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シンガポールのHDBアワード2024:優れたHDBプロジェクトの表彰

シンガポールでは国民の約8割がHDB(Housing and Development Board:住宅開発庁)が建設する住宅に住んでいます。
シンガポールの人口は増加し続けており*1)、HDBは数多くのプロジェクトを行っていますが、毎年、HDBのプロジェクトにおいて模範的で質の高いパフォーマンスを発揮し、イノベーティブな取り組みを行ったビジネスパートナーをHDBアワード(HDB Award)として表彰しています。ここでは、HDBアワード2024(HDB Award 2024)で表彰されたプロジェクトをご紹介します。

HDBアワード2024

HDBアワード2024には、デザイン賞(HDB Design Award)、建設賞(HDB Construction Award)、技術賞(HDB Engineering Award)、建設レジリエンス表彰(Construction Resilience Recognition)の4つの分野があります*2)。

    デザイン賞:HDBの公共住宅(public housing)、複合開発、公園、再生(Rejuvenation)のプロジェクトにおいて、優れたデザインを行った建築コンサルタントを表彰する。HDBはこの表彰を通じて、HDBのプロジェクトに創造的かつ機能的なデザインを取り入れることを促進することを目的としている。このうち、イノベーティブ・デザイン賞(Innovative Design Award)は、公共住宅(public housing)の認識を変えるような革新的で斬新なコンセプトの計画(To-Be-Built)を表彰する。
  • 建設賞:HDBの建設、アップグレード(Upgrading/改修)のプロジェクトにおいて、卓越したプロジェクト管理、施工品質、広報活動、革新性を発揮した請負業者を表彰する。
  • 技術賞:HDBのインフラストラクチャー、造成(Land Reclamation)、建設、アップグレード(Upgrading/改修)、再生(Rejuvenation)のプロジェクトにおける優れた技術を評価し、コンサルタントと請負業者を表彰する。コンサルタントを対象とする技術賞(デザイン部門)と、請負業者を対象とする技術賞(建設部門)の2つの部門がある。このうち、イノベーティブ技術賞(Innovative Engineering Award)はコスト効率に優れ、生産性を向上させ、環境の持続可能性を促進する独創的で革新的なコンセプトの計画(To-Be-Built)を表彰する。
  • 建設レジリエンス表彰:新型コロナウイルス感染症による深刻な課題に直面しながらも、BTOプロジェクト*3)の完成に大きく貢献を果たした優れた請負業者とコンサルタントを表彰する*4)。

(HDBアワード2024を紹介するHDBハブでの展示)

HDBアワード2024では、デザイン賞として11プロジェクト(うち2がイノベーティブ・デザイン賞、5が表彰)、建設賞として11プロジェクト(うち4が表彰)、技術賞として4プロジェクト(うち1がイノベーティブ技術賞、うち1が表彰)、建設レジリエンス表彰として3プロジェクトが受賞しています*5)。

デザイン賞:11プロジェクト

デザイン賞:4プロジェクト

  • キム・キート・ビーコン(Kim Keat Beacon)[住宅]
  • リバーヴェイル・ショアーズ(Rivervale Shores)[住宅]
  • ウッドレイ・ヒルサイド(Woodleigh Hillside)[住宅]
  • アドミラルティ・プレイス(Admiralty Place)[再生]

イノベーティブ・デザイン賞:2プロジェクト

  • アレクサンドラ・ピークス(Alexandra Peaks)[住宅(計画)]
  • ヴェランダ@カラン(Verandah @ Kallang)[住宅(計画)]

表彰(Certificate of Merit):5プロジェクト

  • ファーンヴェール・デュウ(Fernvale Dew)[住宅]
  • タンパニーズ・グリーンヴァインズ(Tampines GreenVines)[住宅]
  • べドック・サウス・アベニュー2(Bedok South Ave 2)における近隣住区リニューアル・プログラム(Neighbourhood Renewal Programme:NRP)[再生]
  • ブリックランド・ウィーヴ(Brickland Weave)[住宅(計画)]
  • レイル・グリーンI&II@CCK(Rail Green I & II @ CCK)[住宅(計画)]

トア・パヨ(Toa Payoh)のキム・キート・ビーコン(Kim Keat Beacon)は25~30階建ての3棟、542戸からなる団地。管区(precinct)のアイデンティティを強めるため、そして、敷地の歴史を継承するため、保存した3本の樹木を中心とする設計とされています。住棟と立体駐車場を結ぶ高架の遊歩道は、1本の樹木を囲むように蛇行するようにもうけられていいます。立体駐車場は、公園と連続するように、カスケード状のテラスがデザインされています。団地には幼稚園、屋上庭園、遊び場、フィットネス・ステーションなどがもうけられています*6)。

(キム・キート・ビーコン)

センカン(Sengkang)のリバーヴェイル・ショアーズ(Rivervale Shores)は、セラングーン貯水池(Serangoon Reservoir)沿いに位置しており、8~18階建ての16棟、2,500戸からなる大規模な団地です。デザインは波から着想を得たとのこと。団地内には幼稚園、遊び場などに加えて、商業施設が設けられています。全ての住棟は環境デッキ(environmental deck/eデッキ)によってつながれており、団地(precinct)の中心には幅80mの広大なオープンスペースがもうけられています。

(リバーヴェイル・ショアーズ)

ビダダリ(Bidadari)のウッドレイ・ヒルサイド(Woodleigh Hillside)は16階建ての13棟、1,355戸からなる団地。保全されたヒルロック・パーク(Hillock Park)を挟んで、ウッドレイ・グレン(Woodleigh Glen)と向き合うように配置されており、南側にはビダダリ公園(Bidadari Park)があります。住棟は、なだらかな地形をいかすようにデザインされており、住棟の間には、2階建ての駐車場の上を活用した環境デッキ(environmental deck/eデッキ)がもうけられています。団地内にはヒルロック・パーク(Hillock Park)、店舗、コミュニティ施設をつなぐ緑の小道(pedestrian-friendly green pathway)が通されています。

(ウッドレイ・ヒルサイド)

ウッドランズ(Woodlands)のアドミラルティ・プレイス(Admiralty Place)は、MRTのアドミラルティ駅とカンポン・アドミラルティ(Kampung Admiralty)の間に立地する近隣センター(neighbourhood centre)。改修により新しくなったファサードは、この地域が高床式木造家屋(wooden houses on stilts)が並ぶ村であった歴史を継承するデザインということです。改修によって、アドミラルティ・プレイス、カンポン・アドミラルティ、立体駐車場を結ぶ屋根付き通路が設置され、緑化された壁面のあるアトリウムがもうけられられています。

(アドミラルティ・プレイス)

センカン(Sengkang)のファーンヴェール・デュウ(Fernvale Dew)は12~25階建ての10棟、1,188戸からなる団地。工場で生産した建築のモジュールを現場に運び、クレーンで組み立てるというPPVC(Prefabricated Prefinished Volumetric Construction)工法によって建設されています。駐車場の上にはランドスケープ・デッキ(landscape deck)がもうけられており、ランドスケープデッキには保育園、居住者ネットワークセンター(Residents’ Network Centre)、管区パビリオン(precinct pavilions)、遊び場、フィットネス・ステーションなどがもうけられています。

(ファーンヴェール・デュウ)

タンパニーズ(Tampine)のタンパニーズ・グリーンヴァインズ(Tampines GreenVines)は8~14階建ての11棟、1,271戸の団地です。南側のタンパニース・エコ・グリーン(Tampines Eco Green)に向かうにつれ、低い階数の住棟が配置されています。住棟のファサードは森のコンセプトを表現するため、「木の皮のような質感」(tree bark texture)のフォームライナーと「半透明塗料」(translucent paint)が用いられています。団地は黄、赤、青をキーカラーとする3つのエリアに分けられており、それぞれのエリアのヴォイド・デッキの壁、EVホール、屋根付き通路の支柱、住棟壁面などには、目印としてキーカラーが用いられています。

(タンパニーズ・グリーンヴァインズ)

べドック・サウス・アベニュー2(Bedok South Ave 2)の西側に位置するべドック・オーキッド(Bedok Orchid)は、近隣住区リニューアル・プログラム(Neighbourhood Renewal Programme:NRP)による再生が行われました。NRPにより、屋根付き通路、車寄せ、遊び場、フィットネスコーナーなどが設置。敷地の中央には管区(precinct)のアイデンティティを強め、視覚的な中心とするため、シンガポールの国花であるバンダ・ミス・ジョアキム(Vanda Miss Joaquim)の彫刻が設置。2層吹き抜けのヴォイド・デッキには、村(kampung)をテーマとする壁画を描いたヘリテージ・コーナー、古いMRTの座席を再利用したベンチが設置されています。

べドック・オーキッドにおけるNRP

建設賞:11プロジェクト

建設賞:7プロジェクト

  • ファーンヴェール・ヴァインズ(Fernvale Vines)[住宅]
  • キム・キート・ビーコン(Kim Keat Beacon)[住宅]
  • リバーヴェイル・ショアーズ(Rivervale Shores)[住宅]
  • タンパニーズ・グリーンコート(Tampines GreenCourt)[住宅] ※2社が表彰
  • シメイ/セラングーン(Simei/Serangoon)(G29K)におけるアップグレード・プロジェクト[アップグレード]
  • ブキ・バトック/ジュロン・ウェスト(Bukit Batok/Jurong west)(G29E)におけるアップグレード・プロジェクト[アップグレード]

表彰(Certificate of Merit):4プロジェクト

  • タンパニーズ・グリーンスプリング(Tampines GreenSpring)[住宅]
  • テック・ウィー・ビュー(Teck Whye View)[住宅]
  • イーシュン・グレン(Yishun Glen)[住宅]
  • イーシュン(Yishun)(G29B)におけるアップグレード・プロジェクト[アップグレード]

センカン(Sengkang)のファーンヴェール・ヴァインズ(Fernvale Vines)は、LRTのThanggam駅のすぐ東に位置。18~24階建ての6棟、933戸からなる団地。PPVC(Prefabricated Prefinished Volumetric Construction)工法によって建設されています。団地には幼稚園、スーパーマーケット、飲食店(eating house)などが設けられています。

(ファーンヴェール・ヴァインズ)

タンパニーズ(Tampine)のタンパニーズ・グリーンコート(Tampines GreenCourt)は7~16階建ての19棟、2,192戸からなる大規模な団地です。この団地も、PPVC(Prefabricated Prefinished Volumetric Construction)工法によって建設。半地下の2階建ての駐車場の上には、全ての住棟をつなぐように環境デッキ(environmental deck/eデッキ)がもうけられています。団地には幼稚園、スーパーマーケット、飲食店(eating house)などが設けられています。団地のすぐ南にあるタンパニーズ・ブールバード・パーク(Tampines Boulevard Park)から直接アクセスできるようになっています。

(タンパニーズ・グリーンコート)

タンパニーズ(Tampine)のタンパニーズ・グリーンスプリング(Tampines GreenSpring)は、巨大な複合施設であるアワ・タンパニーズ・ハブ((Our Tampines Hub)のすぐ北に位置。12~15階建ての6棟、657戸からなる団地です。

(タンパニーズ・グリーンスプリング)

技術賞:4プロジェクト

技術賞(デザイン部門):1プロジェクト

  • アンカーヴェイル・ヴィレッジ(Anchorvale Village)[住宅]

技術賞(建設部門):1プロジェクト

  • タウナー・ロードにおける幹線下水道変換(Diversion of Trunk Sewer at Towner Road)[インフラ]

イノベーティブ技術賞:1プロジェクト

  • アレクサンドラ・ピークス(Alexandra Peaks)[住宅(計画)]

表彰(Certificate of Merit):1プロジェクト

  • マーシリング・グローヴ(Marsiling Grove)[住宅]

センカン(Sengkang)のアンカーヴェイル・ヴィレッジ(Anchorvale Village)は、LRTのFarmway駅のすぐ南西に位置。15階建ての2つの住棟と、近隣センター(neighbourhood centre)、ホーカー・センター(hawker centre)、コミュニティ・プラザ、屋上庭園などの共用施設から構成される複合施設です。

アンカーヴェイル・ヴィレッジ

建設レジリエンス表彰:3プロジェクト

  • マーシリング・グローヴ(Marsiling Grove)[刷新(Novated)]
  • ウェスト・コースト・パークビュー(West Coast Parkview)[刷新(Novated)]
  • ウォーターウェイ・サンライズII(Waterway Sunrise II)[BOW]

クレメンティ(Clementi)のウェスト・コースト・パークビュー(West Coast Parkview)は21~32階建ての3棟、697戸からなる団地。南のウェスト・コースト・ハイウェイ(West Coast Highway)、東のウェスト・コースト・リンク(West Coast Link)に面してもうけられた立体駐車場の屋上は庭園になっています。

(ウェスト・コースト・パークビュー)

プンゴル(Punggol)のウォーターウェイ・サンライズII(Waterway Sunrise II)は6~18階建ての7棟、1,014戸からなる団地。運河のMyWaterway@Punggolを挟んで、ウォーターウェイ・サンライズI(Waterway Sunrise I)と向かい合うような配置となっています。駐車場の上には、全ての住棟をつなぐように環境デッキ(environmental deck/eデッキ)がもうけられています。

(ウォーターウェイ・サンライズII)


HDBアワード2024で表彰されているプロジェクトの大半は、新たに開発された団地ですが、HDBアワード2024からはHDBが現在、どのような団地の開発を目指しているのかを伺うことができます。全ての団地を訪れたわけでありませんが、HDBが近年開発している団地は、駐車場の配置によって大きく2つに分類できるように思います。

1つは、駐車場の上にランドスケープ・デッキ(landscape deck)、環境デッキ(environmental deck/eデッキ)と呼ばれる人工地盤を設置することで、オープンスペースを作り出しているタイプ。デッキのレベル(主に2階)が人々の歩行や活動の中心で、このレベルには遊び場、フィットネス・ステーション、幼稚園、管区パビリオン(precinct pavilions)などの共用施設がもうけられています。
従来のHDBの住棟は、1階にヴォイド・デッキ(Void Deck)と呼ばれるスペースがもうけられています。このタイプの団地では、デッキのレベルにヴォイド・デッキがもうけられており、ヴォイド・デッキの一部はコミュニティ・リビングルーム(Community Livingroom)としてテーブルや椅子が置かれています。ここでご紹介した団地のうち、以下がこのタイプの団地になっています。

  • リバーヴェイル・ショアーズ(Rivervale Shores):16棟、2,500戸
  • タンパニーズ・グリーンコート(Tampines GreenCourt):19棟、2,192戸
  • ウッドレイ・ヒルサイド(Woodleigh Hillside):13棟、1,355戸
  • ファーンヴェール・デュウ(Fernvale Dew):10棟、1,188戸
  • ウォーターウェイ・サンライズII(Waterway Sunrise II):7棟、1,014戸

(タンパニーズ・グリーンコート)

(ファーンヴェール・デュウ)

もう1つは、1階にオープンスペースのある団地。従来のHDBの住棟のように、このタイプの団地の住棟には、1階にヴォイド・デッキがもうけられており、一部がテーブルや椅子が置かれたコミュニティ・リビングルーム(Community Livingroom)とされています。そして、住棟とは別に立体駐車場が配置されているのが特徴。立体駐車場の屋上は遊び場、フィットネス・ステーションなどのある屋上庭園として開放されています。ここでご紹介した団地のうち、以下がこのタイプの団地になっています。

  • ファーンヴェール・ヴァインズ(Fernvale Vines):6棟、933戸
  • ウェスト・コースト・パークビュー(West Coast Parkview):3棟、697戸
  • タンパニーズ・グリーンスプリング(Tampines GreenSpring):6棟、657戸
  • キム・キート・ビーコン(Kim Keat Beacon):3棟、542戸

(ウェスト・コースト・パークビュー)

(キム・キート・ビーコン)

全てのHDBの団地を確かめたわけでありませんが、1,000戸を超えるような規模の大きな団地は、駐車場の上に、デッキと呼ばれる人工地盤がもうけられている傾向があると言えます*7)。

HDBアワードで表彰されているのは新築のプロジェクトが中心ですが、アップグレード(Upgrading)、再生(Rejuvenation)のプロジェクトも対象にされていることも興味深いと感じます。


■注

  • 1)シンガポールの人口は、2024年6月に初めて600万人を超えている。JETRO「シンガポールの人口が過去最多、600万人の大台に」(2024年10月1日)のページより。
  • 2)建設レジリエンス表彰は、HDBアワード2024で新たに創設された。
  • 3)BTOは「Build-To-Order」の略で、受注生産の意味。
  • 4)トア・パヨにあるHDBハブにおける、HDBアワード2024の展示パネルより。
  • 5)HDB資料「Full List of Winners of HDB Awards 2024 Design Award」(2024年10月20日)より。複数の賞を重複して受賞しているプロジェクトもある。
  • 6)以下、それぞれのプロジェクトの概要は、トア・パヨにあるHDBハブにおける、HDBアワード2024の展示パネルより。
  • 7)11棟、1,271戸からなるタンパニーズ・グリーンヴァインズ(Tampines GreenVines)は、オープンスペースが1階レベルと、駐車場の屋上の2階レベルにもうけられている。両者は緩やかに結ばれている。