先日、阪急千里線・北千里駅の北西に位置するURの千里青山台団地を歩きました。
千里青山台団地は、千里ニュータウンの初期の公団の団地の1つ(1965年8月~1968年4月にかけて完成)で、緩やかな丘陵地に住棟が建ち並んでいます。
『千里ニュータウンの建設』(大阪府, 1970年)には青山台団地の特徴が次のように紹介されています。
「とくに青山台団地では、丘陵地であるため、敷地の高低処理に新しい試みを行なっている。これまでは高低の多い敷地ではヒナ壇式の造成をしてきているが、ここでは、全体をスロープ構成とし、そのスロープに合わせてボックス型の建物群を配置し、また建物の一部にピロティを採用し、屋外スペースと関連させて有効に利用している。これら屋外での生活をより楽しくするための公団独特の団地構成である。」*1)
千里青山台団地の住棟は、板状の住棟の平行配置が基本となっていますが、『千里ニュータウンの建設』で紹介されているように、正方形の平面を持つボックス型住棟(ポイント型住棟)や、1階部分がピロティになった住棟も配置されています。
実際に千里青山台団地を歩くと、ボックス型住棟やピロティのある住棟が変化のある景観を生み出していることがわかります。また、大きく育った木々、ゆったりした遊歩道や遊び場など、オープンスペースも豊かであることも感じます。
オープンスペースには彫刻や、キリン、カバ、馬、象、亀などの動物型の遊具(新千里北町では車止めとして利用されている)が設置されています。
ITO×UR みんなの庭プロジェクト
千里青山台団地では、建築家の伊東豊雄氏とURが立ち上げた団地リノベーションプロジェクトの一環として、「みんなの庭プロジェクト」が行われてきました。
2015年5月24日、「団地の中にあったらいいなと思う「みんなの庭」をお住まいの皆さんと考え、形にする、居住者参加型のイベント」として、「建築家・伊東豊雄と『みんなの庭』を考えてみよう!in 青山台」が開催されました。
「ワークショップでは、団地にお住まいの方が中心となり、ボランティアの大学生も加って、秘密基地やハンモック、野外シネマ、ワイナリーなど夢のある庭のアイデアが飛び出し、いろいろな材料を使って形にしました。最後に、団地の屋外空間をイメージしたジオラマ模型の上にみんなで庭を並べ、自分が作った庭の説明や団地の素晴らしさ・団地への思いなどを発表していただきました。」*2)
ワークショップを受け、2015年12月13日、「みんなの庭プロジェクト」の第1弾として集会所の前庭に屋外コンロにもなるテーブルが完成。テーブルは「集会所が「出会い・ふれあいの場」となり、災害時には炊き出しにも活用できることを願って作られた」もので、伊東豊雄氏により「みんなのテーブル」と名づけられました*3)。
2016年4月23日には、「みんなの庭プロジェクト」の第2弾として、集会所前の6つの丸い庭にハーブの植え付けイベントが開催されました*4)。
ハーブの庭の他、千里青山台団地には、住民の手による丸い庭も作られており、先日歩いた時には「アーチの見える庭」、「ピンクローズの庭」、「へんな庭」など、たくさんのユニークな庭を見かけました。
住民の手による庭は、住民の関わりを生み出したり、生きがいを生み出したりしていることが紹介されています。
「「でも、この花壇作りを通して友達ができました。通りかかった人から『きれいねえ』と声をかけられるとうれしいですね」と新たな生きがいを見つけたようだ。ときには他の花壇を見に行き、「もっとこうしたら」と声をかけることもあるという。「そうなんです。ここで花の世話をしていると、それじゃ寄せ過ぎだとか、知らない人からいろいろ指導が入るんですよ(笑)」
それが楽しいと話す若い夫婦は、自分たちの住む住棟の前にレンガを積んで、花壇そのものも手作りした。「ここに引っ越してまだ1年と少しですが、団地でこういう暮らしができるとは、考えもしませんでした」と楽しそうだ。」*5)
戸建住宅の場合には増築をしたり、部屋に家具を設置したり、庭に植栽を植えたり、畑で野菜を育てたりりというように、様々なかたちで住宅の空間に手を加えることが可能です。積極的に行う場合も、必要に迫られて行う場合もありますが、空間に手を加える行為は、その場所に愛着を感じるきっかけとなり、また、自らの役割を担うためのきっかけにもなる。
一方、集合住宅、特に賃貸の集合住宅の場合には、住戸内に対しても、住戸外のオープンスペースに対しても、空間に手を加える行為を行うことは困難です。
例えば、多摩ニュータウンの住民は、こうした状況を次のように指摘しています。
「地方都市は、男たちの出番って、よく分からないけれど、自分の家の周りを修理するとかあると思うんです。私はある一時期、そういう仕事はニュータウンにはないものとしてマイナスに思っていたんですが、もう家はできているわけだし、そんなに手入れをしちゃいけない家なわけですよ。そしたら男たちはもっとパブリックな部分のスペースをつくっていけばよいわけで。それによってどれだけ街が救われるかっていうのに気がついてもらったら、団塊世代そのものも救われるだろうし、街も救われるよねって思うんですけどね」*6)
ニュータウンには空間を手入れしたり作ったりする出番がない。だから、「パブリックな部分のスペース」を作ることが大切になるということ。千里青山台団地の「みんなの庭プロジェクト」はまさにこの具体的な取り組みだと考えることができます。
「みんなの庭」プロジェクトは、住民が空間を手入れしたり作ったりする機会を生み出して、それによって自分たちで団地の環境を管理するとともに、より豊かな団地の環境を実現していこうとするものです。
そして、「みんなの庭プロジェクト」が行えたのは、そもそも千里青山台団地のオープンスペースが豊かなものとして計画されたからこそ。この意味で、「みんなの庭プロジェクト」には計画者の思いが継承されているとも言うことができます。
なお、千里青山台団地では「みんなの庭プロジェクト」として、「集会所を舞台にお友達とくつろげるような「居場所」づくりをお住まいの皆さまとアイデアを出し合いながら実現していく取組」として「みんなの集会所」の試みも行われています。2017年12月10日には、「みんなの集会所」ワークショップが開催されました。
「当日は集会所にてお住まいの皆さまが各自で用意された食材を使い餃子づくりにもチャレンジ。個性的な餃子もあり、特技を存分に披露されながら楽しい時間を過ごされました。
みんなで楽しく集会所で餃子を食べた後は、お住まいの皆さま同士で理想とする集会所についてお話合いを行いました。
「食事を作りながら楽しめる集会所」、「昔はよく行われていた四季折々の団地行事をまたしてみたい」、「集会所の前庭も千里青山台団地の自然の素晴らしさを活かしてステキにできないかな?」など、 団地への愛着から生まれる数々 のアイデアが飛び交う素敵なワークショップとなりました。」*7)
2018年末には集会所のキッチンのリノベーションが実施され、2019年1月20日には「新しいキッチン使いこなしイベント」も開催されています*8)。
注
- 1)大阪府編『千里ニュータウンの建設』大阪府 1970年。
- 2)UR都市機構「千里青山台団地で建築家・伊東豊雄氏とワークショップイベントを開催」(2015年5月24日)のページより。
- 3)UR都市機構「伊東豊雄氏と取り組む「みんなの庭」第1弾が完成 千里青山台団地」(2015年12月13日)のページより。
- 4)UR都市機構「「伊東豊雄氏と取り組む『みんなの庭プロジェクト』 第2弾 ”ハーブの庭”が完成 千里青山台団地」を掲載しました。」(2016年5月13日)のページより。
- 5)「みんなの庭でつながる:花壇から団地の新しいコミュニティーが生まれる」・『UR PRESS』vol.50 2017年7月31日。
- 6)寺田恵美子・松本祐一(2007)「「暮らしのオーラル・ヒストリー」からみえるもの」・『多摩ニュータウン研究』No.9。
- 7)UR都市機構「「千里青山台団地でITO×UR『みんなの集会所』ワークショップを実施」を掲載しました。」(2018年1月18日)のページより。
- 8)UR都市機構「千里青山台団地の集会所のキッチンがリニューアル」(2019年2月13日)のページより。