『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

協同組合の住宅地:アメリカ・メリーランド州のグリーンベルト

アメリカ東部、メリーランド州にグリーンベルト(Greenbelt)という計画住宅地(Planned Community)があります*1)。1937年から入居が始められた、歴史のある住宅地です。
第32代大統領のフランクリン・D・ルーズベルト大統領のニューディール政策によって建設された3つのグリーンベルト・タウン(Greenbelt Towns)の1つ。グリーンベルト・タウンは大恐慌時代、再定住局(Resettlement Administration:RA)による良好な住宅地の実現、雇用創出のためのプロジェクトとして開発が行われたもので、メリーランド州のグリーンベルトのほかに、オハイオ州のグリーンヒルズ(Greenhills)、ウィスコンシン州のグリーンデイル(Greendale)があります。

グリーンベルトでは、街開き当初の住民が「パイオニア」(Pioneers)と呼ばれています*2)。グリーンベルトでは、アメリカで最初の社会実験としての都市、あるいは、ユートピア(”America’s First Test-Tube City” and also as a “Utopia”)に相応しい条件に当てはまる人々がパイオニアとして選定されました。その条件は、典型的なアメリカ人であること、教会に通っていること、規則を守ること、コミュニティ意識が高いことなどでした。結果として、パイオニアとして選ばれたのは、世帯主が連邦政府の職員である世帯が約75%を占めており(Harris, 2013)、また、全てが白人の世帯だったと言われています*3)。

(グリーンベルト)

グリーンベルトの特徴として、協同組合をあげることができます。近年でも、新たな協同組合が立ち上げらている興味深い街であるため*4)、改めてグリーンベルトの協同組合をご紹介したいと思います。

グリーンベルトの協同組合

グリーンベルト・ホームズ(GHI)

現在、グリーンベルトの約1,600戸の住宅は、協同組合であるグリーンベルト・ホームズ(Greenbelt Homes, Inc.:GHI)によって所有・管理・運営されています。
グリーンベルト・ホームズ(GHI)は、連邦政府による住宅と土地の払い下げの受け皿として1952年に設立された協同組合で、住民はこの協同組合の出資者であり、かつ、協同組合が所有する住戸の賃借人となっています(森田・松村, 2007)。

(グリーンベルト・ホームズ(GHI))

グリーンベルトの協同組合はこれだけではありません。これまでに次のような協同組合が立ち上げられてきました。

初期の協同組合

1937年、つまり、街開きの年には地域新聞、信用組合、保育園が協同組合として設立されました。

■地域新聞
地域新聞は、当初は、『グリーンベルト・コオペレーター』(Greenbelt Cooperator)という名称で、1937年11月24日に創刊号が発行。その後、『グリーンベルト・ニュース・レビュー』(Greenbelt News Review)と名称が変更されましたが、協同組合(労働者協同組合)という体制は変わらず、現在でも発行されています。毎週発行され、グリーンベルト市内に無料で配布され続けてきた地域新聞は、2026年2月末時点で4,500号以上となっています*5)。

(図書館に保管されている地域新聞のバックナンバー)

■信用組合
グリーンベルト連邦信用組合(Greenbelt Federal Credit Union:GFCU)は、1937年12月13日に設立認可を受けた、グリーンベルトで初めての金融機関で、この地域初のコミュニティ信用組合です。1952年、グリーンベルト・ホームズ(GHI)が、連邦政府から住宅と土地を購入した際には、資金調達を支援しています。
グリーンベルト連邦信用組合は、設立から協同組合として運営されており、タウンセンター(現在はルーズベルト・センターと呼ばれている)に拠点を構えています。
グリーンベルト連邦信用組合は、2023年12月31日で、プリンス・ジョージーズ・コミュニティ連邦信用組合(Prince George’s Community Federal Credit Union)と合併を完了。2024年8月2日から、プリンス・ジョージーズ・コミュニティ連邦信用組合の支店となっています。

(ルーズベルト・センターのグリーンベルト連邦信用組合)

■保育園
グリーンベルト協同組合保育園(Greenbelt Cooperative Nursery School)は、1942年に開園。協同組合として保護者委員会(A board of parents)によって、現在も運営されています。保護者は、保育料を支払うだけでなく、教室でのサポートや清掃、メンテナンス作業などを担うことで、運営に協力。
保育園は、現在は、コミュニティ・センター(旧小学校の建物を利用)内にありますが、以前は、コミュニティ・センターの隣の小さな建物で運営されていました。

(グリーンベルト協同組合保育園)

■食料品店/スーパーマーケット
1937年、タウンセンター(現在のルーズベルト・センター)に食料品店(Grocery)が開店しました。1940年、食料品店は、グリーンベルトの住民が設立したグリーンベルト協同組合(Greenbelt Cooperative)によって買収。しばらくの間は、グリーンベルト内に2つ目の小さな店舗も営業していたということです。
グリーンベルト協同組合は、設立から20年間に、他の食料品店、ガソリンスタンド、家具店、ドラッグストア、理髪店、美容院、映画館、コインランドリー、バスサービス、小さなショッピングセンターなどを買収して拡大。
しかし、グリーンベルト協同組合は財政難に陥り、1984年、理事会は、赤字だったスーパーマーケットとガソリンスタンドを含む事業の多くを閉鎖し、収益を上げていた家具店のみを維持することを決議しました。
これを受けて、1984年に住民が新たな協同組合としてグリーンベルト消費者協同組合(Greenbelt Consumer Cooperative)を設立し、スーパーマーケットを薬局を、以前の協同組合から買い取りました。新しい協同組合によって開店したのがグリーンベルト協同組合スーパーマーケット・薬局(Greenbelt Co‑op Supermarket and Pharmacy)で、現在も営業されています*6)。
なお、ガソリンスタンド、家具店は他によって買収。家具店は2007年に破産を申請したということです。

(スーパーマーケット)


このように、グリーンベルトのパイオニアの人々は、自らで協同組合を立ち上げ、街に必要な場所やサービスを作り出してきました。なお、以前はベビーシッター(Cooperative Babysitting Association)も協同組合によって運営されていたということです。

近年の協同組合

グリーンベルトが興味深いのは、街開きから年月が経過した後も、新たな協同組合が立ち上げられていることです。

■コミュニティカフェ
森の中での作業を終えた後に、立ち寄れるカフェが欲しい。ニューディール・カフェ(New Deal Cafe)は、グリーンベルト・ホームズ(GHI)の森林委員会(Woodlands committee)のメンバーによるこのような思いがきっかけとなり構想されました。
1994年11月、1日限定のカフェを実験的にオープン。600人以上がこのプロジェクトを支援するために集まりました。1995年6月、ニューディール・カフェ協同組合(New Deal Café, Inc.)が設立。1995年12月30日からコミュニティ・センター内での運営が始められました。当時は、金曜と土曜の夜のみの営業でした。
常設の場所が欲しいという思いから、2000年4月から、ルーズベルト・センターの空き店舗に移転しての営業が開始。
2005年、裏側に隣接するビデオ店が撤退したため、ニューディール・カフェはこの店舗も取得。以前からあるフロント・ルームは「コミュニティ・リビングルーム」(community living room)として、新たに取得したバック・ルームは音楽やダンスのパフォーマンスの場所として利用されることになりました。
音楽やダンスのパフォーマンスをサポートするのは、FONDCA(Friends of New Deal Cafe Arts)。2002年に、アート、パフォーマンス、文学を支援するために設立された非営利組織です。ニューディール・カフェは、2012年、ラジオ局WTOPの「ベスト・オブ・ザ・ベルトウェイ」コンテストで、大規模な音楽ホールに勝ち、「最も優れた音楽会場」(Best Music Venue)に選ばれました(Henneberg, 2012)。

しかし、ニューディール・カフェは経営は安定していませんでした。そこで、2008年に、シェフのカリム・クマイハ(Karim Kmaiha)氏と契約。カリム・クマイハは、初めての民間の運営者に就任し、レバノン料理が提供されるようになりました。
2016年にカリム・クマイハ氏との契約が満了した後は、ニューディール・カフェの協同組合による運営となりましたが、協同組合だけでは運営が難しかったことから、2018年4月にDCビーガン・ケータリング(D.C. Vegan Catering)と3年間の契約を締結。DCビーガン・ケータリングによる運営で、ベジタリアン・ビーガン向けのイタリア・アメリカン風家庭料理(plant-based Italian/American comfort food)が提供されるようになりました。

DCビーガン・ケータリングによる運営が始まり、ニューディール・カフェの経営は回復しましたが、2020年にパンデミックが発生し、2020年12月1日から休業。
休業期間中、店内の天井、照明、音響設備、バーをリニューアル。そして、2021年6月から、先に紹介したグリーンベルト協同組合スーパーマーケット・薬局(Greenbelt Co‑op Supermarket and Pharmacy)と提携。スーパーマーケット・薬局がレストラン、バーを運営し、ニューディール・カフェの協同組合は音楽やアートのプログラムを担当することとなりました。

しかし、経営は安定せず、2024年にグリーンベルト協同組合スーパーマーケット・薬局との提携を解消。2024年11月から、新たに、シェフ兼音楽家ケニー・ヒリアード(Kenny Hilliard)氏が運営者として就任しました。これにより、フロント・ルームはラウンジ風に改装され、バック・ルームは音楽やイベントの専用ホールとして整備されました。その一方で、子どもエリアやチェスクラブなど一部のコミュニティ活動が廃止されたということです。

このようにニューディール・カフェの運営は変化してきましたが、協同組合は今も存続しており、2025年でオープンから30周年を迎えています*7)。

(ニューディール・カフェ)

(フロント・ルーム)

(バック・ルーム)

■DIYのための工具貸出
グリーンベルト・メーカースペース協同組合(Greenbelt Makerspace Cooperative)は、現在、グリーンベルトで最も新しい協同組合です。
グリーンベルト・メーカースペースは、最初から協同組合として設立されたわけではありません。2010年、後にメーカースペースの創設母体となるグリーンステムズ(GreenSTEMs Inc.)という非営利法人が設立されました。STEMとは、Science(科学)、Technology(テクノロジー)、Engineering(エンジニアリング)、Mathematics(数学)の頭文字を表します。
2013年4月、科学、テクノロジー、アート、クラフト(工芸)、その中でも特にコンピュータサイエンス、ロボティクス、マイクロエレクトロニクスに焦点をあてた活動を行う場所として、グリーンベルト・メーカースペースがオープンしました。
2017年、グリーンベルト・メーカースペースの所有権が、グリーンステムズから、新たに設立された協同組合に移管。従来のプログラムやリソースの提供は継続され、コミュニティとの連携を重視した、修理カフェ(Repair Cafes)などのイベントが開催されるようになりました。
2021年、ルーズベルト・センターで工具貸出図書館(tool lending library)が開始。電気ドリル、ハンマー、ペンチ、スパナ、電動のノコギリ、剪定はさみをはじめ様々な工具が貸し出されています。
工具貸出図書館の目的は、住宅などのDIYやメンテナンスをする工具を個人で購入・保管する負担を減らすこと、DIYやメンテナンスの知識やトレーニングの機会を提供すること。収入に応じて20〜50ドルの年会費を払って協同組合のメンバーになることで、追加料金なしで、1回最大8点までの工具を1週間借りることができます。

現在、グリーンベルト・メーカースペースの活動の中心は工具貸出図書館ですが、科学、テクノロジー、アート、クラフト(工芸)のプログラムの開発や、修理カフェなどのイベントも行われています*8)。


ここでみてきたようにグリーンベルトでは、街開き当初から、住民が自分たちで出資して協同組合を設立し、街に必要な場所やサービスを作り出すことが続けられてきました。それゆえ、今でも協同組合の精神(cooperative spirit)が継承されていると言われることもあります*9)。
コミュニティとは、誰かが作ってくれるサービスでなく、人々が自分たちの手で作っていくものであること。グリーンベルトの協同組合の歴史からはこのことを教えられます。


■注

  • 1)グリーンベルトについては、こちらの記事も参照。
  • 2)グリーンベルト以外の街でも、草創期の入居者が「パイオニア」と呼ばれることがある。
  • 3)Greenbelt Museumの「Greenbelt History」のページより。
  • 4)本稿での協同組合についての情報は、Greenbelt News Reviewの記事、Meetre(2022a, 2022b, 2022c)を参照した。
  • 5)地域新聞の全てのバックナンバーは、Greenbelt News Reviewの「Archives」のページで公開されている。
  • 6)Greenbelt Co‑op Supermarket and Pharmacyの「About Us」のページより。
  • 7)New Deal Caféの「A SHORT HISTORY OF THE NEW DEAL CAFE」のページ、30年の歩みをまとめた『The New Deal Cafe 1995-2025』October 2025、および、田中・若林(2009)より。
  • 8)Greenbelt MakerSpaceの「History」のページ、および、Harris(2022)より。
  • 9)The City of Greenbeltの「Advantages of Greenbelt」のページには次のように書かれている。
    「Today, many of the original features of this planned community still exist. The cooperative spirit and the strong sense of community are passed on to new generations. 」

■参考文献