『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

シンガポールの最新のニュータウン:テンガ開発の光景(2025年9月)

シンガポールでは、国民の約8割がHDB(Housing and Development Board:住宅開発庁)が建設する住宅に住んでいます。
HDBが現在開発を進めている最新のニュータウンが、シンガポールの西部のテンガ(Tengah)。スマートテクノロジーの町全体への導入が計画された最初のHDBの町で、自然とコミュニティに焦点をあてた「自然と共にある家」(At Home with Nature)として*1)、約700haの土地に42,000戸の住宅が計画されています。

テンガには、プランテーション地区(Plantation District)、パーク地区(Park District)、ガーデン地区(Garden District)、ブリックランド地区(Brickland District)、フォレスト・ヒル地区(Forest Hill District)というユニークな特徴の5地区が計画。

  • プランテーション地区(Plantation District)
    コミュニティ農業(community farming)の拠点で、コミュニティ・ファームウェイ(Community Farmway)が地区を通り抜ける。オーガニック・マーケットや、穫れたての食材を味わえる「農場から食卓まで」のダイニング(“farm-to-table” dining)のような施設も設置される。
  • ガーデン地区(Garden District)
    テンガ池とセントラルパークに囲まれた地区。庭園をテーマにしたファームウェイ(garden-themed faraway)によって絵のように美しい環境が実現され、健康的で活動的な生活を行うことができる。
  • パーク地区(Park District)
    テンガの中心地で、緑豊かな景観と森の回廊(Forest Corridor)に囲まれている。地区の中心は、車の乗り入れが禁止された活気のある場所となる。
  • ブリックランド地区(Brickland District)
    レンガを生産していたテンガの工業地帯を思い起こさせるような、レンガ仕上げの建物が建設される。地区から森の回廊(Forest Corridor)の方面には視界を遮るものがなく、都市生活と自然との相乗効果を得ることができる。
  • フォレスト・ヒル地区(Forest Hill District)
    森の回廊(Forest Corridor)と緑地に囲まれており、タウン・センターの近くにありながら、「自然の中で暮らす」(living amidst nature)というコンセプトを体現する地区。

※HDBハブの展示パネル(2017年7月)に記載内容を翻訳したもの。

(左がプランテーション地区、右がガーデン地区)

(左がパーク地区、右がプランテーション地区)

プランテーション地区

2023年8月、プランテーション地区の入居が始まりました*2)。2024年6月28日には、テンガ最初の近隣センター(Neighbourhood Centre)として、プランテーション地区のプランテーション・プラザ(Plantation Plaza)がオープン*3)。2025年3月22日には、テンガ・コミュニティ・クラブ(Tengah Community Club)がオープンしました*4)。

プランテーション地区は、4つの重要なアイディアに基づいて、約90haの土地に約10,000戸の住宅が計画されています。

プランテーション地区の4つの重要なアイディア(4 key ideas)

  • プランテーション・ファームウェイを育む(Cultivate the Plantation Farmway):コミュニティ農業(community farming)を中心とした新しいライフスタイルとコミュニティを創出する。
  • トラベル・ライト(Travel Lite):ウォーキング、サイクリング、公共交通機関の利用を促進し、アクティブで健康的なライフスタイルを浸透させる。
  • 自然とともに暮らす(Live with Nature):バイオフィリック・タウン・フレームワーク(Biophilic Town Framework)に基づて、緑と水が住宅と調和する自然豊かな住環境を創造する
  • スマートに暮らす(Live Smart):科学とテクノロジーを活用し、住民のためのより住みやすく、効率的で、持続可能で、安全な生活環境を創造する。

※HDB「Tengah Districts」のページに記載内容を翻訳したもの。

プランテーション地区には、プランテーション・ファームウェイ(Plantation Farmway)と呼ばれる幅約40m、長さ1.3kmの歩行者専用の空間がもうけられています。遊具のある遊び場、フィットネスコーナー、休憩スペース、地域のイベントを開催する広場(Grand Piazza)などがもうけられた緑の回廊(green connector)です。
プランテーション・ファームウェイは、プランテーション・プラザ、テンガ・コミュニティ・クラブ、そして、将来的にパーク地区に完成するタウンセンター(Town Centre)、セントラルパーク(Central Park)など、町の主要な施設をつないでいます。食料品店と小売店は、プランテーション・プラザのほか、プランテーション・ファームウェイに沿って小売ストリート(retail street)と呼ばれる、14の食料品店と小売店が並ぶ直線状の歩行者専用モールがもうけられています*5)。

(プランテーション・ファームウェイ)

(テンガ・コミュニティ・クラブ)

ガーデン地区

ガーデン地区は、プランテーション地区の北西に位置。緑と水が住宅と調和した街並みのある地区として、約7,000戸の住宅が計画されており、2024年末までに入居が始まっています*6)。

ガーデン地区にも、ガーデン・ファームウェイ(Garden Farmway)と呼ばれる幅約40m、長さ15kmの歩行者専用の空間がもうけられています。遊具のある遊び場、フィットネスコーナー、休憩スペースなどがもうけられた緑の回廊(green connector)で、住民が野菜を育てることのできるコミュニティ・ガーデン、貸農園がもうけられます。
ガーデン・ファームウェイは、将来的にガーデン地区の南に完成するテンガ池(Tenga Pond)と、パーク地区のセントラルパーク(Central Park)というテンガの2大レクリエーション施設を結ぶように計画されています*7)。

HDBの団地は、ガーデン・ファームウェイに向かって開くようなかたちで計画。ガーデン・ファームウェイを挟むように配置されたガーデン・ヴァレス@テンガ(Garden Vales@Tengah)、ガーデン・ヴァインズ@テンガ(Garden Vines@Tengah)には、ガーデン・ファームウェイから直接、2階レベルにもうけられた中庭にもアクセスできるようになっています。

(ガーデン地区の住棟)

ガーデン・テラス@テンガ(Garden Terrace@Tengah)、ガーデン・コート@テンガ(Garden Court@Tengah)もガーデン・ファームウェイを挟むように配置。これらの団地は、1階部分に中庭がもうけられています。

(ガーデン地区の住棟)

ガーデン・ファームウェイに面してスーパーマーケット、コーヒー・ショップ、カフェ、店舗、保育園などを見かけました。

ガーデン・ファームウェイ沿いに仏教寺院が新たに建設されているのも見かけました。大阪府企業局によって開発された千里ニュータウンでは、政教分離の考えから宗教施設は計画されませんでした。これに対して、仏教寺院が計画に組み込まれていることは興味深いと感じます。

(建設中の仏教寺院)

パーク地区

パーク地区はテンガの中心でプランテーション地区、ガーデン地区の北東に位置。最終的に13,000戸の住宅が計画されています。パーク地区には、長さ約1.5kmのレインフォレスト・ウォーク(Rainforest Walk)が地区を縫うように通され、自然をテーマにした遊具のある広場、緑地、休憩スペースなどがもうけられます。

テンガ・タウンセンター(Tengah Town Centre)は、自動車を地下に通すことで、シンガポール初の自動車が通行しないタウンセンター(“car-free” town centre)として計画されています。また、プライマリケアを担当する診療所であるポリクリニックと、直線状の歩行者専用モールである小売ストリート(retail street)を統合した新世代の近隣センター(new-generation Neighbourhood Centre)も2025年内に開業予定。近隣センターには約40の食料品店と小売店、容院や学習塾などのサービス、フードコート、スーパーマーケットなどが開業予定ということです*8)。

2024年7月21日には、バスターミナルであるテンガ・バス・インターチェンジ(Tengah Bus Interchange)開業し*9)、2025年9月現時点で870、871、871A、872、992の5路線のバスが運行しています。

2025年9月時点で、入居が始まっているHDBの団地があります。
その1つが、バス・インターチェンジの南東にあるパーク・クローバー@テンガ(Parc Clover @ Tengah)。8階から14階建ての12棟の住棟からなる1,124戸の大規模なHDBの団地です。コンセプトはクローバーから着想を得たもので、12の住棟は、3棟ずつ4つのクラスターに分けて配置。それぞれのクラスターの中央には中庭がもうけられています*10)。
敷地の中央には、7階建ての大きな立体駐車場。立体駐車場の1階部分は半屋外の広場、屋上には大きな庭園。植栽のされた屋上庭園にはジョギングのトラックが作られています。ジョギングのトラックは、HDBによる「身体的なWell-being」(Physical Well-Being)の取り組みとしてもうけられているものです*11)。ジョギングのトラックの周りには遊び場、フィットネスコーナー、瞑想コーナーなどが配置されています。

(パーク・クローバー@テンガ)


■注