『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

シンガポールの団地における歩車分離のラドバーン方式@タンパニーズ

千里ニュータウンは、海外のニュータウンや計画住宅地から様々なことを学んで計画されました。その1つにラドバーン方式があります。

ラドバーンは、アメリカのニュージャージー州の計画住宅地の名前で、この計画住宅地で採用された歩車分離のため方法がラドバーン方式という名前で知られています。これはスーパーブロック方式を採用して、車はスーパーブロックの外周道路からアクセス。そして車道の先端をクルドサック(袋小路)にし、クルドサック(袋小路)の先端をフットパス(歩行者専用道路)で結ぶことで、歩行者は車にあわずに学校や公園などに移動できるという方法です。
ラドバーンは戸建住宅地ですが、千里ニュータウンでは戸建住宅地だけでなく、URの団地や、後期に開発された府営千里南住宅や府営千里桃山台住宅の団地でもラドバーン方式が採用されました。

シンガポールでもラドバーン方式になっている団地を見かけました。シンガポールでは国民の約8割がHDB(Housing and Development Board:住宅開発庁)が建設する住宅に住んでいますが、ラドバーン方式を見かけたのはタンパニーズ(Tampines)という団地のタンパニーズ・パームウォーク(Tampines Palmwalk)です。
タンパニーズ・パームウォークが、直接的にラドバーンの歩車分離の方式を参考にしたかどうかはわかりませんが、国を越えた団地の計画手法の共通点として興味深いと思います。

タンパニーズ(Tampines)

タンパニーズはシンガポール東部に位置し、MRT東西線(East-West Line)の終点から2駅目(終点はPasir Ris)に位置します。また、MRTダウンタウン線の3駅(Tampines West、Tampines、Tampines East)がTampines内にあります。
タンパニーズは1970年代後半からHDBによる開発が進められてきました。HDBギャラリーの展示によると、タンパニーズに最初のHDBプロジェクトが完成したのは1981年で、HDBが1992〜2024年まで用いていた分類では「成熟した団地」(Mature estate)に分類。2018年時点の統計では、タンパニーズは、HDBの居住者数が232,700人(27の団地の中で3番目に多い)、面積は1,200ha(27の団地の中で3番目に大きい)と規模の大きな団地となっています。

ラドバーン方式が採用されているタンパニーズ・パームウォーク(Tampines Palmwalk)は、HDBタンパニーズの住棟が建ち並ぶブロックの中央を南北に通る長さ約450mの道路で、歩行者と自転車のみが通行可能。北側でタンパニーズ・セントラルパーク(Tampines Central Park)につながっています。南側は車道(Tampines Ave 3)を越えた先にスーパーマーケットをはじめとする店舗が集まるエリアがあります。

タンパニーズ・パームウォーク(Tampines Palmwalk)

タンパニーズ・パームウォークの南側には、「TAMPINES PALMWALK」という大きな文字。両側のHDBタンパニーズの住棟の壁面には、ライブリー・プレイス・プログラム(Lively Places Programme)によって描かれたミューラル(壁画)があり、タンパニーズ・パームウォークのゲートのようになっています。
タンパニーズ・パームウォークはここから真っ直ぐ北に走っています。パームウォークの名前の通り、ヤシの木(パームツリー)が植えられているのが見えます。

車道(Tampines Ave 3)を越えた南側には、ショップ・T・ウェスト(Shop T West)という店舗が集まるエリアがあります。

タンパニーズ・パームウォークに沿って、ベンチの置かれたコーナー、コミュニティ・ガーデン、屋根付きの遊び場など多様な場所がもうけられています。

タンパニーズ・パームウォーク自体には屋根はついていませんが、両側に屋根が付いた通路が設けられている部分もあります。シンガポールは年間を通して夕立があるため、雨に濡れずに移動することができます。

タンパニーズ・パームウォークに沿ってヤシの木が植えられているのに加えて、左右のHDBタンパニーズの住棟前にも植栽がされているため、緑が多い印象を受けます。

タンパニーズ・パームウォークは、様々な場所が設けられていること、緑が多いこと、そして、左右のHDBタンパニーズの住棟で過ごしている人々の気配がすることから(単調でない)変化に富んだ景観を生み出しており、歩きやすい場所になっていると感じました。

1ヶ所、円形の車寄せ(ドロップオフ)が設けられているのを見かけました。ラドバーンにおけるクルドサック(袋小路)のようになっており、タンパニーズ・パームウォークでラドバーン方式が採用されているのがよくわかる場所です。HDBタンパニーズの住棟の間に設けられた駐車場へは、ブロックの外周道路からアクセスします。

ブロックの外周道路沿いにもうけられた自動車の出入り口。

タンパニーズ・パームウォークは北側で、タンパニーズ・セントラルパークにつながっています。奥に見えるのが、公園内の時計台。

タンパニーズ・セントラルパーク(Tampines Central Park)

タンパニーズ・セントラルパークは、東西が約450m、南北が約80mの細長い公園。子どもの遊び場、フィットネスコーナー、バスケットボールコート、ドッグパーク、ステージのような場所などが設けられています。東側を除いた三方をHDBタンパニーズの住棟に囲まれています。

アワ・タンパニーズ・ハブ(Our Tampines Hub)

タンパニーズ・セントラルパークの東は、巨大な複合施設アワ・タンパニーズ・ハブ(Our Tampines Hub)があります。

「2017年8月6日、アワ・タンパニーズ・ハブ(Our Tampines Hub)が正式にオープンしました。シンガポール初のコミュニティとライフスタイルを統合したハブで、各種のスポーツ施設、地域図書館(regional library)、ホーカー・センター、パブリック・サービス・センター、シアター(Festive Arts Theatre)をはじめ、住民や来訪者にとって、便利で、楽しめる施設が1つ屋根の下に入居しています。」
※HDBの「Tampines」のページの翻訳。

アワ・タンパニーズ・ハブには、上で紹介されている「各種のスポーツ施設、地域図書館(regional library)、ホーカー・センター、パブリック・サービス・センター、シアター」に加えて、コミュニティガーデン、ウォーキングやジョギングのためのコースなども設けられています。

アワ・タンパニーズ・ハブを通り抜けると、MRTのタンパニーズ駅の方に行くことができます。

(更新:2023年9月11日)