『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

地域のモビリティ(移動すること)の課題に向き合うために

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2016年6月25日(土)、「居場所ハウス」で、日建設計ボランティア部「逃げ地図」メンバーとIbasho Japanのメンバーによる4回目のワークショップを開催しました。
以前ご紹介した通り、この日のワークショップのテーマはモビリティ(移動すること)です。これまで3回のワークショップにおいて、「居場所ハウス」のある大船渡市末崎町で切実な課題として浮かび上がってきたもの。
多くの場合、モビリティ(移動すること)にまつわる課題を解決しようとすると、行政など大きなところに陳情するか、個人・家族で抱え込むかという両極端な考えになりがち。例えば、店舗を誘致して欲しい、町内に消防車を配備して欲しい、道路に歩道や照明を付けて欲しいといったように陳情するか、車が運転できなくなったら我慢する、家族に送ってもらうなど、個人・家族として解決するか。
今回のワークショップの目的は、陳情か抱え込むかという両者にある様々な可能性について考える機会にすることです。

地域の課題を考えるとなると、ワークショップは重い雰囲気になりがち。個々人に密接に関わる課題であるからこそ重い雰囲気になるのは当然ですが、少しでもそれを和らげるため、今回は日建設計ボランティア部「逃げ地図」メンバーの方々がワークショップの進め方を工夫してくださいました。


13:40頃、ワークショップがスタート。最初にクイズ形式で、高齢化やモビリティ(移動すること)にまつわる現状を共有していきました。65歳以上の高齢者で通院している人の割合は? 交通事故のうち65歳以上の人が関わるものの割合は? 80〜89歳の人の中で要介護の人の割合は? という現状に関する質問を、大船渡出身の演歌歌手は?、大船渡出身のマラソン選手は? などの質問と交えることで考えてもらいました。当然かもしれませんが、大船渡出身の演歌歌手、マラソン選手については即座に回答が出されました(新沼謙治、佐々木七恵)。クイズ形式のためか、和やかな雰囲気でワークショップをスタートすることができたと思います。

こうした現状をふまえた上で、身近なモビリティ(移動すること)に関する課題を振り返ってもらうため、それを川柳として表現してもらいました。川柳はちょっと・・・ という参加者もおられましたが、日常的に短歌を詠んでおられる方は、短冊を受けとするとすぐに川柳を書いておられました。その方の句は「後期高齢/車の免許/返せない」。末崎町で車なしで生活することの不便さが伺えます。この他、同じく認知症になったらどうしようかと思うが車は手放せないという句を詠んだ方、専用の駐車場がない場所があるけど車で行かざるを得ないという句を詠んだ方などがいました。

この後、川柳からは離れて、改めてモビリティ(移動すること)にまつわる現状、課題について意見交換しました。参加者からは、次のように様々な意見が出されました。

  • 以前、試しにバスに乗って買物に出かけたが、バスだと自由が効かないことを思い知らされた。買物をして帰ろうと思っても、帰りのバスがなかった。
  • 碁石方面に向かうバスは、1便に6人乗ったら採算がとれると言われ、バスに乗ろうという運動をしたことがあった。しかし、6人も乗らなかったため、バスの本数は減ってしまった。
  • 末崎町内を巡回するバスを社会実験として運行したこともあったが、利用者は少なかった。末崎町内だけの巡回だったので、町外に行くには何度も乗り換えをする必要があった。
  • 何店舗が移動販売車が来ているが、現在はあまり利用している人はいない。しかし、これからはますます必要になってくると思う。もっと新鮮なものが売っていればよいのだが。
  • タクシーやBRTの無料チケットがもらえるとかメリットがないと、なかなか免許返納は進まない。
  • 都会の人に比べて、田舎の人は足腰が弱い。都会だったら駅まで歩く必要があるが、田舎だと庭が広いから、玄関のすぐ前まで車で行く。家から50m先にあるゴミ捨て場まで、車でゴミを捨てに行く人もいる。
  • 若い時ならいいが、歳をとると事故にあった時の責任がとれない。だから、極力、他人を車に乗せないようにと家族から言われてる。だから、近所の人同士で送り合うというのは難しい。自分の方から「どうぞ乗ってください」と言わないようにしている。
  • 不便なことがあっても何かを要望するのではなく、現実はこういうものだと我慢して暮らしている人が多い。

自分もいつか運転免許証を返す時がくるのはわかる。けれども公共交通は不便過ぎて、車がなくなったらどうして生活すればよいのか・・・ これらの意見にはモビリティ(移動すること)に対する切実さが現れています。

こうした課題を解決するためのヒントとして、最後に各地で行われている事例を見ていただきました。電動の三輪車、セグウェイ(電動の立乗り二輪車)、電動カート、移動図書館、民間の自動車を活用した有償運送サービス、低速の電動コミュニティバスなど。これらの中で参加された方が興味を示されたのが、民間の自動車を活用した有償運送サービス、低速の電動コミュニティバスの2つ。
「逃げ地図」メンバーの1人が最後に「モビリティに求めるものもコミュニティ」という川柳でまとめてくださったように、モビリティ(移動すること)を解決するために、個人個人で取り組むものではなく、有償運送サービスとコミュニティバスという地域として取り組むものに興味が示された、ということは意味があったと思います。上に書いた通り、陳情か抱え込むかという両者にある可能性を考える機会にするというワークショップの目的は果たされたと思います。

もちろん、有償運送サービスにしても、コミュニティバスにしても、実現することは容易ではありません。地域の方々の実現したいという思いも欠かせません。
ただし、いずれも既に実践されているもの。資金はいくらぐらい必要なのか、法的にどのような問題を解決する必要があるのか、事故がおきた場合はどうするのかなどの情報は調べて、地域の方々にお伝えしたいと考えています。こうした情報をお伝えした上で、実現を目指すかどうかについて意見交換できればと思います。

これとは別に、ワークショップ後に「逃げ地図」メンバーとIbasho Japanのメンバーで話をしていた時に出てきたのが、BRTやバスを使って買物に行ったり、通院したりすることは、地域の方々が思っているほどには不便ではないのではないか、ということ。
現在、BRT大船渡線は1日26往復運行しています。これは1時間に1〜2本の割合。確かに車で買物したり、通院したりすることに比べれば不便かもしれない。けれども、極端に不便というわけでもない。例えば、「居場所ハウス」からBRTを使って買物に行くためには何分かかるのか、何歩ぐらい歩くことになるのか、運賃はいくらか(ガソリン代と比べてどうか)などを可視化して表現することも意味があるのではないか。こうした可能性も考えています。