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道路をレストランの屋外席にするストリータリー(Streetery):新型コロナウイルス感染症への対応として

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で大きく変わったことの1つが、レストランやバー、カフェでの食事の仕方です。感染防止のためレストランやバー、カフェはテイクアウト、配達、ドライブスルーのみの営業に制限されていました。その後、社会を再開する動きが進み、屋外席での飲食が可能とされました。

これに伴い、アメリカの各地でストリータリー(Streetery)という空間が出現しています。これは、車両通行止めにした道路にテーブル・椅子を並べることで、レストランやバー、カフェの屋外席にするというもの。
ストリータリーは、ストリート(Street)と、飲食店を意味するイータリー(Eatery)を組み合わせた造語だと思われます。ここで紹介するメリーランド州のベセスダ(Bethesda)では「Streetery」と表記されていますが、他に「Streatery」と表記される場合もあるようです。

ベセスダ・ストリータリー

アメリカ東海岸のメリーランド州では、新型コロナウイルス感染症の感染防止のため、2020年3月16日にレストランとバーは閉鎖が義務付けられ、テイクアウト、配達、ドライブスルーのみの営業とされました。その後、社会を再開する動きが進み、約2ヶ月半後の2020年5月29日から屋外席での食事が再開となりました。

これに伴い、モンゴメリー郡(Montgomery County)のベセスダでは2020年6月10日から、ベセスダ・アーバン・パートナーシップ(BUP:Bethesda Urban Partner)が*1)、郡の交通局(Montgomery County’s Department of Transportation)と連携して、ベセスダ・ストリータリーを始めています。

ベセスダ・アーバン・パートナーシップ(BUP)のウェブサイトでは、ベセスダ・ストリータリー(Bethesda Streetery)が次のように説明されています。

ベセスダ・ストリータリー
ベセスダのダウンタウンの屋外に、レストランの席を追加するダイニングのコンセプト。「ベセスダ・ストリータリー」は、全てのテーブルが少なくとも6フィート離して配置され、1テーブルあたりの人数が4人に制限されたオープンな座席(open seating)として設置されています。レストランの利用者は、地元ベセスダのレストランで飲食物を受け取った後、この屋外エリア内で食事をすることができます。テーブルは利用されるたびに清掃されます。」
※Bethesda Urban Partnerの「Bethesda Streetery」のページの翻訳。

ベセスダ・ストリータリーは、毎日11時から22時まで、以下のノーフォーク・アベニュー(Norfolk Ave)とウッドモント・アベニュー(Woodmont Ave)を中心に開かれています。

  • ノーフォーク・アベニュー(Norfolk Ave):セント・エルモ・アベニュー(St. Elmo Ave)とコーデル・アベニュー(Cordell Ave)の間
  • ノーフォーク・アベニュー(Norfolk Ave):コーデル・アベニュー(Cordell Ave)とデル・レイ・アベニュー(Del Ray Ave)の間
  • ウッドモント・アベニュー(Woodmont Ave):エルム・ストリート(Elm St)とベセスダ・アベニュー(Bethesda Ave)の間
  • ベテランズ・パーク(Veterans Park):ノーフォーク・アベニュー(Norfolk Ave)とウッドモント・アベニュー(Woodmont Ave)の交差点
  • コーデル・アベニュー(Cordell Ave):オールド・ジョージタウン・ロード(Old Georgetown Rd)近くの駐車場とトライアングル・タワーズ(Triangle Towers)の間(コーデル・アベニュー(Cordell Ave)のストリータリーは水曜から日曜の16時から22時までオープン)

  • 1)ベセスダ・アーバン・パートナーシップ(BUP)は、ダウンタウンのビジネスと住民が繁栄・成長できる環境の実現を目指し、1994年にモンゴメリー郡によって設立。35人以上のスタッフがおり、マーケティング、メンテナンス、交通、文化的なイベントやコミュニティのお祭りの運営などを行う組織。Bethesda Urban Partnerの「About BUP」のページより。

ベセスダ・ストリータリーの様子

2020年6月27日(土)の夕方、ベセスダ・ストリータリーを訪れました。

ストリータリーに設定されている道路の両端は、車両通行止めにするためオレンジ色のバリケードが設置。ただし、自転車は通行が許可されているようでした。

ストリータリーには、次のようなルールが書かれた掲示が設置。

  • ストリータリー、ベセスダのレストラン客のみが利用できます。
  • テーブルは、利用後に消毒しています。
  • テーブルや椅子の移動は固く禁じられています。
  • テーブルは同じ位置に置かれ、椅子は元のテーブルの位置に固定されます。テーブルは、全ての顧客の安全のため、適切なスペースを確保しています。
  • 1テーブルあたりの利用は最大4人です。
  • 入退場時を除いて、着席してください。
  • 飲食をしない時はマスクを着用してください。
  • 食後にゴミを捨ててください。
  • 共有スペースを尊重し、ここに居たいと思う人が利用できるようにしてください。テーブルを90分以上占有しないでください。

ストリータリーの両端には、アルコールをストリータリー外に持ち出さないように注意する掲示も設置されています。

激しい夕立があがったばかりだったため、ストリータリーのテーブルには空席が目立ちましたが、ビールを飲んでいる人、子どもを連れた家族、1人で座っている人などを見かけました。
ストリータリーのテーブルは、道路に面して営業されているレストランの共有ですが、ウッドモント・アベニューのストリータリーではテーブルを柵で囲、すぐ前にあるレストラン専用のテーブルになっている部分も。テントが設置されているエリアもありました。

ストリータリーのテーブルは、利用ごとに消毒されています。ストリータリーはレストランの店員ではなく、ベセスダ・アーバン・パートナーシップ(BUP)のスタッフと思われる赤いTシャツを着た人がテーブルを拭いているのを見かけました。

ストリータリー以外の屋外席

ベセスダでは、ストリータリー以外にも、歩道にテーブルを置いて屋外席としているレストランやカフェを見かけました。

新型コロナウイルス感染症はまだ完全に収束したわけではありませんが、ベセスダで目にした光景からは、暮らしを再開する動きが進んでいることを感じました。ただし、このことは街が元通りになるわけでなく、車両通行止めにして屋外席を設けるストリータリーは、新型コロナウイルス感染症の思わぬ結果としてもたらされたかもしれませんが、街に新たな魅力を生み出しているように感じました。
ストリータリーが、新型コロナウイルス感染症が収束するための過渡的なものに終わるのか、収束後も街の風景として定着していくのかに注目したいと思います。

(更新:2021年9月5日)