『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

居場所に関する書籍、『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)が刊行されましたので、ご案内いたします。

田中康裕『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』水曜社, 2021年

居場所の現場に立ち続けてこられた方から、次のような願いをこめて居場所を運営していると伺ったことがあります。

「今どこに行っても、立ちあげの目的は介護予防・健康寿命延伸のためと紹介されます。結果そうであることを願いますが、・・・・・・、参加される全ての方にとって日々の生きる喜びや楽しみ、自己実現の場であり、結果、地域に生きる安心につながることを願っています。そのために必要なことをプラスしながらやっていけたらと思っています。」

社会が居場所に「介護予防・健康寿命延伸」の役割を期待しているとしても、この側面に焦点をあて過ぎることで居場所の可能性を見失ってしまうのではないか、専門家は現場の人々が居場所にこめている願いに本当に向き合えているのだろうか。この言葉をきっかけとして、このようなことを考えるようになりました。

居場所に注目するようになった2000年代前半、居場所はすでに同時多発的に開かれていましたが、任意団体や個人が運営する小規模な場所が多かったため、居場所は持続可能なのか、広がっていくのかと指摘されることもありました。しかし、この指摘はあてはまらず、その後も多くの居場所が開かれ続けてきました。
さらに近年では、高齢社会への対応として、居場所には介護や介護予防の機能を担うことが期待されるようになってきました。そして、コミュニティカフェ、地域の茶の間、まちの縁側などをモデルとする通いの場、宅老所をモデルとする小規模多機能型居宅介護というように、既存の制度や施設の外側の場所として開かれてきた居場所が、制度や施設のモデルにされ、その中に取り込まれる動きも生まれています。
こうした動きは居場所の意義が広く認知されたことの現れとも言えますが、先に紹介した言葉はこうした動きに対する現場からの問題提起になっています。この言葉では、居場所が「介護予防・健康寿命延伸」の機能を担うことは否定されていませんが、「日々の生きる喜びや楽しみ、自己実現の場」であり「地域に生きる安心につながる」というように、「介護予防・健康寿命延伸」の枠組みに収まりきらない豊かな場所と捉えられています。
本書は、この言葉から受けとった問題提起への応答として執筆したものです。

本書ではこれまで調査したり、運営に携わったりしてきた次の5つの場所を取りあげています。

  • 東京都江戸川区に子どもだけでも入れる喫茶店として開かれた「親と子の談話室・とぽす」(1987年~)
  • 大阪府の「ふれあいリビング」整備事業の第一号として開かれた「下新庄さくら園」(2000年〜)
  • 大阪府千里ニュータウンで空き店舗を活用して開かれた「ひがしまち街角広場」(2001年~)
  • 東日本大震災の被災地である岩手県大船渡市に開かれた「居場所ハウス」(2013年~)
  • 新潟市の「地域包括ケア推進モデルハウス」として開かれた「実家の茶の間・紫竹」(2014年~)

5つの場所を通して、居場所と施設の違いについて考察すること、居場所の可能性とそれを支える専門家の姿を描くことが本書の目的です。
本書が、既に居場所に関わっておられる方や専門家にとって居場所を振り返っていただく機会に、居場所に関心をお持ちの方にとって居場所を知っていただく機会になれば幸いです。

目次

□はじめに
居場所の現場からの問題提起
本書の構成

□プロローグ
1.居場所と新型コロナウィルス感染症
2.5つの居場所との関わり
3.本書における用語・表記

□第1部:居場所の姿
□第1章:5つの居場所

□第2章:親と子の談話室・とぽす

□第3章:下新庄さくら園

□第4章:ひがしまち街角広場

□第5章:居場所ハウス

□第6章:実家の茶の間・紫竹

□第2部:居場所の可能性
□第7章:居場所をめぐる小史
1.制度・施設の外側の場所
2.居場所の制度化

□第8章:制度化における機能の先行
1.多機能化していく居場所
2.制度化における機能の先行
3.第三者としての専門家による要求の先取り
4.目的としての介護予防と結果としての介護予防

□第9章:居場所に備わってくる機能

□第10章:要求への対応により育つ理念
1.主(あるじ)による要求への対応
2.具体例により豊に育つ理念
3.理念の共有

□第11章:利用・参加ではなく居られる場所
1.場所を作りあげる当事者
2.居合わせる
3.居られる場所のしつらえ

□第12章:居場所を支えることの可能性
1.ハブ型から分散型へ
2.代理人からインタープリターへ

□おわりに

(更新:2021年6月24日)