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地域自治の担い手について:千里ニュータウン新千里東町から考える

千里ニュータウン新千里東町で運営するコミュニティ・カフェ「ひがしまち街角広場」は、近隣センターの再開発に伴い、2021年春頃〜2022年夏頃に運営を終了することとなりました。
「ひがしまち街角広場」が運営を終了することになった背景には絡み合ったいくつかの要因がありますが、「ひがしまち街角広場」が運営を終了していくプロセスからは、地域自治は誰によって担われ、支えられるのかということについて様々なことを考えさせられます。

地域自治協議会

現在、豊中市は市内の各校区に地域自治協議会を立ち上げています。「ひがしまち街角広場」のある新千里東町には、豊中市で最初となる2012年4月22日に地域自治協議会が立ち上げられました。
地域自治協議会は「多様化、複雑化する地域の課題は、地域のことをよく知る住民が、地域の特性に応じて主体的に取り組み、行政がその取組みを支援することにより、より良い解決を図ることができ」るという「地域自治の考え方」を背景として立ち上げられるもの。豊中市のウェブサイトには「大切にしたい考え方=豊中スタイル」として、地域の住民が主役であること、全市一斉の取組みでないことの2点があげられています。

「多様化、複雑化する地域の課題は、地域のことをよく知る住民が、地域の特性に応じて主体的に取り組み、行政がその取組みを支援することにより、より良い解決を図ることができます(=地域自治の考え方)。」

「地域自治システムは、これまでの地域団体と市の各部局の分野別の関係に加え、地域と市が協働で地域課題の解決に総合的に取り組むための関係をつくるものです。
地域では、おおむね小学校区を範囲に、住民や地域団体が知恵や力を持ち寄って課題を解決していく寄り合いの仕組みをつくり、地域全体で取り組む必要のある課題や各種団体に共通する課題に対応できるようにします。
他方で、市は、各部局が情報共有、協力・連携して地域の課題に総合的に対応するための体制を整えます。また、地域と行政をつなぐ窓口となる職員を配置。全市一斉一律ではなく、地域の特色を生かした、それぞれの地域ならではの取組みを促進し、地域自治の実現をめざします。」
※豊中市「地域の自治・コミュニティ」のページより。

地域自治協議会に対するいくつかの疑問

地域自治協議会は「多様化、複雑化する地域の課題は、地域のことをよく知る住民が、地域の特性に応じて主体的に取り組み、行政がその取組みを支援する」ものですが、「ひがしまち街角広場」が運営を終了するプロセスを見ていると、次のようないくつかの疑問が生じます

  • 地域にとって本当に重要な課題(多様化、複雑化する地域の課題)に対して、住民には何の決定権もない。地域にとって本当に重要なことに関われない地域自治とは結局何なのか?
    ※例えば、新千里東町の場合はどのタイミングでどのぐらいの規模の分譲マンションを建設するのか、近隣センターの敷地をどうするのかなど。
  • 地域にとって本当に重要な課題が生み出す問題は住民だけで解決できることなのか?
    ※例えば、新千里東町の場合は住民の属性の偏り、活動や仕事の場所の不足など。
  • 地域自治協議会の理事も、担当課の行政職員(地域と行政をつなぐ窓口となる職員)も任期によって数年で交代していく。長い目で地域を見守り、考えていく仕組みをどうやって実現していくのか?
    ※例えば、新千里東町の場合は集合住宅の急激かつ全面的な再開発、「ひがしまち街角広場」の運営終了などの場面において、地域の歴史が継承されていない印象を受ける。

地域自治協議会の担い手

地域自治協議会は住民が主役であり、行政が住民をサポートするもの。ここには、住民はボランティアで地域自治を担うこと、それを、専門家(=お金をもらって仕事をする)としての行政職員がサポートするという考えがあると言えます。
こうした考えは当然だと思われるかもしれませんが、海外には、住民によって雇用された専属の専門家集団によって管理・運営されている住宅地があります。例えば、アメリカの計画住宅地であるメリーランド州のグリーンベルトは、グリーンベルト・ホームズ(GHI=Greenbelt Homes Inc.)という共同組合によって住宅・住宅地が管理・運営されています。注目すべきは、1,600戸の住宅を管理・運営するグリーンベルト・ホームズ(GHI)に41人もの専属のスタッフ(専門家)が雇用されていること。このことは、自分たちの地域のことだけを考えてくれる様々な分野の専門家がいることを意味しますが、1,600戸に41人の専属のスタッフという割合を4,630世帯(2020年4月の住民基本台帳より)の新千里東町に当てはめれば、新千里東町に約119人もの専属のスタッフがいる計算になります。

しかし、残念ながら日本にはこのような仕組みはありません。そこで、「料金前払いの会社である市役所」の職員が専門家としての役割を担うことが期待されることになります。

「市民が主体・中心となってまちづくりを進めるといっても、家を建てるのが一生に一度あるかないかの大きな仕事になる普通の市民にとっては、使い勝手のよいまちづくりをしたいという、まちへの思いや情熱が溢れていても、専門的な知識や情報が足りないのが普通ですし、それは、よりいっそう大きな、かつ重たい仕事であり、非常なエネルギー・時間・神経を費やすに違いないはずです。したがって、欧米でのように、財団が専門家を雇って市民のまちづくり活動を支えるという仕組みの乏しい日本の現状では、「好ましくはないけれども『料金前払いの会社である市役所』がこのサービスを提供するしかない」「地域社会のマネジメントを委ねられた行政の仕事だ」と覚悟して取り組み始めたのです。」
※芦田英機(赤澤明編)『豊中まちづくり物語』啓天まちづくり研究会 2016年

ここで指摘されているように、住民(市民)が中心になって地域自治を担うと言っても「専門的な知識や情報が足りないのが普通」であり、「非常なエネルギー・時間・神経を費やすに違いない」。従って、「料金前払いの会社である市役所」に専門家としての役割が期待される。

日本では他の選択肢がないかもしれませんが、「ひがしまち街角広場」をめぐる状況を見ていると、行政職員も任期で数年ごとに変わっていくため、地域のことを十分に知っているわけではない。「ひがしまち街角広場」のスタッフや来訪者で、担当課の行政職員が誰なのかを知っている人はほとんどいないと思われます。従って、行政職員は、地域自治協議会の決定が地域の総意だという「仮定」で動くというのはやむを得ないかもしれません。
しかし、地域自治協議会が地域の総意だという「仮定」が本当に正しいかどうかはわかりません。さらに、上に書いた通り、たとえ総意だとしても、地域自治協議会が地域は集合住宅や近隣センターの再開発のあり方を考えるなどの重要な課題には関与できない。つまり、地域自治協議会が地域の全てをカバーしているわけではありません。

「ひがしまち街角広場」をめぐる状況からは、「地域自治協議会(住民)+行政」の組み合わせでは、地域にとって重要な課題を解決するのは困難ではないかという思いを抱いてしまいます。

地域自治協議会に関わる専門家

「地域自治協議会(住民)+行政」の組み合わせでは、地域にとって重要な課題を解決するのが困難だとすれば、長い目で地域を見守り、考えてくれる専門家の力を借りる必要がある。けれども、豊中市の地域自治協議会からは、専門家がどのように関わるかという視点が抜け落ちている。

ただし、お金をもらって仕事をする人や組織を専門家と見なすならば、現在でも、新千里東町には多様な専門家が関わっていることが見えてきます。
集合住宅や近隣センターの再開発には、この意味での多くの専門家が関わっています。地域自治協議会に対しては豊中市からの補助金が出されており、新千里東町では、例えば、地域自治協議会の各種のチラシやポスターのデザイン、新しい広報誌『LOVEひがしまち』(2020年4月創刊)の発行などに豊中市からの交付金が使われています。このように、新千里東町でもお金の動きがある。

見落としてならないのは、お金の動きは、行政や地域自治協議会の枠組みに収まる限りで、という限定がつくこと*1)。現在の新千里東町では、各種の地域団体から地域自治協議会のあり方に対して問題提起がなされたり、地域自治協議会が新地区会館に計画しているカフェ・プロジェクトに対して問題提起がされていますが、このような様々な問題提起がなされていることは、地域に多様な意見が存在していることを表すもので、健全な地域のあり方と言えるかもしれません。ただし、「地域自治協議会(住民)+行政」に対して問題提起することも大変な労力を要する作業であり、専門家のサポートを必要とする場面が出てくる。けれども、「地域自治協議会(住民)+行政」に対して問題提起することにはお金が出ないため、問題提起をサポートする専門家は手弁当で関わっているというのが現状です。

この点は、個々の地域自治協議会の理事や担当課の行政職員の問題ではなく、豊中市の地域自治協議会という仕組み自体が抱えている問題があると考えています。
つまり、「地域自治協議会(住民)+行政」の枠組みに収まることには補助金というかたちでお金が出ることで仕事として成立するのに、それに対して問題提起することにはお金が出ない。問題提起は重要であるにも関わらず、お金が出ないということも含めて問題提起することが困難な仕組みとなっている。これが結果として、地域の多様な意見を押さえつけることにつながっている可能性は否定できません。「ひがしまち街角広場」をめぐる状況を見ていると、このような思いを抱かずにはいられません。

このような状況からは、「地域自治協議会(住民)+行政」に対して問題提起するのをサポートするような専門家が地域に関われるような仕組みをどう実現するかという視点が重要になってくるように思います。
自分の意見が何らかのかたちで地域に反映された、自分の意見によって地域が少し変わったりする経験を重ねることで、地域自治の担い手が育っていくことを考えれば、このことは地域自治において非常に重要なことだと考えています。


  • 1)新千里東町地域自治協議会が創刊した広報誌『LOVEひがしまち』(2020年4月創刊)には、費用の一部に豊中市からの交付金があてられいる。一方、新千里東町に以前からあった地域新聞『ひがしおか』(2001年1月創刊、年6回発行)には豊中市の交付金があてられていない。

(更新:2020年9月23日)