シンガポールでは、国民の約8割がHDB(Housing and Development Board:住宅開発庁)が開発する住宅に住んでいます。
シンガポール北東部のプンゴル(Punggol)は、現在、HDBが建設を進めているニュータウンで、2000年に最初のHDBのプロジェクトが完成。2017年11月には新世代の近隣センターであるオアシス・テラス(Oasis Terraces)、2022年7月にシーフロントの新世代の近隣センターであるノースショア・プラザ(Northshore Plaza)、2024年9月に複合施設のワン・プンゴル(One Punggol)がオープンしています。
プンゴルの中で、現在開発が進められているのがプンゴル・デジタル地区(Punggol Digital District:PDD)。プンゴル・デジタル地区へのアクセスのために、MRT北東線(North East Line)の延伸が進められ、2024年12月10日、プンゴル・コースト駅(Punggol Coast Station)が開業しました*1)。
プンゴル・デジタル地区は、シンガポール工科大学(Singapore Institute of Technology:SIT)のキャンパスと、JTCコーポレーションのビジネスパークを中核とするシンガポール初のスマート地区(smart district)で、次のような目的が掲げられています*2)。
- プンゴルの住民のためのコミュニティの遊び場であり、緑の中心(A community playground and green heart for all residents of Punggol)
- 誰もが容易に移動できる自家用車に依存しない(カー・ライトな)地区(A car-lite precinct that allows everyone to travel with ease)
- 活気ある経済と学びのハブ(A vibrant economic and learning hub)
- 産業界と学術界の共有スペースのある試験的な企業地区(A pilot Enterprise District, with shared spaces between industry and academia)
(プンゴル・デジタル地区)
プンゴル・デジタル地区に建ち並ぶシンガポール工科大学(SIT)のキャンパスと、JTCコーポレーションのビジネスパークの巨大な建物は近未来的な印象を受けます。その一方で、街の歴史を継承する取り組みがされていることも、プンゴル・デジタル地区の興味深い点です。それが、プンゴル・ヘリテージ・トレイル(Punggol Heritage Trail)です。
プンゴル・ヘリテージ・トレイル
プンゴル・ヘリテージ・トレイルは、かつてのプンゴル道路(Punggol Road、現在のオールド・プンゴル道路(Old Punggol Road))を再整備した歩行者専用道。南のプンゴル・ウォーターウェイ公園(Punggol Waterway Park)と北のプンゴル・ポイント公園(Punggol Point Park)を結ぶ1.3kmの道で、途中でプンゴル・デジタル地区の中心部を通り抜けます。かつてのプンゴル道路の特徴である起伏に富んだ地形、沿岸林の生態系、既存の緑地などが保全されています。2025年8月23日、プンゴル・ヘリテージ・トレイルの最初の区間として、プンゴル・ノース・アベニュー(Punggol North Ave)と、プンゴル・デジタル地区の中心部を走るキャンパス・ブールバード(Campus Boulevard)の間の400mが一般公開されました*3)。
(キャンパス・ブールバードとの交差点)
(プンゴル・ヘリテージ・トレイル)
(プンゴル・ノース・アベニューとの交差点)
地形や植生の保全に加えて、街の歴史を継承も行われています。1つは、バス停を再現した休憩スペース。往年のオレンジと白のバス停が、実際にバス停があった場所に再現され、休憩スペースとされています。
(昔のバス停を再現した休憩スペース)
もう1つは、街の歴史を紹介するパネル。一般公開された400mの区間には、プンゴルの名前の由来、プンゴル道路、農業の始まり・養豚業、プンゴル動物園(既に閉園になった私設の動物園)という4枚のパネルが設置。また、バス停を再現した休憩スペースにも、プンゴル道路の歴史を紹介するパネルが設置されています。
(街の歴史を紹介するパネル)
最新の街であるプンゴル・デジタル地区が、街の歴史や地形、植生を保全するプンゴル・ヘリテージ・トレイルが組み合わせて計画、開発されていることは、現在の街のあり方を考えるうえで非常に興味深いと感じます。
■注
- 1)Vanessa Paige Chelvan「Bridging heritage and community needs: A look at Punggol Coast MRT station before Dec 10 opening」・『The Straits Times』December 1, 2024
- 2)URA(Urban Redevelopment Authority)の「Punggol Digital District」のページ。
- 3)National Parks「NParks opens first stretch of Punggol Heritage Trail with features of Old Punggol Road retained」August 23, 2025
Samuel Devaraj「Punggol Heritage Trail opens at site of old road」・『The Straits Times』August 23, 2025





















