グラフは日本とアメリカの新型コロナウイルス感染症の検査数の推移を示したものです*1)。1日の検査数の人口1,000人に対する値は、アメリカの場合、2020年末にかけて増加し、2020年末には6人近くになっています。新型コロナウイルス感染症が収束したという気運が高まったことから2021年7月上旬にかけて検査数は減少していきましたが、その後、感染が再拡大してきたことから2021年7月末には2.5人を超えるようになりました。これに対して、日本の場合は検査数は徐々に増加してますが、2021年に入ってからは0.5人前後を推移する状態が続いています。
こうした状況は延べ検査数のグラフにも現れており、アメリカは、延べ検査数の人口1,000人に対する値は、2021年2月半ばに1,000を突破しています。その後、2021年7月末には約1,500人になっています。これに対して日本は、2021年7月末で約140人。人口1,000人に対する値では約10倍の開きがあります。
新型コロナウイルス感染症はまだ収束していないため、日本とアメリカの対応のどちらが効果的だったのかという評価を現時点ですることはできませんが、PCR検査がなかなか受けることができない日本に比べると、アメリカの方針は明白です。つまり、無料で、事前予約をすることなく検査の機会を提供することで、無症状の人を含めて感染者を早期に発見するということです。
アメリカ東海岸のメリーランド州では、2021年7月末時点での延べ検査数は11,285,801人*2)。メリーランド州の人口が約600人であるため、人口の約1.8倍の検査数と、アメリカ全体を上回っています。
メリーランド州では、次のように検査体制が拡充されてきました。
メリーランド州では2020年3月17日という早い段階で、州内の全ての車両排気ガス検査場(VEIP=Vehicle Emissions Inspection Program)を活用して、ドライブスルー方式の検査場を設置することが発表されました。当初、検査のためには医師の検査指示書(order)と予約が必要とされていましたが、2020年5月22日からは複数の検査場で医師の検査指示書や予約なしでの検査が可能となり、これにより新型コロナウイルス感染症に暴露した可能性がある人でも検査を受けることが可能になりました。2020年5月22日からは薬局・ コンビニエンスストアのチェーンであるCVSでも医師の検査指示書が不要のドライブスルー検査を受けることが可能になりました。
さらに、検査場を開設して人々が検査に来るのを待つだけでなく、積極的に地域に出向いて検査を行う取り組みも行われています。その一例が、ここでご紹介する「Salud Y Bienester」による試みです。
「Salud Y Bienester」は、メリーランド州モンゴメリー郡のMarc Elrich行政官、Nancy Navarro議員、Gabriel Albornoz議員のオフィスが主催するもので、モンゴメリー郡のラティーノ・ヘルス・イニシアティブ(Latino Health Initiative)と、ラテン系のコミュニティに関わる7つのコミュニティ団体により立ち上げられた官民パートナーシップ。パンデミックの影響を直接的・間接的に受けているテン系のココミュニティ全体を支援するため、リソースを統合し、完全にスペイン語でサービスを提供しています*3)。
そのサービスの1つが、検査とワクチン接種の出張所で、1日に4〜6ヶ所のクリニック、ショッピング・モール、コミュニティ・センターなどに出張して、検査所・ワクチン接種の出張所を開設しています。
検査もワクチン接種も、無料、事前予約不要、先着順、健康保険不要、ビザなどのステータスを問わないとされています。
写真は、「Salud Y Bienester」がアヴァロン小学校(The Avalon School)の駐車場で開かれていた検査の出張所です。
検査を案内する看板。
写真右奥の、青いテントの隣の白いバスが検査所。
ここでご紹介したは一例ですが、こうした試みからは、新型コロナウイルス感染症の検査を容易に受けることができるようになっている状況が伺えます。
注
- 1)Our World in Dataの「Coronavirus (COVID-19) Testing」に掲載のデータより。日本は「検査をした人」を検査数とカウントしており、検査の種類はPCR検査のみである。一方、アメリカは「検査をした数」を検査数としており、検査数はPCRといくつかの血清検査が含まれる。このように、日本とアメリカとでは検査数の定義が異なることには注意が必要だが、両国で検査数が大きく異なることは明らかである。
- 2)ジョンズ ・ホプキンス大学(Johns Hopkins University)コロナウイルス・リソースセンター(Coronavirus Resource Center provides)がGitHub上に公開しているデータより。
- 3)「Salud Y Bienester」は「Health & Wellness」の意味。「Salud Y Bienester」についてはこちらのページを参照。なお、7つのコミュニティ団体はCare for your Health、Identity、THE GERMANTOWN HUB、CLINIC Protects Salud CLINIC、CASA (WE ARE CASA SOMOS CASA)、Mansfield Kaseman HEALTH CLINIC、Mary’s Centerである。