ニューディール政策によって作られたアメリカ・ワシントンDC郊外のグリーンベルト(Greenbelt)は、来年(2012年)、まちびらきから75周年を迎えます。75周年記念事業は現在進行中のプロジェクトですが、1987年にはまちびらき50周年記念事業が行われてました。
千里ニュータウンの参考になるかどうかわかりませんが、グリーンベルトのまちびらき50周年記念のことを紹介したいと思います。
グリーンベルトまちびらき50周年記念
1983年
まちびらき50周年に向けた動きは、4年前の1983年から始まりました。75周年記念委員会も早い時期から動いていることに驚かされましたが、50周年記念委員会が立ち上げられた時期もかなり早いことがわかります。
- 1983年7月11日、グリーンベルト市議会が、50周年記念の式典を計画・組織する委員会を設立することを決議。
50周年記念委員会は5〜12人で構成されること、委員は市議会により選ばれること、市政担当官 (CIty manager)と市議会議員の1人が議決権のない委員として加わることなどが決められました。また、50周年記念委員会には、特別な作業・プログラムを担当する小委員会(Subcommittee)の設立と、小委員会のメンバーを選ぶ権限が与えられていました。
1984年
- 1984年3月6日、50周年記念委員会設立の会議において委員長、副委員長が選ばれた。委員会は、すぐに全ての地域団体に手紙を送り、50周年記念式典への参加・提案を求めた。
- 1984年のLabor Day(労働の日・9月の第1日曜日)のフェスティバルにおいて、50周年記念委員会が、最初に行うイベントとしてブースを出す。グリーンベルト・トリビア・ゲーム(Greenbelt Trivia Game)を行い、勝者にはグリーンベルト・エキスパートのボタンが与えられた。また、グリーンベルト旗の販売も行ない、その売上げは活動資金を支援するために使われた。
1985年
- 1985年1月、50周年記念委員会が特別会議を開く。地域組織からアイディアを受け取り、地域組織に対して特定のイベントやプロジェクトのスポンサーになるよう奨励した。
50周年に向けて立ち上げられた小委員会は次の通り。
□グリーンベルト・ミュージアムの開設(Development of the Greenbelt Museum)
□50周年記念の本の制作(Production of the Fiftieth Anniversary Book)
□フランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領の像の依頼(Commissioning a Statue of Franklin Delano Roosevelt)
□50周年記念ダンス(50th Anniversary Dance)
□計画コミュニティ全国会議(National Conference on Planned Communities)
□家と庭のツアー(House and Garden Tours)
□資金調達・販売促進(Fund-Raising, and Sales and Promotions)
□オーラル・ヒストリー・プロジェクト(Oral History project)
□植樹(Tree Planting)
□スライド・ショーの制作(Production of a Slide Show)
これらの小委員会の中で、資金が限られていたため、当初の目的を達成できなかったのはルーズベルト大統領の像を建立するという小委員会だけだったようです。
1987年
多くの人々の手によって準備が進められ、50周年記念の1年間にはたくさんのイベントが行われました。
- 1987年1月18日、最初の式典(Kickoff Celebration)が映画館(Utopia Theater)で開催。思い出の語り、1930年代の歌、スライドショー、今後のイベントのプレビューが行われた。
- 1987年2月15日、NASAのレクリエーション・センターにおいて、第26回・ワシントンの誕生日のマラソン大会(Washington’s Birthday Marathon)が開催。参加者全員にグリーンベルト50周年のロゴ入りのTシャツが配られた(※グリーンベルト市内にはNASA(アメリカ航空宇宙局)ゴダード宇宙飛行センター(Goddard Space Flight Center)がある)。
- 1987年2月18・25日、プリンス・ジョージズ郡コミュニティ・カレッジ(Prince George’s Community College)とプリンス・ジョージズ郡立図書館のグリーンベルト分館がスポンサーとなり、グリーンベルトの歴史についての講座が開催。
- 1987年3月8日、米国在郷軍人会(American Legion)が、売り上げを50周年記念行事に使うため、食事とエンターテイメントの日を開催(Day of Food and Entertainment)。
- 1987年4月20・30日に、ローカル・ケーブル・テレビが、初期の入居者へのインタビューを映したビデオを放映。
- 1987年5月1〜3日、「ニュータウンについてのグリーンベルト会議(The Greenbelt Conference on New Towns)」が開催。5月1日の夕方、グリーンベルト・ヒルトンで写真展示のオープニングと、レセプションが開かれる。展示されたのは農業安定局(Farm Security Administration)の写真家が撮影した42枚の初期のグリーンベルトの写真。5月2日、歴史家William Leuchtenburg氏による「ニュー・ディールのビジョン(The Vision of the New Deal)」という基調講演から会議が始まる。他のセッションのタイトルは「Greenbelt–Implementing the Vision」、「Reflections on Making the Greentowns Work」「The Future of New Towns」「New Towns Housing the World」。全てのセッションは、大学の標準的な学問の枠にはおさまらなかったかもしれないが、会議は市民ボランティアのグループによる注目すべき冒険的試みだった。会議は、要約が地域新聞(Greenbelt News Review)に掲載され、広範囲の読者に伝えられた。
- 1987年5月16〜17日、次の大きなイベントである家と庭のツアー(House and Garden Tour)が開催。市内の全てのエリアにある60以上の住戸がツアーのために公開された。
- 1987年6月2日、グリーンベルト・ヒルトンの舞踏室でNostalgia Night(追憶の夜)が開催。このイベントは、ミュージアムの資金を集める目的で開催され、フォークシンガーのJoe Glazer氏がニュー・ディール期の曲を歌う。現在ミュージアムになっている中戸(10-B Crescent Road)の最初の居住者が、1937年に入居した頃の思い出を語った。
- 1987年6月のグリーンベルト・デイ(Greenbelt Day)では、2つの特別なイベントが行われた。6月6日、空中からの集合写真の撮影のため、約1000人の人々がBarden Fieldに集まる。グリーンベルトのセンター(ルーズベルト・センター)から運行されたダブルデッカー・バスに乗って2000人以上がNASAの施設見学に訪れた。
- 1987年9月のLabor Day(労働の日・9月の第1日曜日)のフェスティバルにおけるパレードでは、グリーンベルト50周年とアメリカ合衆国憲法200周年を祝う山車(Float)が登場。山車には、彫刻家Lenore Thomasによるセンター・スクール(現在のコミュニティ・センター)のレリーフ「我々人民(We the People)」のレプリカがあしらわれ、「我々人民は、グリーンベルトとアメリカを偉大にする!(We the People…make Greenbelt and America Great!)」を宣言した。最初の市民(Pioneer citizen)の代表として、50年間グリーンベルトに住み続けているBarcus家の、三世代の人々が山車に乗車した。
- 1987年10月9日・10日には帰郷の週末(Homecoming Weekend)が開催され、以前グリーンベルトに住んでいた人々が招待された。この週末のハイライトはミュージアムの開所式、ヒルトンの舞踏室でのディナー・ダンス、米国在郷軍人会(American Legion)のスポンサーによる初期の家族(Pioneer Families)の昼食会。
- 1987年11月、地域新聞Greenbelt News Reviewが50周年記念のディナーを開催。50周年特別記念号には、1937年11月24日の創刊号に記載された新聞の7つの目的が再掲された。
50周年の1年間に行われたイベントを見てきましたが、この他にも次のようなことが行われました。
- 50周年記念委員会は郵便局と、50周年の特別な消印の使うことを取り決めた。
- NASAの切手クラブは、1937年6月1日のグリーンベルト憲章(Greenbelt Charter)の50周年を記念して、First-day cover(初日カバー、切手の発行日の消印が押してあるもの)を作成。
- Citizen for Greenbeltのメンバーが、市の新しい地図を作成。
そして、50周年にはグリーンベルト・ミュージアムが開かれ、街の歴史についての2冊の本が刊行されています。
このように振り返ってみると、グリーンベルトにおいては、まちびらき50周年が非常に大きな意味を持っていたことを思い知らされます。以前グリーンベルトに住んでいた人々を招待する帰郷の週末(Homecoming Weekend)は興味深いと思います。また、ミュージアム開設等の資金を集めるためのイベントを、50周年記念委員会・小委員会が開催していることも、日本と違う動きであり興味深いです。
写真はミュージアムのオフィス兼保管スペースで見せていただいた「ニュータウンについてのグリーンベルト会議(The Greenbelt Conference on New Towns)」の案内板です。
- 参考:Cathy D. Knepper, “Greenbelt, Maryland: A Living Legacy of the New Deal” target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>” Johns Hopkins Univ Pr, 2001
(更新:2020年3月9日)