『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

「居場所ハウス」の運営理念を振り返り、これからの運営を考えるワークショップ

2015年10月21日(水)、「居場所ハウス」の運営理念を振り返り、これからの運営を考えるワークショップを行いました。
「居場所ハウス」のオープンは2013年6月13日ですが、オープンの1年以上前から、何度もワークショップが開かれ、運営理念や運営のあり方などが意見交換されてきました。
けれども、現在、運営に中心的に関わっているメンバーの大半は1回目のワークショップから参加しているわけではなく、「居場所ハウス」がオープンしてから運営に関わるようになったメンバーもいます。メンバーの輪が広がってきたという意味でこうした状況は良いことですが、運営理念が十分に共有できていないというのも事実かもしれません。
そこで、これからの運営を考えるためにも、まず基本となる運営理念に立ち返る必要があると考え、「居場所ハウス」の立上げを提案したワシントンDCの非営利法人・Ibasho/NPO法人・Ibasho Japan代表・清田英巳さんの訪問に合わせて、運営理念を振り返り、これからの運営を考えるワークショップを開催することとなりました。
ワークショップに参加したのは、現在、「居場所ハウス」の運営に中心的に関わっているメンバー18人。

最初に、清田さんからワシントンDCで非営利法人「Ibasho」を立ち上げようと思った経緯について話がありました。自身の祖母が認知症になり施設に入ったが、施設に入った祖母はみるみる元気を失っていった。そうした施設のあり方に疑問を抱き、アメリカに留学して高齢者の暮らしの環境について学んだが、アメリカの施設でも状況は同じだった。けれども、あるアメリカの高齢者施設でリサイクル活動が行われた時、リサイクル活動に参加した高齢者が生き生きしていたことを目の当たりにしたことなどの経験から、何歳になっても地域で役割を持ちながら暮らせることの重要性を実感し、それを実現するためには「高齢者は、お世話をされる存在である、面倒をみられる存在である」という社会的通念を根本から捉え直していく必要があると考え「Ibasho」を立上げたとのことです。
次に、このような思いから立ち上げた「Ibasho」が提唱し、「居場所ハウス」の運営において基本となる8理念(○高齢者が知恵と経験を活かすこと、○あくまでも「ふつう」を実現すること、○地域の人たちがオーナーになること、○地域の文化や伝統の魅力を発見すること、○様々な経歴・能力をもつ人たちが力を発揮できること、○あらゆる世代がつながりながら学び合うこと、○ずっと続いていくこと、○完全を求めないこと)が、「居場所ハウス」の写真とともに紹介されました。
この後、メンバーは3グループに分かれて、「居場所ハウス」をより良くしていくためのアイディアを出し合いました。

この日のワークショップに参加したメンバーから「最近、新しい人たちが来てるなっていうのが見られるようになってきた」、「食堂にお客さんが来て、増えていくのはすごく嬉しい」、「朝市はいつも来るようにしてるんですけど、だんだん、今まで来ない人も来てるなと」という発言があったように、朝市や昼食の提供を始めた効果もあり、最近、「居場所ハウス」を訪れる人が徐々に増えていることは、みな実感しておられるようでした。
こうした状況ですが、今後、「居場所ハウス」を常連の人だけが集まる場所にしないように、また、やって来た高齢者をお客さん扱いしないようにしながら、より良い場所にしていくために、①若い世代へのアプローチ、②認知症の人と家族のサポート、③ボランティアをすること、の3点についてアイディアを出し合い、その後、みなで意見交換をしました。

①若い世代へのアプローチとしては、末崎中学校でワカメの養殖をしているように地域の産業を体験できるような企画をする、子どもたちに朝市やイベントをお手伝いしてくれるよう声かけする、カマドや飯ごうでご飯を炊くなど震災時に役立つ暮らしの技術を体験してもらうのなどの提案がありました。

②認知症の人とその家族のサポートは簡単なことではありませんが、「居場所ハウス」ならではのこととして、認知症の家族の人が「昨日、こんなことあったよ」と気軽に話をしたり、愚痴を言ったり、相談したりできたらよいという意見がありました。実際、「居場所ハウス」のメンバーの中には認知症の家族をお持ちの方がいるので、認知症の家族をもつ人同士でなくても日々の運営の中で気軽に話ができる雰囲気作りが重要だと。

③ボランティアをすることについては、運営に関わるボランティアがもっといた方がいい、というのはみなの共通意見。そのためには、より多くの人に「居場所ハウス」に来てもらうことから始めるしかないという意見が出されました。
1人の参加者が、毎日のように「居場所ハウス」に来てくれる高齢の女性は、自分にできることなら喜んで仕事を手伝ってくれたという話を紹介されましたが、ボランティアを大袈裟には捉えるのでなく、例えば、自分で使ったお茶碗を洗うだけでもいいので、来た人がお客さんとして席に座ってるだけの状態にしてはいけないという意見が出されました。「ここに来ることもボランティアだと思う」という意見も。
「居場所ハウス」に限らず地域でボランティアをする場合、昔の肩書きにこだわってはいけないという意見。それを聞いた元学校教員の方から「昔の肩書きで見られるのも嫌だ」という話。「居場所ハウス」では「○○先生、□□先生」ではなく「○○さん、□□さん」と呼ぶようにした方がいいという提案がありました。

ワークショップではこの他にも様々な意見が出されました。すぐに取り組めるものもあれば、すぐには解決できないこともありますが、運営に関わるメンバーが集まり、様々な意見を出し合えたというのが最大の収穫だったかもしれません。「居場所ハウス」では毎月1回、定例会を開催しているので、定例会でもこのような話をしていきたいという意見がだされました。館長からは「みんな様々なことを考えてる。意見を言ったらいけないということはないし、あまり顔を出さないから意見を言ってはいけないこともないので、ぜひ考えを話して欲しい」という話がありました。
今後もメンバーが運営に関して様々な意見を出し合うことで、「居場所ハウス」をより良い場所に、そして、末崎町を住みよい地域にしていくことにつながればと考えています。

「居場所ハウス」がオープンするまでは何度もワークショップが行われましたが、オープン後こうしたワークショップを行ったことはありませんでした。
そういう状況で、今回は清田英巳さんの訪問に合わせてワークショップを開催しました。みなで集まり運営理念を振り返ったり、改まった話をするというのは、日々の運営に追われているとなかなかできないのも事実です。ただし、外部の人がそこに混ざると、日々の運営から少し距離をおいた話がしやすくなるのだと感じました。
この意味で、外から定期的に地域を訪れ、日々の運営から少し距離をおく機会を作るというのは、地域外から関わる者だからこそ担える重要な1つの役割です。

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