大阪府豊中市には、全国的に珍しい公民分館という仕組みがあります。
2019年、千里ニュータウンの1住区である新千里東町の東丘公民分館が創立50周年を迎え、9月21日(土)に記念式典とパネルディスカッション「分館活動を振り返り、次世代に引き継ぐ」が開催されました。
東丘公民分館創立50周年記念式典・パネルディスカッション
- 日時:2019年9月21日(土) 10:00〜12:20
- 場所:千里文化センター・コラボ 2階多目的スペース
第一部:記念式典
第二部:パネルディスカッション「分館活動を振り返り、次世代に引き継ぐ」
- コーディネーター:
・Kさん(とよなかEDSネットワーク事務局長) - パネラー:
・Aさん(東丘子ども教室・元東丘公民分館長・元ひがしまち街角広場代表)
・Oさん(ディスカバー千里代表・ひがしまち街角広場代表)
・Nさん(東丘小学校PTA校内会長)
・Kさん(新千里東町在住・大学生)
- 主催:豊中市東丘公民分館
- 協力:豊中市立千里公民館
記念式典の後、10:25頃からパネルディスカッションが始まりました。会場に見えたのは来賓を含めて50〜60人。高齢の世代から、子育てを終えた世代(50代)、そして、ピンク色の襷をつけた東丘小学校のPTAの役員など、幅広い世代の住民が参加されていました。
東丘小学校校内PTA会長のNさんは、大阪府の泉北ニュータウンで生まれ育ったとのこと。泉北ニュータウンは緑が豊かで、「守られている感じ」を受けたとのこと。大阪市内に住んでいた時期があったようですが、自分の子どもにも「守られている感じ」を与えたいと思い、また、夫の勤務先の都合から、新千里東町に引っ越してこられたとのこと。新千里東町は公園や緑が豊かで、遊具がなくても子どもたちが遊べることが印象的だったと話されていました。
自分たち子育て世代が地域に貢献できることとして、地域では防犯・見守りも兼ねてピンク色の襷をつけるようにしていることを紹介。また、PTA役員と意見交換し、子どもたちが新千里東町のことを知ったり、歩いたりする機会を作るために「ウルトラクイズ」、「フォトロゲイニング」、「スタンプラリー」、「逃走中」をするのはどうかという提案がありました。
Oさんは新千里東町の住民であり、同時に、建築・まちづくりの専門家という立場から、スライドを使って新千里東町の公園や歩車分離の仕組みの考え方、「ひがしまち街角広場」や、「ひがしまち街角広場」から生まれたグループなど地域活動の流れなどを紹介。
また、パネルディスカッションの議論の材料とするためにディスカバー千里が行なったアンケート調査の結果(*本ページ下部参照)の紹介がありました。
Oさんからは、住民が環境の手入れをすることが大切であること。新千里東町の特徴である歩行者専用道路は「人と出会える場所」であると考えれば、この歩行者専用道路を手入れすることで、魅力的な場所にすることができるのではないかという提案がありました。
Aさんは長年にわたって、様々なかたちで新千里東町に携わってこられた方。東丘小学校が開校した時は先生と用務員さんだけだったこと、その後、急激に児童が増加したが、さらにその後は児童が減少し、約150人にまでになってしまったこと。小学校だけでは運動会ができなくなったことから、小学校と地域で「ふれあい運動会」を合同開催することになったことという歴史を紹介。また、東丘小学校に出入りする人がつける緑の襷は、附属池田小事件(2001年)を受けて考案したもので、1晩かけて120本の襷を縫ったというエピソードも紹介されました。
Aさんは、「ニュータウンのように新しく作られた街は、その時の時代にあわせて生まれ変わっていかないといけない」、「街を作るのはディベロッパーではなく、できた街に息を吹き込むのが住民の役割」と話されていました。
パネラーの中で最も若いKさんは、新千里東町で生まれ育ち、現在も新千里東町にお住まい。子どもの頃は「ひがしまち街角広場」に水を飲みに立ち寄ったり、「東丘ダディーズクラブ」が開くカレーパーティーなどにも参加してきたとのこと。現在、大学で福祉の勉強をする中で、地域と学校が連携することの難しさを知ったが、新千里東町ではそれが実現されている。また、全国的にモデルとして注目されている「ひがしまち街角広場」が当たり前のようにある環境で育ったことは恵まれていたとKさん。
現在、新千里東町近隣センターは移転・建替の計画が進められており、「ひがしまち街角広場」も閉鎖になることに触れて、「ひがしまち街角広場」は通学路上にあるから子どもも気軽に立ち寄れる。通学路上にこうした場所が絶対に必要だと思うと話されていました。
パネルディスカッションは議論をする十分な時間があり、会場からも次のように色々な世代から多くの意見が出されました。
- 東丘小学校の子どものうち、約3割が私立の中学校に進学する。地域を盛り上げるためには、地元の第八中学校を盛り上げていくことが大切。
- 東丘小学校のPTAの役員になって初めて知ったことが多かった。PTAの役員にならなくても、地域のことを知ることができる仕組みがあればいい。
- 今日のパネラーには、子育てを終えた世代(50代前後)がいないことが問題。
- 定年後にいきなり地域に入ることは難しい。東丘ダディーズクラブは子どもと遊ぶだけでなく、地域に入るための「助走期間」という役割も持っている。
- 高齢者は年金をもらってのうのうとしているだけではいけない。見守り、清掃などできるかたちで地域に参加することが必要。
Aさんは、「ひがしまち街角広場」の初代代表です。この日、Aさんは東丘公民分館の活動を中心に発言すると話されていましたが、最後に「ひがしまち街角広場」の意義について、次の2点について話をされました。
1つは、寄り道することが学校公認の場所であること。集合住宅ばかりの新千里東町には、子どもたちが学校帰りに寄り道できる場所もない。核家族が多く、家に帰っても祖父母はいない。親と学校の先生、友達としか話をできないというのは寂しいのではないか。「ひがしまち街角広場」に立ち寄ってもらったら地域の大人ともであることができる。だから、校長先生に無理を言って寄り道することを公認してもらった。「子どもたちにとって寄り道することは大切」とAさん。
もう1つは、水を飲みに立ち寄ること。子どもたちは水を飲みに立ち寄りますが、大人は、「ひがしまち街角広場」に行けば100円払って飲物を注文しなければならない雰囲気になっている。でも、元々は大人でも水だけ飲みに立ち寄ってもいい場所としてオープンしたことを思い出して欲しい、という話でした。
パネルディスカッションには大学生から、子育て世代、子育てを終えた世代(50代前後)、高齢者まで多世代の参加がありました。新千里東町で生まれ、子ども時代に「ひがしまち街角広場」(高齢の世代が運営)に水を飲みに立ち寄ったり、「東丘ダディーズクラブ」(子育て世代がメンバー)のカレーパーティーに参加したりしていた世代が大きくなり、このような場に出てくるようになった。千里ニュータウンはまちびらきから50年が経過し、三世代の街になってきたことを実感しました。
議論では「ひがしまち街角広場」の移転のこと、歩行者専用道路の手入れのこと、住民の地域への参加のこと、第八中学校を盛り上げること、住民が作り上げてきたものを継承することなど、新千里東町にとって重要なテーマがいくつも出されました。これらのテーマ対して、具体的にどう向き合っていくかは大きな課題になります。
また、新千里東町にはこうした課題に向き合うために設立された地域自治協議会があります。地域自治協議会を設立した意味が試されることになるように思います。
ディスカバー千里ではアンケート調査を行なった他、新千里東町の情報や歴史を伝えるための資料を会場に展示したり、新たに新千里東町の年表を作成したりすることで、この日のパネルディスカッションに協力しました。
新千里東町についてのアンケート結果
ディスカバー千里(千里ニュータウン研究・情報センター)では、東丘公民分館創立50周年記念のパネルディスカッション「分館活動を振り返り、次世代に引き継ぐ」の参考資料とするため、新千里東町の魅力や課題を伺うアンケート調査を行いました。
- 期間:2019年9月1日〜15日
- 回収方法:「ひがしまち街角広場」に回収BOX設置、ウェブサイト
- 回答者数:新千里東町の住民16人
- 回答者の性別:男性 7人、女性 9人
- 回答者の年代:30代1人、40代2人、50代3人、60代3人、70代5人、80代2人