『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

シンガポールのビダダリにおける歴史(ヘリテージ)の取り組み

シンガポールでは国民の約8割がHDB(Housing and Development Board:住宅開発庁)が建設する住宅に住んでいます。人口の増加に伴い、HDBは現在でも多くの住宅を開発しています。
HDBギャラリーの展示では、HDBが街を計画するにあたって重視しているポイントとして、6点があげられています。

  • 緑(Greenery)
  • コミュニティ(Community)
  • 移動・輸送(Mobility & Transport)
  • スマート・サステナブル(Smart & Sustainable)
  • 統合された商業施設(Integrated Commercial Facilities)
  • ヘリテージ(Heritage)

ここで紹介するのはヘリテージ(Heritage)。HDBギャラリーの展示では、ヘリテージ(Heritage)の取り組みが次のように紹介されています。

「ヘリテージ(Heritage)
新しい街や団地の計画・開発において、ヘリテージは個性的なアイデンティティと場所の感覚(Sense of Place)を生み出すための重要な要素となります。可能であれば、記憶に残るランドマークを保存したり、その場所の思い出を取り戻すためにマーカーやストーリーボードを設置したりしています。地域のヘリテージを反映させたテーマのある遊び場も設置されています。」
※HDBギャラリーの展示の翻訳。

ビダダリ

HDBギャラリーの展示によると、ヘリテージ(Heritage)に重点を置いて開発されている街として紹介されているのが、ビダダリ(Bidadari)です。

ビダダリは、シンガポールの中央に位置するトア・パヨ(Toa Payoh)の一部。このエリアにはかつて墓地がありました。1996年、政府が墓地跡を開発することを発表。2011年にMRT北東線(MRT North East Line)のウッドレイ(Woodleigh)駅が開業し、2013年にHDBが墓地跡を住宅地として開発することを発表*1)。現在、大規模な開発が行われています。

「ビダダリの街(Bidadari Estate)は、緩やかに起伏する緑と豊なヘリテージ(遺産)をいかすように計画されています。街の開発においては、地形と渡り鳥が巣を作ることができる広大な緑地が保護されます。ヘリテージ・ウォーク(Heritage Walk)やアルカフ湖(Alkaff Lake)など、街の思い出を伝える場所がもうけられます。バートリー・ロード(Bartley Road)からアッパー・セラングーン・ロード(Upper Serangoon Road)まで、街を通り抜ける全長1.6kmのビダダリ・グリーンウェイ(Bidadari Greenway)は、住民の活動拠点となります。」
※HDBギャラリーの展示の翻訳。

(ビダダリ)

(ビダダリ・グリーンウェイ)

ウッドレイ・モール/ウッドレイ・ヴィレッジ

HDBギャラリーで紹介されているヘリテージ・ウォーク(Heritage Walk)は、MRTのウッドレイ(Woodleigh)駅の上にある、ウッドレイ・モール(The Woodleigh Mall)と、複合施設のウッドレイ・ヴィレッジ(Woodleigh Village)の間から始まっています。

ウッドレイ・ヴィレッジは、MRTの駅と直結しており、13階建ての3棟、330戸の住宅、ホーカー・センター(Hawker Centre)、バス・インターチェンジなどの機能をあわせもつ複合施設です*2)。

現在、ウッドレイ・モールとウッドレイ・ヴィレッジの間のヘリテージ・ウォークは工事中。ヘリテージ・ウォークに面したウッドレイ・モールの1階には、カフェ、レストランが並んでいます。一方、ウッドレイ・ヴィレッジの2階部分には、新たにホーカー・センターがオープンしています。

(工事中のヘリテージ・ウォーク)

ヘリテージ・ウォークは、ビダダリ・パーク・ドライブ(Bidadari Park Dr)を越えて、東のビダダリ・パーク(Bidadari Park)に続いています。ウッドレイ・モールからは、ブリッジを通ってビダダリ・パークに行くこともできます。

(ビダダリ・パークに続くヘリテージ・ウォーク)

(ウッドレイ・モールとビダダリ・パークをつなぐブリッジ)

ビダダリ・パーク

2024年9月3日、ビダダリ・パーク(Bidadari Park)がオープンしました*3)。ヘリテージ・ウォークは、ビダダリ・パークを東西に横切っています。まだ、公園の東側は工事中ですが、ヘリテージ・ウォークに沿って、「ビダダリの語源と歴史」(Bidadari’s Etymology and History)、「教育」(Education)、「アルカフ・ガーデンズ」(Alkaff Gardens)、「場所の名前」(Place Names)という、ビダダリの歴史を紹介する4つのパネルが設置されています。
かつてこの土地にあったアルカフ・ガーデンズ(Alkaff Gardens)は、1920年代に、アルカフ家が開発を計画した住宅地における公園として計画されたもの。住宅地は、1,000戸のバンガロー、テラスハウス、店舗付き住宅(bungalows, terrace houses and shophouses)として計画されましたが、実現には至らず、1929年、アルカフ・ガーデンズのみ一般公開。アルカフ・ガーデンズは日本風の庭園として作られていたということです。

(ビダダリ・パークを通るヘリテージ・ウォーク)

ヘリテージ・ウォークの南側には、アルカフ湖(Alkaff Lake)があります。アルカフ湖の中央には、レイン・ツリー島(Rain Tree Island)という大きな木々のある島があります。

(アルカフ湖)

ヘリテージ・ウォークの北側には、芝生の広場、湿地帯、森林、遊び場などがあります。野鳥も見られるようで、訪れた時、大きなカメラを構えて野鳥を撮影している人を見かけました。大きな団地が建ち並ぶ街の真ん中に、このような自然豊かな公園が残されていることは興味深いと感じました。

(ビダダリ・パーク)

ヒルロック・パーク

ビダダリ・パークから、北側のビダダリ・パーク・ドライブ(Bidadari Park Drive)をまたぐブリッジを通って、ヒルロック・パーク(Hillock Park)に行くことができます。ヒルロック・パークの南には、ウッドレイ・グレン(Woodleigh Grel)、北にはウッドレイ・ヒルサイド(Woodleigh Hillside)というHDBの大きな団地が建設されています。

(ビダダリ・パークとヒルロック・パークを繋ぐブリッジ)

(ヒルロック・パーク)


現在、ヘリテージ・ウォークの東部分はまだ完成していませんが、今後、Sang Nila Utama Rdを越えて、メモリアル・ガーデン(Memorial Garden)まで到達する計画とされています。


■注