祉のサロンは「責任が出てくる」という理由で、関わってくれる人を見つけるのが難しいとのこと。

もちろん、「ひがしまち街角広場」のスタッフを担当することも全く責任がないわけではありませんが、大きな負担を感じないということかもしれません。
この背景には、「ひがしまち街角広場」では飲物を提供しているだけで、食事を提供したり、プログラムを行ったりしていないため、スタッフが行う作業が少ないことがあると思います。また、無償ボランティアだからこそ、来訪者と一緒に話をするなど自由に振る舞うことができることもありそうです。有償のスタッフであれば、来訪者との間に線が引かれ、きちんと対応しなければならないという考えになってしまう。無償ボランティアは、スタッフと来訪者との垣根を作らないための知恵だという話も出されました。
スタッフは地域団体から派遣されているのではなく、個人の意思でスタッフをしていることも重要です。当初はスタッフの人数を確保するため自治会連絡協議会、公民分館、福祉、防犯という地域団体が曜日ごとに運営を担当していました。けれども、地域団体に参加していない人がスタッフに入りにくいという問題が生じたため、以降は地域団体とは関係のない個人としてスタッフにするように変更されています。

制度の枠におさまらない場所

集会所は普段は鍵がかかっており目的がある時だけ利用する場所であるのに対して、「ひがしまち街角広場」が当初から続けてきたのは、目的がなくてもふらっと立ち寄れる場所、いつ行っても誰かがいてくれる場所。ニュータウンとは各種施設が計画的に配置された街ですが、各種施設には実現できなかった場所を「ひがしまち街角広場」は目指してきたと言えます。

「ひがしまち街角広場」から、「千里竹の会」というグループが生まれています。「ひがしまち街角広場」で、地域の公園の竹林が荒れているという雑談が出されたのがきっかけとなり、竹林を管理しようという人々が集まり立ち上げられました。「千里竹の会」は、会員数が優に100名を越えるなど、千里ニュータウンで一番大きなグループとなり、公園の竹林の管理を行っています。
毎年4月、「ひがしまち街角広場」は「千里竹の会」などと連携することで地域の公園の竹林清掃を開催。公園は市有地であるため、公園内の竹、竹の子に手をつけることは許可されていません。しかしそれでは住民が竹林を管理することはできない。そこで、竹林清掃として公園に入ることを許可してもらっているという経緯があります。この話を聞いて、視察に来られた方からは「名目を上手く作っている」という話がありました。

制度や行政の枠組みの中では、どうしても上手く対応できないことが生じてしまいます。かと言って制度や行政を完全に無視することもできない。そういう時に、竹林清掃というかたちで制度や行政の枠組みの中に位置づけるための名目を作った上で、制度や行政の枠組みでは上手く対応できないところにまで関わり、新たなものを生み出していく。こうした柔軟性があることも「ひがしまち街角広場」の特徴です。

持続可能な仕組み

視察に来られた方が驚いていたのが、「ひがしまち街角広場」は行政からの補助を受けずに運営していること。
最初の半年間のみ豊中市の社会実験として運営されていましたが、社会実験期間終了後はコーヒーなどの飲物の「お気持ち料」と16時以降の貸切利用の場所代だけで、家賃、水道光熱費、コーヒー代など全ての運営費を賄う自主運営が行われてきました。

「ひがしまち街角広場」は飲物を提供するだけで、食事を提供したり、プログラムを行わないため、大掛かりな設備や備品は不要。無償ボランティアであるためスタッフの人件費もかからない。これにより、お金をかけずに運営するスタイルが、持続可能な仕組みとして成立していると言えます。
ただし、近隣センターのスーパーマーケットで買った食事など持ち込んで食べる人、社会福祉法人が運営する「あいあい食堂」での各種プログラムの行き帰りに立ち寄る人がいることを考えれば、「ひがしまち街角広場」では飲物を提供しているだけでも、近隣センター全体として見れば様々な機能が実現されていることになり、「ひがしまち街角広場」はその最も基本にあるふらっと立ち寄れる場所としての役割を担っているということになります。

視察の際に話に出されたように、無償ボランティアが成立しているのは、スタッフが高齢者だからであり、共働きをせざるを得ない若い世代にとって無償ボランティアは難しい。従って、「ひがしまち街角広場」は専業主婦として暮らし続けてきた第一世代の女性が、高齢になったがまだ元気だという今の時点だからこそ成立しているということになります。この意味で、「ひがしまち街角広場」は千里ニュータウンの歴史の上に成立している。
「ひがしまち街角広場」は地域の状況に応じた適切なスタイルでの運営を築いてきたと言えますが、同時に、次の世代や他の地域にはそのままのかたちで継承することはできないことにもなります。この意味で、地域に応じた創意工夫が求められることになります。


この日、「ひがしまち街角広場」に半日滞在し、来訪者について次のようなことに気づきました。

  • 来訪者の半分ほどが1人でやって来る:滞在中に来られた16人のうち、7人が1人でやって来た。
  • 閉店間際にも人がやって来る:15:45頃、5人の女性がやって来た。
  • 新千里東町以外から来ている人もいる:1人の女性は桃山台駅の近くから自転車で来ているという話でした。
  • 滞在時間は様々:飲物を飲んでさっと帰る人もいれば、ゆっくり話をして帰る人、飲物を何杯か注文する人もいる。
  • テーブル越しの会話:同じテーブルの人同士で固まって過ごすだけではなく、テーブル越しの会話が見られる。
  • シルバーカーを押したり、杖をついたりしている人もやって来る:16人のうち3人がシルバーカーを押したり、杖をついたりしていた人

「ひがしまち街角広場」はオープンから間も無く18年となりますが、日常的に人が出入りする場所であり続けていることが伺えます。

なお、視察に来られた方からは、千里ニュータウンについてもいくつか質問がありました。その1つが、近年の集合住宅の建替えについて。盛んに集合住宅が建替えられているが、50年後に振り返った時、これは成功だったと言えるのだろうかという質問です。
千里ニュータウンでは近年の集合住宅の建替により、多くの分譲マンションが建設されました。これにより人口は増加し、高齢化率は約30%と高止まりしています。しかし、分譲マンションを購入する世代の中心は30〜40代と同じ世代であるため、今から20〜30年後にはまた急激に高齢化率が上昇することはほぼ確実。さらに、近年は中層の住棟が高層の住棟に建替えられていますが、高層になった住棟をさらに建替えることは困難。将来確実に訪れるであろうこうした状況から目を背けているのではないかという話でした。

人口減少、高齢化が進むニュータウンがある中、集合住宅の建て替えが行われる千里ニュータウンは「成功したニュータウン」と見られることもありますが(誰にとっての成功かを考えることも重要です)、長い目で見ればこれで大丈夫かという目でも見られているということもわかります。


※この日見学に来られた方々によって、2021年2月27日、金剛団地に「わっくCafé」という場所が開かれた。「わっくCafé」はこちらの記事を参照。

(更新:2022年12月10日)