『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

ハートビート@ベドック:タウン・センターのリニューアルで生まれたライフスタイルの拠点施設

ベドック(Bedok)はシンガポール東部に位置し、古くからHDB(Housing and Development Board:住宅開発庁)による開発が進められてきた街で、HDBが1992〜2024年まで用いていた分類では「成熟した団地」(Mature estate)に分類。近年ではHDBのROH(Remaking Our Heartland/リメイキング・アワ・ハートランド)の対象地に選定され、タウン・センターのリニューアルなどが進められてきました。

タウン・センターに新たに生まれたのがハートビート@ベドック(Heartbeat@Bedok)というライフスタイルの拠点となる複合施設です。

ハートビート@ベドック(Heartbeat@Bedok)

ハートビート@ベドックは2018年2月4日にオープンした複合施設。植栽された船のような外観が特徴的で、平面の形状は心臓(ハート)の形になっています。

ハートビート@ベドックには次のような機関や場所が入っています。


  • 地下1階
    :駐車場、施設管理室
  • 1階
    :コミュニティ・クラブ(レセプション)、料理スタジオ、アクティブ・ヘルス・ディスカバリー
  • 2階
    :図書館、ポリクリニック(コンサルタント、薬局、足病治療)、シニア・ケア・センター、ミュージック・スタジオ1~3、ダンス・スタジオ1~2、活動室1 *1)
  • 3階
    :図書館(図書返却箱)、ポリクリニック(子どもの健康(Child Wellness Suite)、歯科、ラボ・レントゲン、理学療法)、保育園、活動室2~4、ファンクション・ルーム1~2、教室1~6、会議室
  • 4階
    :スポーツ・ホール、アクティブ・ヘルス・ラボ、フィットネス・スタジオ1~2、トレーニング・ルーム1~2、PERSES & PERSISIオフィス、ActiveSG会議室、シラット・ホール(Silat Hall)、セパタクロー・ホール*2)
  • 5階
    :ActiveSGゲストオフィス、アクティブ・ヘルス・ラボ、プール(Swimming Complex)
  • 6階
    :体育館、フィットネス・スタジオ3
  • 7階
    :テニスコート

*エレベーター前の掲示より


様々な機関や場所が入っていますが、興味深いのは入居している機関や場所の間での連携が行われていること。ハートビート@ベドックを紹介する記事に次のように紹介されています*3)。

「様々な機関がハートビート・ケア(Heartbeat Care)と呼ばれる構想を展開し、一連の健康(Health and Wellness)プログラムを通して、高齢者とその家族に手を差し伸べています。
住民は、スポーツ・シンガポールとそのヘルス・ケア・パートナーによる構想であるアクティブ・ヘルス・ラボにより、パーソナライズされたフィットネス体制を開発することができます。それは例えば、毎週午前中のエクササイズ、健康診断(Screening)、講演、料理のデモンストレーションなどから構成されます。
ベドックの29万人の住民の約14%が65歳以上です。
〔ハートビート・ケアの〕目的は新しい建物に入っている5つの機関が、少なくとも40%のプログラムと構想において互いに連携し、住民の多様で変化するニーズを満たすことだと彼〔リー・シェンロン首相〕は話しています。
現在、機関の間のコーディネートは手作業で行われているが、「こレラのプロセスを自動化するアプリケーションを開発中である」と彼〔リー・シェンロン首相〕は話しました。」

ここからは、様々な機関や場所が入居する複合施設であることのメリットを生かして、高齢社会におけるライフスタイルを生み出していく拠点になることが構想されていることが伺えます。


ハートビート@ベドックの1階は吹き抜けのアトリウムになっており、ベンチが置かれています。
ハートビート@ベドックには日本でいう公共機関・公共施設に加えて、飲食店を含む各種店舗が入居していたり、フードコートのコーナーが設けられたりしているのも特徴です。

入居する機関や場所に向かう人、ベンチに座っている人、通り過ぎていく人など、アトリウムは多くの人々が過ごし、行き交う場所になっています。この光景を目にして、本来、公共施設とはこういう場所のことを言うのではないかと感じました。

このような場所を実現する上で、立地の良さや、多くの機関や場所が入居していることが重要になりますが、飲食店を含む店舗があることもポイントではないかと思いました。

日本では、公共施設では営業行為が禁止されている場合が多く、そのため店舗が入っていないことが多いですが、本来、店舗とは日々の暮らしに不可欠な場所。
営業行為という側面で見れば、店舗はプライベートな(民間の)場所ですが、ハートビート@ベドックは(日本でいうところの)公共機関・公共施設ではなく、プライベートな場所である店舗を含んだかたちで、パブリックな場所を生み出している。公共とプライベートの重なりによりパブリックな場所、つまり、本来あるべき公共施設が実現されていると言えるかもしれません。


  • 1)ポリクリニック(Polyclinic):プライマリケアを行う大型の診療所。
  • 2)シラット(Silat):東南アジアで行われている伝統的な武術。
  • 3)Seow Bei Yi「Community facilities under one roof at new Bedok lifestyle hub」・『The Straits Times』Feburary 4, 2018の翻訳。