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千里グッズの会が都市住宅学会・業績賞を受賞

2002年から千里ニュータウンにお住まいの方、建築・都市計画の専門家の方、大阪大学の教員・学生で取り組んできた千里グッズの会の活動、「千里ニュータウンの価値と魅力を共有するための活動〜「千里グッズの会」による地域情報共有メディアの制作等による住まわれた歴史の継承〜」が2014都市住宅学会・業績賞を受賞しました。
近過去として見過ごされてきたニュータウンの歴史や価値を再発見する試みであること、再発見した歴史や価値を様々なメディアを通して共有する10年以上にわたる活動であることを評価していただきました。ここで改めて、千里グッズの会のこれまでの活動をご紹介させていただきます(*以下は「2014都市住宅学会賞・業績賞」推薦書をもとに加筆したものです)。

千里グッズの会の活動

オールドタウン化した街、働く場がないがない街、歴史がない街など、様々な批判がなされるニュータウンにおいて、絵はがきはささやかだが街の魅力を共有するメディアになるのではないか、「魅力ある街には魅力的な絵はがきがある」という考えから、2002年7月に千里ニュータウンのお土産・グッズを作る目的で「千里グッズの会」が生まれました。参加したのは千里ニュータウンにお住まいの方、建築・都市計画の専門家、大阪大学で建築を専攻する教員・学生で、千里の風景や歴史、千里を対象とした研究成果をもとに絵はがきを制作し、販売する「千里の絵はがきプロジェクト」を始めました。
千里ニュータウンでは、2005年以降、集合住宅の急速な建替えによって大きな変貌を遂げています。そこで千里グッズの会は2011年から大阪府豊中市との協働事業としてディスカバー千里プロジェクトを始めました。このプロジェクトは住民や来訪者に千里ニュータウンの魅力を「発見」してもらえるよう、生活情報や歴史を収集・編集・発信することで、住民にとって当たり前のものとして経験されてきた暮らしが、次の世代へと継承する価値ある歴史になるという意識を共有し、今後のまちづくりに活かすことを目的としています。
この他に、千里グッズの会では千里の歴史・魅力を共有するメディアとして、新千里東町のコミュニティ・カフェ「ひがしまち街角広場」の活動をまとめた『街角広場アーカイブ』や『千里ニュータウンウォーク・ガイド−「千里ニュータウン計画」の思想を巡る−』の発行、「大きな本」のプロジェクトを行ってきた。また、各種団体に絵はがきの元になった写真を提供したり、街歩き、イベント、ワークショップの企画・協力などの活動も行ってきました。以下で、千里グッズの会がこれまで行ってきた主な活動をご紹介します。

千里の絵はがきプロジェクト

千里ニュータウンでは、千里中央地区が誕生した1970年の「千里ニュータウンの絵はがき」など、何度か絵はがきが制作されています。しかし、これらは開発者の視点が強く竣工写真に近い図柄が多く、イベント後に継続的に配布・販売されていないため現在では入手困難になっています。
これに対して、千里グッズの会では以下の点を目指して絵はがきを制作しています。

  • 居住者/専門家の両方の視点から千里の多様な魅力を表現する
  • 風景だけでなく日常の情景、分析図等、様々な種類を制作する
  • 街の魅力を伝えるコミュニケーションツール(記念品でない)
  • 日常使用する文房具と位置づける(作家性や土産物を強調しない)

当初、8種類の絵はがきを選んで製版印刷を行ないました。近代的な住宅都市である千里ニュータウンらしい風景、建設時と約40年後の現在を対比したもの、木々が育ち成熟した街の日常風景、「ひがしまち街角広場」に高齢者や子どもが集う日常風景、千里ニュータウンの中心にある計画除外地・上新田集落の秋祭りの神輿のルートの8種類です(各1,000枚、合計8,000枚印刷)。
その後も絵はがきの制作を続け、現在、1,173種類の絵葉書を準備しており、2010年以降に新たに16種類を選び製版印刷しました(2010年8種類2011年4種類2012年4種類、各400枚、合計6,400枚印刷)。

印刷した絵はがきは「ひがしまち街角広場」内で販売しているのに加えて、「千里ニュータウンまちづくり市民フォーラム」「豊中市千里文化センター・コラボ祭り」「ひがしまち街角広場○○周年記念イベント」など千里で開催されるイベント会場でも販売しています。また、ウェブサイト「ニュータウン・スケッチ」では、製版印刷した絵はがきの見本を掲載し、撮影年や撮影場所などの情報を掲載しています。

千里の絵はがきには次のような意味があると考えています。

  • 住民相互のコミュニケーション・知識共有の媒体

    絵はがきを購入した理由や使い方を尋ねると、離れて住む子どもや孫、かつての隣人に便りを書くためや、自分の思い出のために購入するためなどの意見があり、空間・時間を隔てた相手とのコミュニケーションの媒体として利用されていることがわかりました。

  • 住民が愛着を抱く風景・資源の指標

    絵はがきの販売状況や、どのような絵はがきを制作して欲しいかと尋ねた結果は、住民はどのような風景に愛着を抱いているのか、何が千里の資源になるのかを捉えるための貴重なデータ、指標です。

  • 変貌するニュータウンの記録
    現在、千里ニュータウンでは集合住宅の建替えなど、再開発が急ピッチで行われており、風景は日々刻々と変化しています。例えば、最初に製版印刷した8種類の絵はがきのうち既に半分は失われた風景であり、絵はがきとした千里中央の千里センタービル(設計:槇文彦)、南千里センタービル(設計・村野藤吾)も既に存在しません。当初、魅力的・特徴的な風景として撮影した写真が、今では貴重な街の記録になっています。
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ディスカバー千里

ディスカバー千里は千里グッズの会と豊中市の「協働事業市民提案制度」による協働プロジェクトです。ディスカバー(Discover)とは「発見する」の意味。千里の住民、あるいは、千里を訪れる方に、街の魅力を発見してもらえるよう、生活情報や歴史を収集・編集・発信する活動を行っています。ディスカバー千里では、「暮らしの歴史アーカイブ事業」「ウェルカムパック事業」の2つの事業に取り組んでいます。

暮らしの歴史アーカイブ事業

千里住民や開発に携わられた方へのインタビューを通し、千里についての思い出を収集しています。現在、千里にお住まいの方にワークショップ形式で思い出を伺ったり、イベントで思い出を記入してもらうことに加えて、転勤族が多いニュータウンという特徴をふまえ、かつて千里にお住まいだった方からもウェブサイトを通して思い出をお寄せいただいています。思い出に加えて、千里ニュータウンの昔の写真なども収集しています。
これまでに、次のような貴重な思い出をお寄せいただきました。

千里西町の公団住宅に、生まれてから高校卒業まで住んでいました。今も両親が同じ場所に住んでいます。私が居た頃は、開発が進んでいて毎年空き地にビルが建ち進み、町がどんどん姿を変えていた時期でした。ニュータウン特有の歴史のなさ、風情のなさが嫌で、つまらない場所だと思ってました。結婚して四国に住み、滅多に帰省することもないのですが、たまに帰るとあのできかけの中途半端感がいっぱいだった千里が時間の経過とともに落ち着いた雰囲気になって、以前ほどの無機質な冷たい感じを受けなくなっていることに驚きます。自分が年齢を重ねたせいもあるのでしょうが、町というものも生き物のように成長するというか、古びて変化があるものなのだなあと思います(新千里西町にお住まいだった女性より)。

津雲台のC団地の3LDKで、生まれてから中学2年まで育ちました。昭和40年生まれです。当時としては、もっとも大きいタイプの団地だったと思います。最初から、お風呂は併設されていました。夏には、残り湯が冷めたものを、プール代わりの水風呂にして遊んでいたのを覚えています。
なにより、近所には、同じ年頃の子供が多く住み、同じレイアウトで、勝手のわかったお互いの家を行き来して遊んだり、家からすぐのところにある公園(大きいお砂場、小さいお砂場などの愛称で呼んでいた)で遊んだり、家の前の夾竹桃を秘密基地にみたてて遊んだのも、よい思い出です。千里ニュータウンは、いつまでたっても、わたしのふるさとです。津雲台の団地を出てからも、ニュータウン周辺の大きな分譲マンションに移ったので、大学生のころは、南千里駅周辺でアルバイトをしていました。ニュータウンに育ったことは、とても幸せだったと思います。現在の様子は、報道される内容の範囲でしか理解していませんが、わたしが住んでいた当時は、明るく、活気があり、若い親たちが一生懸命働く後姿を見ながら、子供時代を過ごしました。日曜日には、ハイキング感覚で、千里中央公園まで、家族で歩いていき、キャッチボールをしたり、春にはつくしも採りました。今は、日本を離れ、アメリカに在住しますが、いつかまた、南千里から自宅のあった団地までをゆっくり歩いてみたいと願っています(津雲台にお住まいだった女性より)。

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ウェルカムパック事業

集合住宅の建替えに伴い、近年では千里ニュータウンに転居する方が増えています。また、我が国で最初のニュータウンである千里の都市計画やまちづくり、住民活動を見学に来る方も増えています。このような方に向けて生活情報をパッケージしたものが千里ウェルカムパックで、店舗の情報、住民活動の紹介、公的機関・公共施設の情報、千里ニュータウンの地図などによって構成されています。
現在、豊中市エリアの千里ニュータウンに引越して来られた方を対象として(1年に約3,000世帯が入居)、千里文化センター・コラボ内の豊中市出張所にて配布しています。

「大きな本」プロジェクト

「ディスカバー千里」プロジェクトは、「いにしえ街歩き東町昔遊びツアー」と名づけられたユニークな街歩きツアーという、当初予想していなかった方向に展開していきました。新千里東町では、2001年から、小学生の子どもを持つ父親たちの集まりである「東丘ダディーズクラブ」が活動を行なっています。ディスカバー千里の活動の一環として、「東丘ダディーズクラブ」のメンバーに子ども時代の遊びについてインタビューを行いました。インタビューを進める中で、自分たちがかつて経験した遊びを、今の子どもたちにも体験して欲しいと話が盛り上がり、2011年11月20日に街歩きツアーが実現されることとなりました。子どもたちに昔の遊びや暮らしを伝えるため、子どもの服装に扮した「東丘ダディーズクラブ」メンバーが、ビー弾や缶蹴り等の昔遊びを教えたり、忘れ物を集合住宅から投げ渡すシーンを再現したりと、子どもも大人も楽しめるツアーを行ないました。
「大きな本」は「いにしえ街歩き東町昔遊びツアー」のために制作されたもので、幅1,260mm、高さ1,800mmの大きさのページに新千里東町の地図、昔の写真、インタビューで収集したエピソードなどを掲載し、街歩きツアーのいくつかのポイントで「大きな本」を使って地域の情報や歴史を紹介しました。
2012年、「千里グッズの会+大阪大学建築・都市計画論領域」による「大きな本」のプロジェクトが、「おおさかカンヴァス2012」の作品に選出されたため、千里ニュータウンの計画理念、おすすめの街歩きコース、子どもの遊び場の変化、昔の写真など、これまでの活動を通じて収集してきた情報や歴史を掲載した8冊の大きな本を制作し、これを用いてワークショップやツアーを行ないました。
以降も、「大きな本」を用いたワークショップを行ったり、「大きな本」をイベント会場で展示したりしています。

「大きな本」はその大きさから、みなで覗き込めるため居合わせた人と会話を始めるきっかけになったり、街に置くことで風景を変える力があり、いつもは見過ごす風景に目をとめるきっかけになるなどの意味があると考えています。

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千里ニュータウンウォーク・ガイド:「千里ニュータウン計画」の思想を巡る

千里ニュータウンは、大阪府と多くの専門家が総力をあげて取り組み、新しい理論と提案に基づいて建設された先進的・総合的な「実験都市」として誕生しましたが、まちびらきから50年をむかえ、現在、千里ニュータウンの何を継承し、何を変えていくべきかを考える時期になっています。
そこで、このガイドブックでは近隣住区論、住区と分区、学校システム、集合住宅の住棟配置など、千里ニュータウンがどのような考えにもとづいて計画されたのかを紹介し、実際にこれらに触れることができる3つのコースを紹介しています。
ガイドブックは2012年に発行し、「ひがしまち街角広場」や千里のイベント会場にて販売しています。

はじめに:
戦後の高度経済成長期、多くの人々が地方から都市へと集まってくることで、都市では住宅需要が増大し、既成市街地周辺は十分な基盤整備がなされないままスプロール的に開発されていきました。このような状況に対応して、良好な住環境を備えた大量の住宅を供給するために計画・開発されたのが千里ニュータウンです。
千里は大阪都心から北に約15km、吹田市と豊中市にまたがる千里丘陵地に計画・開発された日本で最初の大規模ニュータウンです。1958(S33)年に大阪府の施策としての開発が決定し、1961(S36)年に起工、万国博覧会(大阪万博)が開催された1970(S45)年に事業が終了しました。わずか10年足らずの期間に北大阪の副都心としての機能も併せもつ面積1,160ha(吹田市域791ha、豊中市域369ha)、計画人口15万人、計画住戸数3万戸(後に3万7330戸)の住宅都市を建設したこと自体が偉業だといえますが、千里ニュータウンには、大阪府と多くの専門家が総力をあげて取り組み、新しい理論と提案に基づいて建設された先進的・総合的な「実験都市」という側面もあります。
千里ニュータウンは1962(S37)年から入居が始まり、2012(H24)年にまちびらき50年を迎えました。人工的に作られたこの街も、既に半世紀の歴史が蓄積されています。そして、集合住宅やセンター地区の建物の建替えによって、住環境・景観が大きく変わりつつある今、千里ニュータウンがどのような思想で計画されたかを振り返り、それらの何を継承し、何を変えていくべきかを考える時期になっているといえます。
このガイドブックでは南千里、北千里、千里中央をスタート・ゴール地点とする街歩きコースを3つ紹介しています。是非、ガイドブックを手に、実際に街を歩いて、千里ニュータウン計画の思想に触れてみてください。このガイドブックが、これからの千里ニュータウンのあり方を考えるための一助となれば幸いです。

イベントの企画・協力

2006年4月22日から6月4日まで、吹田市立博物館で開催された春季特別展「千里ニュータウン展-ひと・まち・くらし-」、同年9月1日から9月22日に千里公民館で開催された「千里ニュータウン展@せんちゅう」、2013年9月10日〜11月10日:千里ニュータウン情報館開館1周年記念企画展「51年目のまちづくり〜千里ニュータウンで今、始まっていること〜」への企画・協力したり、まち歩きやワークショップを主催・協力するなどの活動も行っています。

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※千里グッズの会の活動年表はこちらをご覧ください。