『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

シンガポールのPOPOS:民有地に作られたパブリック・オープンスペース

POPOSと呼ばれる場所があります。「Privately Owned Public Open Space」の頭文字をとったもので、民有地でありながら、都市のゾーニング条例などの土地利用法に基づいて、法的にパブリックな場所として公開することが要求される空間、つまり、民有地に作られたパブリック・オープンスペースです*1)。

POPOSを世界で初めて導入したのはニューヨークで、1961年のニューヨーク市のゾーニング規則(Zoning Resolution)がその起源だと言われています。目的は、マンハッタンにオープン・パブリック・スペースの創出を促進すること*2)。その後、アメリカのサンフランシスコボストン、イギリスのロンドン、韓国のソウルをはじめ世界の都市で導入されていきました。シンガポールもPOPOSを導入している都市(国)の1つです。

シンガポールのPOPOS

POPOSのデザイン・ガイドライン

シンガポールの都市は、人口増加に伴って高密度化しています。そのため、民有地に適切に設計されたパブリック・スペースをもうけることで、都市生活を促進するとともに、居住、就業、レクリエーションのためのより魅力的な都市を実現すること*3)。シンガポールでPOPOSが導入された背景にはこのような状況があります。
2017年、URA(Urban Redevelopment Authority:都市再開発庁)が、POPOSのデザイン・ガイドラインを発表。パブリック・スペースの提供が義務づけられる開発、および/または、1階の屋根付きのパブリック・スペースに対する延べ床面積免除のための最低限の基準を定めたもので、2022年6月に改訂版が発表されています*4)。

デザイン・ガイドライン*5)では、POPOSの一般的な形態として3つが紹介されています。

  • シティ・ルーム(City Rooms):建物1階の屋根付きのパブリック・スペース
  • プラザ(Plazas):通常舗装されており、2面以上が建物に囲まれた屋外のパブリック・スペース
  • 都市公園(Urban Parks):都市の緑地として機能すると同時に、周辺建物の魅力を高める役割を果たす

そして、POPOSが満たすべき要件として、以下の5つがあげられています。

  • ①開発全体の形態と統合されていること( Integrated with the overall form of the development)
  • ②誰もがアクセス可能で、周辺との接続が良好であること(Accessible to all users and well connected to the surrounding area)
  • ③1日中、そして、様々な気象条件下でも快適に利用できること(Comfortable to use throughout the day and in a variety of weather conditions)
  • ④能動的・受動的なレクリエーションを促進する設備・施設が十分に整備されていること(Well provided with amenities to encourage active and passive recreation)
  • ⑤全ての利用者にとって安全・安心であること(Safe and secure for all users)

これを実現するため、デザイン・ガイドラインでは計画・レイアウト、アクセス・動線、利用者の快適性、ランドスケープ、設備・施設、案内板(サイン)の6点について様々な規定がなされています。


POPOSでは、統一された案内板を掲示することが定められています。案内板に記載されているように、シンガポールのPOPOSは24時間、開放されています。

(POPOSの案内板)

POPOSの一覧

URA(都市再開発庁)による統合地図ポータル「URA SPACE」によると、2025年9月時点で、23ヶ所のPOPOSが存在、10ヶ所が計画中となっています。

(シンガポールのPOPOS一覧)

場所場所の種類住所面積(m2)屋根設備・施設
タンパニーズ・イースト・コミュニティ・クラブTampines East Community Clubコミュニティ・クラブ10 Tampines Street 23486屋根付き
キャンパスコート・シンガポール工科大学(SIT)プロット2Campus Court, SIT Plot 2大学1 Punggol Coast Road4657屋根付き座席、テーブル、大型天井ファン
キャンパスハート・シンガポール工科大学(SIT)プロット1Campus Heart, SIT Plot 1大学11 New Punggol Road1460屋根付き座席、大型天井ファン
プンゴル・デジタル地区Punggol Digitial Districtスマート地区92 Punggol Way6585屋根付き座席、大型天井ファン
プンゴル・リージョナル・スポーツセンターPunggol Regional Sport Center(計画)11 Sentul Cres3210屋根付き座席、大型天井ファン、WiFi、AVシステム、遊具ネット、水遊び場
ワン・プンゴル・タウン・ハブOne Punggol Town Hub統合型ライフスタイル・ハブ1 Punggol Drive5305屋根付き座席、大型天井ファン、ステージ、AVポイント
センカン・グランドモールSengkang Grand Mallショッピングモール(住宅、ホーカー・センター)70 Compassvale Bow500屋根付き座席、大型天井ファン、AVポイント、LANポート
ファーンベールコミュニティ・クラブFernvale Community Clubコミュニティ・クラブ21 Sengkang West Ave457屋根付き座席、大型天井ファン
コヴァン・コミュニティ・クラブKovan Community Club(計画)——311屋根付き座席、大型天井ファン、プロジェクター・スクリーン、給水器
パヤ・レバー・クォーターPaya Lebar Quarterショッピングモール(オフィス、住宅)10 Paya Lebar Road3589一部屋根付き座席、テーブル
レントア・モダンLentor Modern(計画)3 Lentor Central1211——
タン・クイ・ランTan Quee Lan(計画)——411屋根付き
グオコ・ミッドタウンGuoco Midtownオフィス、住宅、商業施設128 Beach Road1448屋根付き座席、テーブル、水の景観
サウス・ビーチSouth Beachオフィス、ホテル、住宅、商業施設26 Beach Road4400一部屋根付き座席
オデオン331・333Odeon 331 & 333オフィス331, 333 North Bridge Road611一部屋根付き座席
シンガポールマネジメント大学(SMU)-X・AS-2SMU-X AS-2大学40 Stamford Road1000屋根付き自然換気
シンガポールマネジメント大学(SMU)・AS3SMU AS3大学10 Canning Rise784屋根付き
リアン・コートLiang Court(計画)177 River Valley Road3130屋根付き座席、水の景観
キャピタスプリングCapitaSpringオフィス、商業施設、ホーカー・センター88 Market Street753屋根付き座席
キャピタグリーンCapitaGreenオフィス138 Market Street557屋根付き座席
マリーナ・ワンMarina Oneオフィス、住宅、商業施設7 Straits View6000一部屋根付き座席、テーブル
アジア・スクエア・タワーAsia Square Towerオフィス、ホテル、商業施設12 Marina View4647屋根付き座席、テーブル、水の景観
キャピタスカイCapitaSkyオフィス79 Robinson Road406屋根付き座席
AXAタワーAXA Tower(計画)8 Shenton Way2339屋根付き座席、水の景観
グオコ・タワーGuoco Towerオフィス、ホテル、住宅、商業施設1 Wallich Street2800屋根付き座席、大型天井ファン、ステージ、AVポイント
ケッペル・タワーKeppel Tower(計画)10 Hoe Chiang Road749——
ワン・ホランド・ビレッジOne Holland Villageショッピングモール(オフィス、住宅)7 Holland Village Way446屋根付き座席
ロチェスター・モールRochester Mallショッピングモール(ホテル、住宅)1 Rochester Park680一部屋根付き
ウィルマー・インターナショナル本社Wilmar International Limited Headquartersオフィス28 Biopolis Rd1114屋根付き座席、水の景観
シンガポール国立大学・COM 3NUS COM 3大学8 Kent Ridge Drive700屋根付き
ザ・リンクThe Linq(計画)118 Upper Bukit Timah Road223屋根付き座席
ウェスト・モールWest Mall(計画)1 Bukit Batok Central612屋根付き座席、大型天井ファン
JTCブリム・フェーズ1JTC Bulim Pharase 1(計画)1 Bulim Lane 22056屋根付き座席、テーブル
  • URA(都市再開発庁)の統合地図ポータル「URA SPACE」に掲載の「Privately Owned Public Spaces」の情報を元に作成(閲覧日:2025年9月11日)。
  • 場所の種類は、本稿著者による分類。
  • 「Sheltered plaza」は屋根付き広場、「Semi-sheltered plaza」は一部屋根付き広場と表記。
  • 「——」は記載のない項目。

既に完成している23のPOPOSをみると、大半がダウンタウンに位置していますが、HDB(Housing and Development Board:住宅開発庁)*6)が開発するタンパニーズ(Tampines)、プンゴル(Punggol)、センカン(Sengkang)というダウンタウンから離れた東部、及び、北東部の街にもPOPOSが作られていることがわかります。

POPOS面積は、6,000m2を超える大きな場所から、400m2ほどの場所もあります。施設・設備(Amenities)としては、23のPOPOSのうち、18ヶ所が屋根付き広場(Sheltered plaza)、5ヶ所が一部に屋根のある広場(Semi-sheltered plaza)となっています。屋根で全体が覆われているか、部分的に覆われているかの違いはありますが、全てのPOPOSには屋根があります。
座席は18ヶ所、テーブルは5ヶ所、大型天井ファン(HVLSファン)は7ヶ所のPOPOSにもうけられています。その他、せせらぎ、滝、噴水などの水の景観(water feature)、音響・映像の接続ポイント(AVポイント)、ステージなどのあるPOPOSもあります。

いくつかのPOPOSをご紹介したいと思います。

オフィス

キャピタグリーン(CapitaGreen)では、オフィスのエントランスロビーの外にPOPOSがもうけられています。面積は557m2と小さいものの、柱の間に置かれた丸いベンチに座っている人も多く、魅力的な場所だと感じました。

(キャピタグリーン)

オデオン331・333(Odeon 331 & 333)は2棟のビルの間の1階部分がPOPOSになっています。床は赤で統一。所々、岩のように盛り上がった部分があり、この部分に座れるようになっています。赤いブランコも置かれるなど、遊び心に溢れたデザインとなっています。

(オデオン331・333)

オフィス、ホテル、住宅、商業施設などの複合開発

オフィス、ホテル、住宅、商業施設などが複合開発された建物には、面積の広いPOPOSがもうけられる傾向があります。

マリーナ・ワン(Marina One)は、4棟の高層の建物の間のグリーン・ハート(Green Heart)と呼ばれる空間がPOPOSになっています。面積は6,000m2と広く、植物園の中にいるような印象を受ける場所です。

(マリーナ・ワン)

アジア・スクエア・タワー(Asia Square Tower)は、2棟の高層の建物の間の広場がPOPOSになっています。面積は4,647m2。1階の広場を見下ろす位置にはフードコートがあります。オフィスワーカーと思われる人を中心に、多くの人々が過ごしていました。

(アジア・スクエア・タワー)

サウス・ビーチ(South Beach)は、建築家のノーマン・フォスター(Foster+Partners)が設計。特徴的な形態をした2棟の高層の建物の足元がPOPOSになっています。POPOSの面積は4,400m2。地階レベルと連続した空間になっており、MRT環状線(Circle Line)のエスプラネード駅(Esplanade Station)に直結しています。

(サウス・ビーチ)

グオコ・ミッドタウン(Guoco Midtown)のPOPOSは、1階にもうけられています。面積は1,448m2。POPOSを囲むようにレストランやカフェがあり、屋外席としても利用されているようでした。

(グオコ・ミッドタウン)

キャピタスプリング(CapitaSpring)は高さ280m、51階建ての高層の建物。シンガポールでは、現在、290mのグオコ・タワー(Guoco Tower)に次ぐ高さとなっています。キャピタスプリングの2階、3階にはホーカー・センター(Hawker Centre)があります。POPOSは、オフィスのエントランスロビーの外にもうけられており、屋台のようなカフェを見かけました。

(キャピタスプリング)

ショッピングモール

いくつかのショッピングモールにもPOPOSがもうけられています。POPOSのあるショッピングモールは、いずれも住宅、ホテルとの複合開発がなされています。

パヤ・レバー・クォーター(Paya Lebar Quarter)は、MRT東西線(East-West Line)・環状線(Circle Line)のパヤ・レバー駅(Paya Lebar Station)に直結する複合施設で、ショッピングモール、オフィス、住宅から構成。POPOSはショッピングモールとオフィス棟の間にもうけられた3,589m2と大きな空間で、POPOS内、そして、POPOSに面した部分にはカフェ、レストランがあります。訪れた時は、服飾品を売るポップアップストアも開かれていました。

(パヤ・レバー・クォーター)

センカン・グランドモール(Sengkang Grand Mall)は、HDBが開発する北東部のセンカン(Sengkang)に位置。MRT北東線(North-East Line)のブアンコック駅(Buangkok Station)と、ブアンコック・バス・インターチェンジ(Buangkok Bus Interchange)に直結しています。上層階は住宅となっています。1階の広場がPOPOSで、駅やバス・インターチェンジへの通り道でもあり、多くの人々を見かけました。POPOSを見下ろす2階には、ホーカーセンターがあります。

(センカン・グランドモール)

ワン・ホランド・ビレッジ(One Holland Village)は、ショッピングモール、オフィス、住宅の複合開発。ショッピングモールは3層からなり、1階レベルの細長い広場を囲むように店舗が配置されています。この広場がPOPOSで、訪れた時、一画では仮設の子どもの遊び場になっていました。テーブルでは、学校帰りの子どもが座って話をしたり、ノートパソコンを開いて作業をしている人も。ショッピングモールにはドッグランがあり、犬を連れて歩いている人を何人も見かけました。

(ワン・ホランド・ビレッジ)

大学

シンガポール国立大学(NUS)、シンガポールマネジメント大学(SMU)、シンガポール工科大学(SIT)の校舎にもPOPOSがもうけられています。

シンガポール国立大学(NUS)のキャンパスは広大で、キャンパス自体が公園のようですが、キャンパス内のCOM 3と呼ばれる校舎の足元がPOPOSになっています。

(シンガポール国立大学COM 3)

シンガポールマネジメント大学(SMU)はダウンタウンに立地する大学で、校舎の2ヶ所がPOPOSになっています。POPOSの1つは、AS3と呼ばれる校舎にもうけられています。校舎は、すぐ西にあるフォート・カニング公園(Fort Canning Park)への24時間の通り抜け通路として開放されており、通路の途中に、POPOSになっている広場があります。

(シンガポールマネジメント大学AS3)

シンガポール工科大学(SIT)のキャンパスは、現在、シンガポール初のスマート地区(smart district)として開発が進められているhttps://newtown-sketch.com/blog/tag/punggol-digital-district(Punggol Digital District)にあります。シンガポール工科大学内のPOPOSは2ヶ所。1ヶ所は、MRT北東線(North-East Line)のプンゴル・コースト駅(Punggol Coast Station)に直結するキャンパス・ハート(Campus Heart)と呼ばれる校舎の足元にもうけられています。POPOSになっている広場は、片方にステージ、もう片方に階段状の座席がもうけられており、ホールのような使い方もできるようです。
キャンパス・ハート(Campus Heart)のPOPOPSに連結して、プンゴル・コースト駅の上にもうけられた広場もPOPOSとなっています。

(シンガポール工科大学キャンパス・ハート)

(プンゴル・デジタル地区)

コミュニティの拠点

人民協会(People’s Association)が管理するコミュニティ・クラブなど、コミュニティの拠点となる建物のいくつかにもPOPOSがもうけられています。

ファーンベール・コミュニティ・クラブ(Fernvale Community Club)は、センカン(Sengkang)のLRTファーンベール駅(Fernvale Station)に近接する地上5階・地下1階の大きな複合施設。1階のアトリウムがPOPOSになっています。

  • 5階:□フィットネス・コーナー、□遊び場、□子どもの活動のための部屋(Children Activity Rooms)、□カンファレンス(会議室)
  • 4階:□多目的室、□コンコース、□クッキングスタジオ、□ダンススタジオ、□セミナールーム/アクティビティルーム、□音楽室
  • 3階:□ホーカー・センター/マーケット
  • 2階:□選挙区事務所(Constituency Office)
  • 1階:□コミュニティ・クラブ受付、□アトリウム、□多目的室
  • 地下1階:□駐車場

※EV脇のフロア案内より作成。

(ファーンベール・コミュニティ・クラブ)

ワン・プンゴル(One Punggol)は、プンゴルに2022年中旬にオープン(2024年9月にグランドオープン)した巨大な複合施設。「統合型ライフスタイル・ハブ」(integrated lifestyle hub)*7)として、以下のような様々な施設や機関が入居しています。

  • 5階:□ファンクションルーム、□カラオケルーム、□図書館、□多目的ホール、□バーベキュー・ピット、□コミュニティ・ガーデン、□サンデッキ、□スカイデッキ
  • 4階:□カンファレンスルーム、□選挙区事務所(constituency office)、□クッキングスタジオ、□透析センター、□KKH児童発達局(KKH Department of Child Development)、□図書館、□MENDAKI@Punggol、□多目的室、□音楽スタジオ、□シニアケア・センター、□SGO@Pasir Ris-Punggol
  • 3階:□アクティビティルーム、□チャイルドケア・センター、□ダンススタジオ、□図書館、□マネジメントオフィス、□セミナールーム、□フットサル・コート
  • 2階:□献血センター、□ホーカー・センター、□図書館
  • 1階:□ServiceSG Centre、□セレブレーション・スクエア(Celebration Square)、□ザ・プラザ(The Plaza)、□ユニティ・デッキ(Unity Deck)
  • 地下1階:□駐車場

※ワン・プンゴルの案内板より作成。

ワン・プンゴルでは、1階のセレブレーション・スクエア(Celebration Square)、ザ・プラザ(The Plaza)、ユニティ・デッキ(Unity Deck)の3つのエリアがPOPOSになっており、合わせて5,305m2の大きな空間となっています。

(ワン・プンゴル)


以前訪れたことのあるサンフランシスコでは、多くのPOPOSがオフィスのロビーや屋外空間でした。それに対して、シンガポールのPOPOSは、ここでご紹介したようにオフィスが多いものの、ショッピングモール、大学、コミュニティの拠点となる建物にもPOPOSがもうけられているのが興味深いと感じました。
また、URA(都市再開発庁)による統合地図ポータル「URA SPACE」に現在計画中のPOPOSが掲載されていたように、これからもシンガポールのPOPOSは増加していくと思われます。


■注