『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

コストを地域の資源へ:移動することが生み出す価値に注目する

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日建設計ボランティア部「逃げ地図」メンバーとIbasho Japanのメンバーは、大船渡市の「居場所ハウス」において地域の課題と、それを解決する手がかりを発見するためのワークショップを開催してきました。
これまでに2015年6月27日(土)10月17日(土)12月19日(土)の3回のワークショップを開催。「居場所ハウス」がある大船渡市末崎町のマップを使って、地域にはどのような課題があるかを出し合うワークショップです。
次回のワークショップでは、これまでに出された課題を共有し、それを解決するために具体的にできることを見つける機会にしたいと考えています。

4月末、「逃げ地図」+Ibasho Japanのメンバーで、次回のワークショップに向けた打合せを行いました。

打合せでは、これまでの3回のワークショップから、主催者側である「逃げ地図」+Ibasho Japanのメンバーが何を学んだかを、地域に還元する必要があるという意見が出されました。そこで改めて3回のワークショップで出された課題を振り返ることで、大船渡市末崎町ではモビリティ(移動すること)に関わることが、最も切実な課題になっていることを確認。
例えば、町内には店舗が少ないので車がないと不便、119番に電話してから救急車で病院に到着するまで1時間はかかる、道路に歩道がついておらず危険、照明が少なく夜になると道が暗いといった現状、今は車を運転しているが、車を運転できなくなったら困るという将来の不安など、モビリティに関わる多くの課題があげられていました。
モビリティに関わる課題を解決しようとすると、行政に陳情するしかないというように話が大きくなりがち。もちろん行政に陳情するのも1つの方法だが、ささやかであっても自分たちでできる活動をまず始める必要がある。そうでないと行政への依存ばかりが高まり(それは結局は行政に負担をかけることにもつながる)、そのような依存の姿勢では、地域での暮らしは変わらない。

こうした話をしながら、具体的にどのような活動ができるか、そのためにヒントになる事例はないか、などについて話を進めていきました。
話し合いを通して浮かび上がってきたのが、移動することが価値を生むということ。これまでは人が移動するにせよ、物を運ぶにせよ、移動することはコストが発生していました。それに対して少子高齢化が進む地域が抱える課題を解決するためには、移動することが価値を生み出すというように考え方を変える必要があることに気づかされました。人や物が移動するからこそ関わりも生まれ、暮らしに必要なものも入手できるということです。

「居場所ハウス」のオープンを提案したワシントンDCのIbashoが掲げる理念は、高齢者が面倒をみられる存在としてでなく、自分にできる役割を担いながら地域を構成するメンバーとして暮らし続けることができる社会の実現。そして、今回の「逃げ地図」+Ibasho Japanで取り組んでいるワークショップで見えてきたのは、お金を払って移動するのではなく、移動すること自体が価値を生み出すこと。
共通しているのは、これまではコストと見なされてきたもの(高齢者の存在、移動)が、実は豊かな価値を生み出す資源であるという価値観の転換。このような価値観の転換、新たな価値観を示すという役割が求められていると感じました。そしてこれが、専門家の役割の1つだと思います。

日々生活していると、何かおかしいと感じることはあってもそのままやり過ごしてしまったり、そのしわ寄せを個人、あるいは、家族で抱え込んでしまったりすることがあります。モビリティ(移動すること)に関わることがまさにそう。車を運転できなくなったら不安だが先のことは考えないようにしておこう、車を運転できなくなったら家族内で解決するしかない、我慢するしかない。ここからは、車が運転できずとも豊かに暮らせる地域を実現したい、という動きはなかなか生まれてこない。
だからこそ価値観の転換や、新たな価値観を示すことが求められるのだと思います。もちろん新たな価値観を示すことと、それを目指して具体的な活動を行うこととは別ですが、価値観を示さないことには何も始まらないのかもしれません。
「居場所ハウス」で予定している次回のワークショップでは、こうした議論をふまえたものにしたいと考えています。