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新型コロナウイルス感染症に対するコミュニティの脆弱性指標

サーゴ財団(Surgo Foundation)は、どのような性質を持つコミュニティが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して脆弱なのかを把握するために、新型コロナウイルス感染症に対するコミュニティの脆弱性指標(CCVI:COVID-19 Community Vulnerability IndexI)を公開しています。

新型コロナウイルス感染症の感染防止のためには、社会的・物理的な距離をおくソーシャル・ディスタンシング、石鹸による手洗い、食事と睡眠により免疫力をつけるなど、一人ひとりの心がけが大切です。
しかしその一方で、例えばアメリカでは、新型コロナウイルス感染症による影響がアフリカ系の人々に偏って多く、「新型ウイルスは「平等に」感染が拡大すると指摘されているが、統計からは、住む場所によって感染する確率に違いがあることがうかがえる」と指摘されています*1)。

感染防止のためには一人ひとりの心がけが大切だとしても、そもそも住んでいるコミュニティによって感染の確率が違う可能性がある。このことを考える上で、コミュニティの脆弱性指標が参考になります。あくまでも指標ですが、それでも新型コロナウイルス感染症に対して脆弱なのは、どのようなコミュニティなのか? 逆に言えば、新型コロナウイルス感染症に対して強靭なのは、どのようなコミュニティなのか? というように、コミュニティのあり方から新型コロナウイルス感染症への対応を考えるのは大切な作業だと思います。
そこで、ここではサーゴ財団がアメリカを対象として公開した新型コロナウイルス感染症に対するコミュニティの脆弱性指標(CCVI)をご紹介したいと考えています*2)。


新型コロナウイルス感染症に対するコミュニティの脆弱性指標

新型コロナウイルス感染症に対するコミュニティの脆弱性指標(CCVI)は、誰が感染するかを予測するのではなく、コミュニティのレベルでの負の影響を把握し、最もサポートが必要なコミュニティを特定するために作成されています。サーゴ財団のページには、脆弱性指標(CCVI)のスコアに基づいて色分けされた地図が掲載されています。

アメリカの全てのコミュニティが新型コロナウイルス感染症の影響を受けますが、影響はそれぞれのコミュニティで同じではありません。この指標は、コロナウイルスが蔓延する際に、どのコミュニティが最もサポートを必要するかを特定するものです。新型コロナウイルス感染症に対するコミュニティの脆弱性指標(CCVI)は国勢調査地区、郡、州レベルでマッピングされており、新型コロナウイルス感染症に対して詳細なレベルで計画し、緩和するための情報を提供します。

■脆弱性の理解
政府のあらゆるレベルと多くの組織が、24時間体制で、コミュニティの新型コロナウイルス感染症に対する準備に取り組んでいます。いくつかのコミュニティは、パンデミックを緩和、治療、遅延し、経済的・社会的影響を軽減する能力に限界があるなど、他のコミュニティより脆弱です。新型コロナウイルス感染症に対するコミュニティの脆弱性指標(CCVI)は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにおいて、このようなコミュニティを識別します。これは、あらゆる種類の災害によりもたらされると考えられる負の影響を測定するためのCDC(アメリカ疾病予防管理センター)の社会的脆弱性指標(SVI)を組み合わせたものです。指標は6つのテーマにグループ化されています。新型コロナウイルス感染症に対するコミュニティの脆弱性指標(CCVI)の総合的なスコアが、国勢調査地区、郡、州レベルで算出されます。新型コロナウイルス感染症に対するコミュニティの脆弱性指標(CCVI)は、誰がコロナウイルスに感染するかを予測するためのものでなく、コミュニティのレベルにおいて、予想される負の影響を知るためのものです。これにより、意志決定者が、最も必要とされるコミュニティに資源を投入するのに役立ちます。

■指標の使い方
この指標は、脆弱性の高い地域を特定することで、政策と資源配分のための情報を提供するのに役立ちます。例えば、

  • 地域の社会サービスや非営利団体にとって:フードバンクや配食などの限られた資源を、最も必要とする地域に配分するためのガイドになる。
  • 郡や州レベルの政策立案者にとって:緊急時の計画を支援し、どのような種類の公共サービスをどこに向けるべきかについての選択を知らせる。
  • 民間企業にとって:医療供給者(Healthcare providers)への配車サービスの提供、最も必要とされている地域への無料配食サービスなど、新型コロナウイルス感染症の救済を支援するための直接的な取り組みを行う。
  • 一般の人々:自分のコミュニティの脆弱性を理解し、政府と共に資源を支持(Advocate)する。

※Surgo Foundation「The COVID-19 Community Vulnerability Index (CCVI)」のページの翻訳。

指標の6つのテーマ

上で説明されているように、新型コロナウイルス感染症に対するコミュニティの脆弱性指標(CCVI)は6つ項目から構成されています。6つの項目は以下の通りで、このうち①〜④はCDC(アメリカ疾病予防管理センター)の社会的脆弱性指標(SVI)、⑤⑥は新型コロナウイルス感染症に特有の脆弱性要因とされています。

  • ①社会経済的地位(Socioeconomic status):低所得、低学歴、無職の人
  • ②世帯構成および障害(Household Composition & Disability):高齢者(65歳以上)、若者(17歳以下)、障害者のいる世帯、または、ひとり親世帯
  • ③マイノリティの地位および言語(Minority Status & Language):人種的に疎外されているグループ、または、英語に熟達していない人々
  • ④住宅類型および交通機関(Housing Type & Transportation):複数の世帯からなる住宅、移動式の住宅、集団生活、または、過密な生活形態、および、交通手段を持たない世帯
  • ⑤疫学的要因(Epidemiological Factors):新型コロナウイルス感染症のリスクが高い基礎疾患(心血管疾患、呼吸器疾患、免疫不全、肥満、糖尿病)をもつ人々、インフルエンザや肺炎による死亡率の高さ、または、高い人口密度
  • ⑥ヘルスケアシステムの要因(Healthcare System Factors):ヘルスケアシステムのキャパシティ、強さ、準備の貧弱さ

※Surgo Foundation「The COVID-19 Community Vulnerability Index (CCVI)」のページの翻訳。

6つのテーマとしてあげられている項目は、新型コロナウイルス感染症に対応するために配慮し、集中的なサポートが必要な人々や世帯ということになります。


上に書いた通り、これはあくまでも脆弱性を表現した指標であり、指標の作り方については様々な議論がなされていると思われますが、コミュニティのあり方から新型コロナウイルス感染症への対応を考えるのは大切な作業。そしてこの作業は、新型コロナウイルス感染症の感染が収束した後にも、暮らしやすいコミュニティを実現することにつながっていくものだと考えています。