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メリーランド州モンゴメリー郡のシェアード・ストリート(Shared Streets):新型コロナウイルス感染症への対応としての道路の活用

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は飛沫感染するとされていることから、感染防止のためには、特に人々が密集する屋内の場所を避ける必要があると言われています。日本でも、飲食店や各種小売店、図書館や美術館、劇場などの施設が休業・閉鎖された時期もありました。休業・閉鎖は解除されつつありますが、座席数を減らすことで人数制限をしたり、滞在時間が短くなるようにしている店舗や施設もあります。
屋内での活動が制限される状況において、注目されたのが道路です。新型コロナウイルス感染症の拡大によって、これまで車が通過したり、車を駐車したりする空間であった道路を、様々な活動のための場所にすることが試みられるようになりました。これによって、今までにない光景が生まれています。

こうした試みの1つとして、ここではアメリカ東海岸メリーランド州のモンゴメリー郡交通局(MCDOT:Montgomery County Department of Transportation)のシェアード・ストリート(Shared Streets)というプログラムを紹介したいと思います。

シェアード・ストリート(Shared Streets)

メリーランド州では、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、2020年3月30日に自宅待機命令(Stay-at-Home Order)が発令されました。これにより、レストランとバーはテイクアウトやドライブスルーのみ営業が許可されました。劇場、閉鎖型のモール、ボーリング場やビリヤード場などのレクリエーション施設は閉鎖とされました。

2020年5月15日、自宅待機命令が解除され、再開ステージ1に移行。この時点で小売施設は最大収容人数の50%を上限として営業再開が許可されましたが、レストランとバーは引き続きテイクアウトやドライブスルーのみ運営が許可され、劇場、閉鎖型のモール、レクリエーション施設の閉鎖の措置は継続されました。
そして、2020年5月29日からはレストランとバーでの屋外ダイニング(屋外での食事)が再開可能となりました*1)。

シェアード・ストリート

モンゴメリー郡交通局(MCDOT:Montgomery County Department of Transportation)によるシェアード・ストリートは、郡が再開ステージ1に入るにあたり開始されたプログラム*2)。モンゴメリー郡が管理する道路や歩道を屋外ダイニングやウォーキングのための場所にするもので、ベセスダ(ベセスダ)のストリータリー(Streetery)も、シェアード・ストリートの1つの取り組みです。

(ベセスダ・ストリータリー)

モンゴメリー郡交通局(MCDOT)のページには、シェアード・ストリートが次のように説明されています。

□シェアード・ストリートの取り組みとは何ですか?
モンゴメリー郡交通局(MCDOT)は、郡が管理する歩道、道路、路上駐車場(on-street parking)、パーキングロット(parking lot)の既存の用途を一時的に変更し、安全で、社会的距離が確保できる(social distanced)活動を可能にするより多くの空間を提供します。

□シェアード・ストリートの目標は何ですか?

  • 今日のニーズを最も満たすために、パブリックスペースの用途を一時的に変更することをサポートする。
  • 安全性とアクセスを維持する。
  • 軍全体で、公平なアプローチを取り、機会を提供する。
  • ソーシャル・ディスタンシングの要件を維持するための空間を提供しながら、経済的な回復をサポートする。
  • メリーランド州高速道路管理局(Maryland State Highway Administration)が同様の目標を州道に適用することをサポートする。

□モンゴメリー郡交通局はシェアード・ストリートをどのように実施していますか?
コミュニティや行政のパートナーと協力して、次のことを特定します。

  • 小売店でのピックアップ、屋外のレストランのスペース、許可された社会的な活動など、許可される活動のための優先的な場所。
  • 歩行者の量が多く、歩行者のスペースが限られている場所。
  • レクリエーションをサポートするために1車線以上を閉鎖したり、小売や飲食の活動のために路上駐車場を利用したり、フードホール活動のためにパーキングロットを開放したりするなどの変更をテストする。一部の道路は、車両の行き来を迂回させ(redirect)、フィジカル・ディスタンシング(物理的な距離)を確保するために、ローカルアクセスのみに指定されることがある。*3)

シェアード・ストリートの種類

モンゴメリー郡交通局のページには、シェアード・ストリートとして次のタイプが行われていると掲載されています*4)。

屋外席・店頭販売(Outdoor Seating and Curbside Retail)

「多くの地元のレストランや小売業は、サービスの再開と拡大に伴い、カーブサイドへのアクセスと屋外ダイニングのスペースに依存することになります。モンゴメリー郡交通局(MCDOT)は、地元の活動センターの代表者と協力して、経済的な回復をサポートすることが可能な場合、道路の閉鎖や車両の制限を促進しています。」*5)

□「カーブサイド・ピックアップ・ゾーン」(Curbside Pickup Zones)
レストランや小売店が、テイクアウト、カーブサイド・ピックアップ(事前に注文した商品を店頭で受け取る、カーブサイドは縁石の意味)、配達に対応するために駐車禁止のゾーンを設定。このゾーンでは30分以内の駐車のみ許可されれます。「カーブサイド・ピックアップ・ゾーン」は、パイク&ローズ(Pike & Rose)、シルバー・スプリング(Silver Spring)、ベセスダ(Bethesda)、ウィートン(Wheaton)の4地域に設定されています*6)。

□ベセスダのダウンタウンの「ベセスダ・ストリータリー」(Bethesda Streetery):2020年6月10日から開始。
□ウィートンの「ストリータリー」(Streetery):2020年6月19日から開始。
□シルバー・スプリングの「ストリートダイン」(Streetdine):2020年6月12日から開始。

路上ウォーキング・サイクリング(On-Street Walking and Biking)

「モンゴメリー郡交通局(MCDOT)は、特定の地元の道路を一時的な「近隣の緑道」(neighborhood greenway)に変え、車両を地元の交通のみに制限しながら、歩行者や自転車を歓迎しています。モンゴメリー郡交通局(MCDOT)の「シェアード・ストリート」プログラムの下で、この取り組みは、新型コロナウイルス感染症における健康危機の期間において、屋外活動とフィジカル・ディスタンシング(物理的な距離を確保すること)のためのより多くの近隣のスペースを提供することによって、短期的に住民をサポートしています。」*7)

□一時的な近隣の緑道(Temporary Neighborhood Greenways)
一時的な近隣の緑道は以下の地域で設定されています。
・Aspen Hill Temporary Neighborhood Greenway(シルバー・スプリング):2020年6月15日から開始。
・Greenwood Avenue Temporary Neighborhood Greenway(シルバー・スプリング):2020年8月28日から開始。
・Grove Street Temporary Neighborhood Greenway(シルバー・スプリング):2020年6月19日から開始。
・Kennebec Avenue Temporary Neighborhood Greenway(タコマパーク):2020年8月28日から開始。
・Sudbury Road Temporary Neighborhood Greenway(シルバー・スプリング):2020年8月28日から開始。
・Windham Lane Temporary Neighborhood Greenway(シルバー・スプリング):2020年8月28日から開始。
・Woodland Drive – Amherst Avenue (Woodland Drive North) Temporary Neighborhood Greenway(シルバー・スプリング):2020年10月23日から開始。
・Woodland Drive South Temporary Neighborhood Greenway(シルバー・スプリング):2020年10月23日から開始。

ピクニック・イン・ザ・パーク(Picnic in the Park)が行われているエイコーン・アーバン・パーク(Acorn Urban Park)を拡大するため、公園に隣接するNewell Streetが車両通行止めにされています。

「Montgomery County Parksと観光マーケティング会社のVisit Montgomeryが提携し、公園利用者が携帯端末でQRコードをスキャンすることで近くのレストランを見つけることができる新たな「ピクニック・イン・ザ・パーク」(Picnic in the Park)の取り組みを開始しました。9つの公園それぞれには、物理的に離れた(physically distanced)複数のピクニックエリアとともに、サインがついた特定の「デリバリー・ゾーン」(delivery zone)があります。」*8)

シェアード・ストリート・ブロックの申請(Shared Streets Block Permit)

モンゴメリー郡では、全住民が、自らが居住しているブロックの道路において、小さなバージョンのシェアード・ストリートを行うことを申請できるようになっています。申請が受理されれば、申請された道路が車両通行止めとされます。
申請は、以下の情報を入力してオンラインで行うことが可能になっています*9)。

  • 申請者の名前
  • 申請者が、シェアード・ストリート・ブロックを申請するブロックに住んでいるか(※申請者ブロックに住んでいる必要がある)
  • 申請者の所属(オプション)
  • 申請者の住所
  • 申請者の電話番号
  • 申請者のEメール
  • シェアード・ストリート・ブロックを実施する期間(※月〜木曜の4日間、金〜日曜の3日間のいずれかから選択。申請が受理された後、実施する日を決定する)
  • 閉鎖を申請する具体的な道路(※道路の名前、開始〜終了地点)
  • 備考

これまでに17の道路でこの取り組みが行われており、実施期間は、月〜木曜が7ヶ所、金〜日曜が10箇所となっていま*10)。


このように、モンゴメリー郡では新型コロナウイルス感染症への対応として、様々なかたちで道路が活用されていることがわかります。2020年10月23日にWoodland Drive Nort、Woodland Drive Southで一時的な近隣の緑道が開始されたことで、モンゴメリー郡においてシェアード・ストリートが行われている道路は延べ6.4マイル(≒10.3km)になったということです*11)。