『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

場所を作りあげるプロセスへの関わりと場所の主(あるじ)@Ibashoフィリピン

フィリピン・オルモック市のバゴング・ブハイ地区(Barangay Bagong Buhay)で活動するIbashoフィリピンでは、現在、拠点となる建物の建設が進められています。2019年7月に訪問した時、Ibashoフィリピンの男性メンバーであるBさんが、拠点の前や近くに座っておられるのを見かけました。ワークショップやミーティングが行われる日だけでなく、ワークショップやミーティングのない日にも座っておられました。

拠点の前や近くに座って、Ibashoフィリピンのメンバーや同世代の人と話をしたり、小さな子どもに声をかけたり、拠点の表の屋根付きのコートで行われているバスケットボールやバレーボールの様子を眺めたりしているBさん。
Ibashoフィリピンの他のメンバーのからは、Bさんは毎日、拠点となる建物にやって来られていると伺いました。

調理を担当したり、ワークショップやミーティングが終わった後は最後まで残って、後片付け、戸締りをしたりされているのも見かけました。

場所に目を配り、管理し、やって来た人に対応するBさんは、場所の主(あるじ)と呼べる存在になっていると思いました。


バゴング・ブハイ地区に初めて訪れたのが2014年4月。その後、定期的に訪問してきましたが、当初、Bさんはワークショップやミーティングに参加されていなかったと思います(当時の写真を見返してもBさんの姿は写っていません)。

Bさんを最初に認識したのは、2017年のフィーディング・センターの改修の時。元々、大工だったというBさんは、その後、2017年9月下旬~10月上旬の2つ目の農園への小屋の建設、2018年6月から始めた掲示板作り、そして、2018年9月から始まる拠点の建設というように、Ibashoプロジェクトで大きな役割を担ってこられました。

拠点の建設はフィリピン軍・第802歩兵旅団が地域貢献として建設作業を担当しましたが、Bさんは建設作業にほぼ毎日顔を出し、作業の監督をしたり、手伝ったりしている人もいたということです。Bさんがジュースを差し入れている光景も見かけました。
フィリピン軍・第802歩兵旅団の協力で躯体(床、壁、柱、梁、天井など)が完成した後、BさんらIbashoフィリピンのメンバーは窓格子やシャッターを設置したり、扉にペンキを塗装したり、電気の配線をしたりと、拠点を徐々に作りあげてきました。


Bさんの姿からはいくつかのことに気づかされます。

高齢者でも地域で役割を担えること。これは、ワシントンDCのIbashoが掲げる8理念で掲げられていることですが、Bさんは現役時代の経験をいかしながら大きな役割を担っておられます。

そして、役割を担うことを通して、自らの居場所が生まれること。近年、日本で行われている居場所やサロンでは、お茶を飲みに集まるのは女性が多く、どうやって男性に参加してもらうかが課題とされています。
こうした状況に対して、Bさんは場所を作りあげるプロセスに関わることで、中心的なメンバーの1人となっています。Bさんの姿は、元々建設関係の仕事についていた居場所ハウスのKさん、元大工であるIbashoネパールのMさんの姿にも重なります。Ibashoプロジェクトでは具体的な場所を作りあげることもプロジェクトの一環と位置づけていますが、場所を作りあげるプロセスへの関わりは、役割を担う機会を生み出し、結果としてそこが居場所になっていく。居場所とは誰かに与えられるものではなく、自分にできる役割を担うことで生まれてくるものであることに気づかされます。

毎日やって来るBさんの姿からは、自分たちで作りあげた場所だからこそ、大切にしたいという意識が生まれることがわかります。
どんなに立派な建物であっても、地域の人々に大切にされなければいずれ使われなくなる。それに対して、ささやかな建物でも地域の人々が作りあげ、大切にされる建物であれば、いつまでも丁寧に使われ続けるのだと思います。


  • 記事中に掲載した農園に小屋を建設している写真は、コーディネーターのIさんが撮影したものです。