『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

アメリカ東海岸における最近の郊外コミュニティの開発

アメリカの典型的な郊外住宅地の光景といえば、写真のような低層の住宅が建ち並ぶ光景。例えば、メリーランド州のグリーンベルト(1937年から入居)、ニューヨーク州のレヴィットタウン(1947年から入居)はこのような光景が見られます。

その後、ニューアーバニズムの思想に基づく郊外住宅地が開発されます。その代表的なメリーランド州のケントランズ(1991年から入居)ではアパート、コテージ、タウンハウス、戸建住宅など多様な住宅が混合して建設されており光景がやや異なります。

そして、最近の郊外のコミュニティ開発では、ケントランズに比べるともう少し高密・高層の開発になっている印象を受けます。ここでは、アメリカ東海岸メリーランド州における最近の郊外コミュニティの開発をいくつかご紹介したいと思います。

パイク・アンド・ローズ(Pike & Rose)

メリーランド州モンゴメリー郡(Montgomery County)に開発されたコミュニティ。ワシントンメトロのホワイト・フリント(White Flint)駅のすぐ北に位置しています。

パイク・アンド・ローズは、2018年、LEED近隣開発・ステージ3・ゴールド(LEED Neighborhood Development Stage 3 Gold)の認証を取得。この時点では、LEED近隣開発・ステージ3の認証を受けたのは、アメリカで10件、世界で18件しかありませんでした*1)。

ウェブサイトでは、パイク・アンド・ローズが次のように紹介されています。

「ワシントンDCの近郊では、新たに交通の便を重視した都市型近隣(transit-oriented urban neighborhood)が複数のフェーズを経て誕生しており、老朽化した小売店のパワーセンター〔※大型のディスカウントショップを集めたショッピングセンター〕を徒歩や自転車で移動できるコミュニティに変えています。5億ドルを投じたこの複合用途の開発(mixed-use development)のフェーズ1では、集合住宅と19階建てのタワーの1階、オフィス、最新式の映画館、ヘルスクラブ、駐車場などが入ったビルの複数のフロアに設置された店舗の面積は16万平方フィート〔※約1.5ha〕になります。フェーズ2ではさらに18万平方フィート〔※約1.6ha〕の小売店に加えて、ホテルと住宅が建設される予定です。
・・・・・・。第1期工事は2015年秋に完成しました。第2期工事は完成間近で、最近ではREI、Pinstripes、H&Mがオープンしました。」
※DMA「PIKE & ROSE」のページより。

パイク・アンド・ローズで興味深いのは、「ザ・ファーム・アット・パイク・アンド・ローズ」(The Farm at Pike & Rose)と呼ばれる17,000平方フィート〔※約1,600m2〕の屋上農園。Up Top Acesという団体とのパートナーシップで農作業が行われており、近隣のレストランに収穫した野菜を提供するのに加えて、ファーム・メンバーシップ(Farm Membership)の登録者に毎週、野菜を提供するというプログラムも行われています*2)。
メンバーシップは120ドルで、2人分の6~7種類の野菜を4週間にわたって受け取ることができるというもの例えば、次のような野菜があげられています。

  • 6月:ケール、ラディッシュ、キュウリ、キャベツ、ネギ、バジル、タイム
  • 8月:トマト、フダンソウ(chard)、獅子唐辛子、玉ネギ、ニンジン、パセリ、ミント
  • 10月:ペッパー、玉ネギ、ナス、ニンジン、ラディッシュ、ローズマリー、豆苗

野菜はUp Top Acesのトートバックに入れられており、毎週レシピが掲載されたメールも届くということです*3)。

パイク・アンド・ローズは東をロックビル・パイク(Rockville Pile)、南をオールド・ジョージタウン・ロード(Old Georgetown Rd)、北をモントローズ・パークウェイ(Montrose Pkwy)、西をタウン・ロード(Towne Rd)に囲まれた台形のかたちをしており、コミュニティの中を南北グランド・パーク・アベニュー(Grand Park Ave)、トレード・ストリート(Trade St)が、東西にローズ・アベニュー(Rose Ave)、プローズ・ストリート(Prose St)が走っています。

1階にはレストラン、カフェ、小売店が並んでいます。

歩道が広く取られており、所々にベンチが置かれています。レ新型コロナウイルス感染症への対応として、ストランやカフェの前の歩道は屋外席として確保されているところがあります。

感染防止の対策として、カーブサイド・ピックアップ(Curbside Pickup)も行われています。カーブサイドとは縁石(curb side)の意味。カーブサイド・ピックアップとは、事前に商品を注文し、近くに到着した時に店に連絡すれば、店員が車まで商品を運んできてくれるという仕組み。
パイク・アンド・ローズでは黄色とピンクで塗られた縁石が、カーブサイド・ピックアップのための駐車スペースとして確保されています。縁石には「the pick-up.」と書かれており、近くには縁石の番号が書かれた看板が設置されています。

芝生のあるローズ・パーク(Rose Park)。広場の所々にテーブル・ベンチが置かれています。
公園に面していくつかのレストランがあり、レストラン前の空間は屋外席となっています。

奥に見える青い建物はバーク・ソーシャル(Bark Social)。アメリカ東海岸で初となるドッグバーとして2021年2月にオープン。単なるドッグパークではなく、クラフトビール、コーヒーが飲めるほか、犬のためのお菓子を備えたバー(dog treat bar)、ブティック(dog boutique)、シャワー(dog washing stations)なども備え付けられているということです*4)。

バーク・ソーシャルの隣の駐車場では、4月下旬から11月下旬まで、毎週土曜の9時~11時半に、約30のベンダーが出店するファーマーズ・マーケット(Pike Central Farm Market)が開催されています*5)。

パーク・ポトマック(Park Potomac)

メリーランド州モンゴメリー郡(Montgomery County)に開発されたコミュニティ。すぐ東側には州間高速道路270号線(I-270)が走り、西側にはポトマック・ウッズ・パーク(Potomac Woods Park)があります。近くに鉄道駅はありませんが、メトロのホワイト・フリント(White Flint)駅まで無料のシャトルバスが運行*6)。

パーク・ポトマックは、『ベセスダ・マガジン』(Bethesda Magazine)の投票で、2013年のベスト・コミュニティに選ばれるなど*7)、人気のある郊外のコミュニティになっています。

不動産会社のウェブサイトには、パーク・ポトマックが次のように紹介されています。

「パーク・ポトマックは複合用途のコミュニティ(mixed-use community)で、モンゴメリー郡の中心部、州間高速道路270号線(I-270)のモントローズ・ロード(Montrose Road)出口すぐのところに位置しています。「ワールドクラスのアーバン・ビレッジ」(world-class urban village)と称され、住むためにも、働くためにも、遊ぶためにも人気の高い場所となっています。贅沢な住宅に加えて、Aクラスのオフィススペース、高級レストラン、ブティック・ショッピングなどが一体となったスタイリッシュな空間。この計画コミュニティ(planned community)は、高層のコンドミニアムとブラウンストーンのタウンホームから構成されています。小売店、グルメな食料品店、57万平方フィートの商業オフィスがあり、スパやホテルも計画されています。

この美しいコミュニティが、DCメトロエリアにおける住みやすい場所としての地位を確立したのは特に州間高速道路270号線(I-270)と州間高速道路495号線(I-495、キャピタル・ベルトウェイ)へのアクセスが容易であることを考えれば驚くことではありません。車で5~10分の距離には、トレイル、球場、子ども用の遊び場(tot lots)などを備えたキャビン・ジョン・パーク(Cabin John Park)、ポトマック・ウッズ・パーク(Potomac Woods Park)、フォールズ・ロード・パーク(Falls Road Park)など、近くには多くの公園があります。ライフタイム・フィットネス・ジム(Lifetime Fitness Gym)はコミュニティから歩いてすぐのところにあります。素晴らしい料理を提供するクライデス・タワー・オークス・ロッジ(Clydes Tower Oaks Lodge)もすぐ近くにあります。

パーク・ポトマックの住民は、モンゴメリー郡の素晴らしい公立学校にも通うことができます。リッチー・パーク小学校(Ritchie Park Elementary)、ジュリウス・ウェスト中学校(Julius West Middle)、リチャード・モンゴメリー高校(Richard Montgomery High School)は全て高い評価を受けています。リチャード・モンゴメリー高校には郡内でもトップクラスの国際バカロレアプログラムがあり、ニューズウィーク誌による全米トップ・スクールのリストに過去数年にわたってランクインしています。」
※Legendary Homes「PARK POTOMAC IN POTOMAC, MD」のページより。

パーク・ポトマックの骨格は、T字型に交差するパーク・ポトアック・アベニュー(Park Potomac Ave)とキャドベリー・アベニュー(Cadbury Ave)という2つの通りによって形成されています。
パーク・ポトアック・アベニューには南北に2つのラウンドアバウトがあり、通り沿いには高層のコンドミニアムが建ち並んでいます。1階部分は店舗。南側のランドアバウトに面した建物には「Welcome PARK PTOMAC」と書かれた壁画。

キャドベリー・アベニューの周りはタウンホームが並んでいます。

パーク・ポトアック・アベニューとキャドベリー・アベニューがT字に交差する部分がコミュニティの中心部で、東側に大きな広場。広場を囲むように飲食店、店舗、オフィスが建ち並んでいます。

広場に面したレストラン。新型コロナウイルス感染症への対応として、歩道部分が屋外席として利用されています。

パーク・ポトアック・アベニューの北側のラウンドアバウト。こちらは、店舗の裏側に面しているため、裏側の入口という印象を受けますが、こちらにも「Welcome to PARC POTOMAC」の文字が記載。

北側のラウンドアバウトの北側には不動産会社のウェブサイトでも紹介されているライフタイム・フィットネス・ジム、西側には飲食店、店舗が集まるエリアがあります。

スペクトラム(Spectrum)

メリーランド州モンゴメリー郡(Montgomery County)で開発中のコミュニティ。フレドリック・アベニュー(Frederick Ave)とワトキンス・ミル・ロード(Watkins Mill Rd)という2つの大きな通りの交差点のすぐ西側に位置しています。ワトキンス・ミル・ロードの南側には、カイザーパーマネンテ・ゲイザースバーグ・メディカルセンター(Kaiser Permanente Gaithersburg Medical Center)の病院*8)、ハンプトン・インのホテル(Hampton Inn & Suites Washington DC North/Gaithersburg)があります。近くに鉄道駅はありません。

スペクトラムのウェブサイトでは、次のような紹介がされています。

「この複合用途のコミュニティ(mixed-use community)では、高級マンションから徒歩圏内にレストランや様々な店舗があります。スペクトラムの中心にあるパフォーマーズ・パーク(Performers Park)には、迷宮のようなスプラッシュパッドのある噴水、音楽演奏やコミュニティのイベントのためのステージがあります。スペクトラムは、ゲイザースバーグが提供する最高のものを常に見つけることができる、家庭や仕事から離れた隠れ家のような体験を提供します。コミュニティは、7エーカーの自然保護区に近接しており、徒歩圏内にはグレート・セネカ・パーク(Great Seneca Park)もあります。

このプロジェクトは、ワトキンス・ミル・ロードとMDルート355〔※フレドリック・アベニュー〕の交差点に位置しています。ワトキンス・ミル・ロードを通ってアクセスできる新しい12番出口からは、州間高速道路270号線(I-270)やバイオテック・コリドール(Biotech corridor)、さらには、最新の住宅地(town home development)であるパークランズ(Parklands)*9)に直接アクセスすることができます。・・・・・・」
※Spectrum「COMMUNITY」のページより。

「ワシントンDC郊外にあるヘンリー・インベストメント・パートナーズ(Henry Investment Partners)は、高品質の集合住宅や複合利用の建物(high quality multi-family residential and mixed-use properties)に特化した商業不動産開発会社です。
・・・・・・
ヘンリー・インベストメント・パートナーズは、パブリックおよびプライベートの重要な目標に向けたコラボレーションを通じて、より強いコミュニティを築くことを強く支持しています。そのためには、交通機関、公園、オープンスペース、柔軟性のあるストリートスケープなどをプロジェクトに組み込むことで、環境を整え、安定した税収を確保することが必要です。当社のプロジェクトの多くは、既存または計画中の交通施設から1マイル〔※約1.6km〕以内の場所にあり、多くの移動に自動車を必要としないところに、密度とサービスを集中させることができます。」
※Spectrum「MANAGEMENTY」のページより。

ワトキンス・ミル・ロードの向こうに見えるスペクトラム。

スペクトラムは現在開発が進められており、パラマウント・パーク・ドライブ(Paramount Park Dr)とスペクトラム・アベニュー(Spectrum Ave)が十時に交差する付近が完成しています。

2つの通りの交差点の西側に位置するのが、コミュニティの中心となるパフォーマーズ・パーク。ウェブサイトで紹介されているステージ、噴水、そして、芝生の広場があります。パフォーマーズ・パークを囲む建物の1階にはレストランやカフェが入っており、店の前は新型コロナウイルス感染症への対応として屋外席として確保されています。

パラマウント・パーク・ドライブ沿いの集合住宅の1階も店舗になっています。歩道は広く作られており、歩道の店の前も新型コロナウイルス感染症への対応として屋外席がもうけられています。

スペクトラム・アベニューの両側にも集合住宅が建設されています。


紹介したのは限られた事例に過ぎず、また、きちんと調査をしたわけでない印象に過ぎませんが、最近の郊外コミュニティの開発には次のような特徴があるように感じました。

いずれのコミュニティも複合用途(Mixed-Use)という表現を用いて紹介されているように、住宅ばかりが建設されているわけではありません。住宅に加えて、商業施設、オフィスなどが複合した開発になっていること。これは、ニューアーバニズムの原則の1つであり、ニューアーバニズムの考え方が影響を与えていると言えそうです。
用途の混合の方法としては、中高層の集合住宅の1階部分に商業施設にすることがいずれのコミュニティにも共通しています。

ただし、いずれのコミュニティも小規模であり、その中に教育施設、病院などの施設や公園があるわけではなく、コミュニティの中だけで暮らしを完結させることは難しい。
住宅ばかりが建設されているわけでないため住宅地と表現するのも適切ではありませんが、街や都市と呼ぶのも適切でないように感じます。このような開発を上手く表現できる日本語は思い浮かびませんが、ウェブサイトで「planned community」、「mixed-use community」という表現が用いられているため、この記事ではコミュニティと表記しています。

3つのコミュニティには、歩道がゆったり取られていること、中心部に広場が設けられていることも共通しています。歩道や広場は、新型コロナウイルス感染症への対応としてレストランの屋外席として活用できる空間となっています。

このようなコミュニティがどのように評価されているかに関しては、不動産会社のウェブサイトには交通アクセス、施設の充実度、公園、教育環境があげられています。交通アクセスについては、日本では鉄道駅からの距離が重視されるのに対して、高速道路へのアクセスが重視されているという違いはあるものの、不動産としての評価のされ方は日本とアメリカで大きな違いは見られないと言えそうです。


■注

(更新:2021年9月21日)